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男爵令嬢レイクーリアがんばる  作者: 山吹弓美
二 お披露目とお客人と面倒
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47話 言葉は自分に返ってくるものよ

 さて、私の侍女は空気を読まないことこの上ない。

 よって今も、ドリンクのお代わりをトレイに載せた状態でのほほんとやってきた。足元にすっ転がったボンドミル侯爵を見て不思議そうに首を傾げ、私に尋ねてくる。


「あれ? どうしたんですか主様」

「いえ、この方が無理やりメイスを奪おうとなさったもので」

「それはいけませんねー」


 一応事実だけを伝えてみると、ナジャは満面の笑顔で頷いた。それから私と、そしてカルメア様にそれぞれドリンクを渡してくれてから、言葉を続ける。ああ、これ、ノンアルコールのカクテルね。


「いやだって、人のもの勝手に取っちゃ駄目ですよね? 私、そう母様から教わったんですけど」

「かあさま、だと?」

「そうね。ごく当たり前のことだと思うわよ」

「わたくしも、乳母からそう教わりました。スリークの娘として下品ですよ、と言われましたし」


 周りがひそひそと何やら内緒話を始める中、私はナジャの言葉に続く。さり気なく続いてくださるカルメア様には、少しだけ感謝。

 ところでボンドミル侯爵、至極当たり前の会話をしている私たちをどうして睨んでおいでなのかしら。不思議だわ、と思っていたら分かりやすく、本音を吐き出してくださった。


「貴族はともかく、メイドごときの母親の戯言など!」

「あら、いやですわ。貴族でもメイドでも母親は母親ですのに」


 反射的に反論してしまいましたわ、ほほほ。

 自分にもそういった思考がないとは言いませんけれど、こういうお家の格を振りかざしてのお言葉ははしたないと思わないのかしら。

 それに、ナジャのお母様はつまり龍女王様ですものね、という言葉は口にしないことにしましょう。龍神様の娘が私の侍女をやっている、なんてあんまりおおっぴらに言いふらすものでもありませんし。それに、お家の格どころじゃありませんものねえ。


「そこまでにしておいたほうが良いぞ、ボンドミル卿」


 そうして、ある意味お家の格を最も効果的に使える方がおいでになった。つまりは公爵家当主、クロード様なのだけれど。ええ、ボンドミル侯爵家よりグランデリア公爵家の方が、お家の格は上ですからね。

 こちらが使わなくても、相手には効果があるのよね。こういうお相手の場合は。ほら、ボンドミルのご当主様、慌てて立ち上がって深々と礼なさってるもの。ジョエル様の頭も押さえて、一緒に。


「これはこれは公爵閣下、本日はお招きに預かりありがとうございます」

「ああ。今、ボンドミル卿を招いたことを後悔しているところだ」

「は?」


 あらら。クロード様、真正面からぶっ飛ばすおつもりですの?

 横にいらっしゃるアルセイム様が、目を丸くしていらっしゃるじゃないですか。まあ、クロード様のお手並みを見せていただくのも、勉強ですわね。ええ。


「卿もご存知だとは思うのだが、カルメアは俺の姉の娘、つまり姪だ。スリーク家の娘であるからして、王家の血も入っている」

「は、はあ」

「それから、レイクーリア嬢は俺の甥の婚約者だ。甥であるところのアルセイムは、ゆくゆくはグランデリアの当主を継ぐものでな」


 にこにこにこ。ナジャと同じように満面の笑みで、クロード様は事実だけを淡々と口になさる。これでお分かりいただけるなら、少しはご猶予もいただけると思うのだけど……ボンドミル侯爵とジョエル様には、どうも無理みたいですわね。


「つまりはレイクーリア嬢は、未来の公爵夫人というわけなんだが……さて、ボンドミル卿」


 ゆっくりと歩み寄ってこられたクロード様は、ボンドミル侯爵の前に仁王立ちになられた。あらあら、笑っていらっしゃるのに何だか怖いですわね。


「そのレイクーリア嬢に何してくれたのか、詳しく話を聞かせてくれないかね?」

「な、何のことでございましょうや」

「いや、俺の耳が確かなら今、レイクーリア嬢のメイスを奪おうとしたとか何とか聞こえたんだが」

「めめめ滅相もない」


 うわあ、ボンドミル卿、ひょろ長いお身体を小さく丸めてかたかた震えていらっしゃるわ。何というか、クロード様の迫力がすごいんでしょうけれど。


「……叔父様、怖いですわ」

「大丈夫ですわよ、カルメア様。公爵閣下がお怒りなのは、私たちに対してではありませんから」

「一応守っときますねー」


 びくびくしていらっしゃるカルメア様を、何となく背中側に回す。私たちの前にはナジャが立ってくれたから、これで少しはマシでしょう。例え本気の殺気でも、ある程度は防げるはずだから。

 それはともかく、まともにお答えをいただけないご当主殿に飽きたのかクロード様の視線は、お父上の横にいらっしゃるジョエル様に移ったようで。


「ジョエル殿、当事者が話さないなら君でも良いんだが」

「いいいいいいえええええ! ち、父がご無礼を致しましたあ!」

「無礼ってだけじゃ、分からないな。まあ、後でゆっくり話そうか!」


 あ、クロード様、本当に朗らかに笑われた。というか、周囲のお客様たちもくすくす笑っていらっしゃるわね。もしかしてボンドミル侯爵家って、何か人気ないのかしら。良いお家柄のはずなのに。

 まあ、男爵家の娘で殴れる敵ならどんとこいな私には、分からないわ。

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