48話 力よりも言葉が強いこともある
結局、その後パーティがお開きになるまでボンドミル侯爵とジョエル様は、会場にはお戻りにならなかった。
私とアルセイム様、それからなぜかカルメア様まで一緒に頭を下げて回ったのだけれど、他のお客様は総じてこちらに好意的でありがたかったわね。
「まあ、あの父親にしてあの息子あり、ですからな。ボンドミルのお家は」
呆れ顔でそうおっしゃったのは、ドンデリオ子爵。私としてはあなたもあんまり良い印象ではないのですけれど、でもボンドミルのお家はそれ以上だったようで。
「そうなのですか?」
「ええ。領地の運営がそれなりにうまくいっていることもあって、金には困っておらんようなのですよ。それをいいことに、あちこちにばらまいてねえ」
「……使い方次第だと思うのですが、そういう風におっしゃるということはあまりよろしくない感じなのですか」
「まあ、そういうことですな。此度のご招待はさすがにそういうことはない、と思いますが」
「興味深いお話、ありがとうございます。閣下にお伝えしておきます」
……お金って、無限に湧いてくるものではないと思うのですけれど。エンドリュースの家はさほど金持ち、というわけでもないから、余計にそう思えるのかもしれないわね。
そんな感じで、どたばたも大してなくパーティは和やかに終わった。まあ、私の基準でドタバタって盗賊団の乱入とかそのあたりになってしまうから、きっと他の方にしてみればドタバタだったのだと思うけれど。
とは言え、お客様方に頭を下げていたらもう、疲れてしまったわ。早く休んで、明日の朝から素振りをしておきたいものだけれどそうも行かない、わね。
「主様、お疲れ様でしたよー」
「本当に、もう大変だったわ」
ナジャの笑顔がわずかばかり引きつっているのが分かる。ああもう、あなたにまでつき合わせて大変だったわね。
つき合わせてといえば、もう1人。招待客側だったのに、一緒に謝ってくださったカルメア様も、ちょっと疲れておられるようだ。
「カルメア様は、大丈夫でした?」
「ええ、何とか。父が走り回っていましたけれど」
あ、いたのね。
いえ、言葉にしてはいないけれど、ナジャも多分同じことを考えていたと思うわ。スリーク伯爵、影が薄いんですもの。奥方であるミリア様が濃い、とも言いますけれど。
……その濃いミリア様、そういえばお顔を見ませんでしたけれど。
「そういえば、ミリア様はおいでではなかったようですわね」
「あの、さすがにいろいろありましたし……」
あら、カルメア様に困り顔をさせてしまったわ。そうか、もしかして盗賊の皆様の一件絡みかしら。あとは……さすがに人様の前で、あのようなお言葉をぶちまけることはないと思うのですけれど。
と、ナジャが「そうそう」と声をひそめてきた。あら、何か聞いてきたのかしら。
「公爵閣下、ボンドミル侯爵を言葉でねちねちやっていらっしゃるらしいですよ?」
「あら」
さすがはグランデリアの公爵閣下だわ。私だとどうしても、力で解決する事になってしまうもの。その点クロード様やアルセイム様ならば、お言葉で何とかできるのね。素敵だわ……もう、尊敬してしまいます。
「それはやっぱり、うちの後継者の婚約者にどうのこうのとかですかしら」
「らしいですよー。公爵閣下、いぢめっ子ですねー」
あらあらあら、カルメア様までお話に乗っていらっしゃったわね。ああでも、私もそうだけどカルメア様も伯爵家の方だから、侯爵家の方からは少々見下される嫌いがあるのよねえ。
……スリークのお家は王家とつながっているのに、それはいいのかしらね。まあ、ともかく。
「地位には地位で対抗するのが一番、らしいですわよ」
「それなら、レイクーリア様も龍神様のご寵愛を受ける方として名乗ってしまわれれば良いのでは?」
クロード様のお考えを代弁してみると、カルメア様が何だかえらいことをおっしゃっていらした。いえいえ、さすがにそれは困りますわ、と答える。
「龍神様の名を使ってグランデリアに取り入った、なんて言われても困りますから」
「母様にメイス頂いたの、ご婚約のずーっと後ですもんねえ」
「まあ」
そこまで驚かれても、ねえ。だって、アルセイム様と婚約したのってまだまだ幼いころ、ですし。それも、互いの親同士の約束だってことでしたから。
そうでもなければ、男爵家の私が公爵家に嫁ぐなんてとんでもないこと、じゃないかしら?




