46話 お家の格はともかくね
何だかんだでカルメア様とのお話が進んじゃっているところに、また別の方がいらした。何だかひょろっとしていて、背は高いのですけれど吹けば飛ぶような、って感じかしら。あと、とっても偉そうな態度を取っていらっしゃるわね。
「やあやあ、レイクーリア嬢。この度は誠におめでたいことで」
「ありがとうございます。……あの」
「ああ、これは失礼。ボンドミル侯爵家当主、ジェームスという。こちらはうちの長男のジョエル」
ひょろりの方、即ちボンドミル侯爵の後ろから、いかにも貴族の家の奥でちやほやされて育ちましたよ、な感じのちょっと小太り系な方が出ていらした。えーとつまり、この方がジョエル様ね。何しろ態度がそっくりでいらっしゃるもの。
で、そのジョエル様は頭も下げずに私から、視線をカルメア様に移された。ああ、カルメア様と一緒でご結婚相手を探しに来られたのね、きっと。
「お初にお目にかかる、レイクーリア嬢。そちらは……」
「スリーク伯爵家のカルメアと申します。初めまして」
「スリーク、とするとグランデリア家とはご親戚ということになりますな。しかも確か、スリーク家は王家ともつながっておられるはず」
この親子の態度があんまり気にならないのか、カルメア様は普通にご挨拶をされた。侯爵の目がきらんと光ったのを、私は見逃していないわよ。
「とても薄いつながりですけれど。それに、家の格はボンドミル家の方が上ですわよね」
「侯爵と伯爵ですからな、さほど離れてはおりませんよ。何でしたら、ジョエルとお話でもなさいませんかな」
あ、やっぱり。
貴族の婚姻って、家の格があまり離れていないほうがやりやすい、とか何とか。私とアルセイム様のように男爵と公爵、なんてあんまり例がないのよね。親の約束、とかまあいろんなものが絡んだ結果なのだけれど。
で、私は今のところあくまでも男爵家の娘なので、侯爵からご覧になると格下の小娘、なわけ。エンドリュースという家の名前ではっきり何も言ってこないだけ、でね。
「ええ? でも、ジョエル様はどう思っていらっしゃるのでしょうか」
「僕も、カルメア嬢とは話しても良いと思っている。レイクーリア嬢は、既に婚約者がいるからな」
「まあ、確かにそうですが」
ふん、と鼻息荒くお答えくださるジョエル様、侯爵家のご嫡男だそうですけど大丈夫なのかしら、お家。しっかりした奥方をお迎えになるか、配下に良い方がおられれば良いのですけれど。
「おや」
と、ボンドミル侯爵が何かに気づいたようにこちらを見てきた。……いえ、もしかして、私の手元?
「それがかの、敵を粉砕する龍神様のメイスですかな」
「はい、そうですわ」
一応、にこやかに答える。龍女王様から頂いた大切なものだけど、こういう場ではしっかり持っていたほうがアクセサリーにもなるし。え、違うかしら?
「一度、持ってみたいものですなあ。構いませんか?」
「え、いけません。これは私か、私の侍女でなければ扱えない代物ですわよ」
さすがに、そこは断ってみせた。というか、持ってみたいと言われてもびりびりしびれたり、熱を持ったりするかもしれないものなのにね。
でも、ボンドミル侯爵はそのことは知らないでしょうし、じりじりと迫っておいでになります。ああめんどくさい。あとジョエル様、カルメア様が涙目になってるんですけど何か変なことおっしゃってませんか。
「いやいや、別に振るうわけではありません。握るだけですから」
「ですから、いけませんと申し上げております」
「少しぐらい、いいではありませんか」
「少しも駄目なんですの」
しつこいですわね、もう。
これが兵士だの盗賊だのだったらメイスぶん回してぶっ飛ばして終わらせるんだけど、あの、さすがにお客様としていらした侯爵家のご当主をぶっ飛ばすわけには、ええ。
で、しつこさが上回ってしまったようで、侯爵の指先が、メイスに触れた。
「ほんとうに、少しだけ……っ!」
ばちーん、と思いっきり平手打ちをぶっかましたような音がして、侯爵のひょろりとしたお身体が弾き飛ばされてしまった。ああ、雷の力がでてきてしまったのね。
「ち、父上え!?」
「ひ、ひ、ひいいいいっ」
……おかげで、ジョエル様がカルメア様から離れたのは良かったですけれど。
でも、会場内がしーんとして皆の視線がこちらを向いているのは、ちょっと困りましたわね。だって、単純に見たらこの私が、ボンドミル侯爵を平手でぶっ飛ばしたようにみえるかもしれませんもの。
さて、どうしましょうか。