38話 しつこい相手もぶっ飛ばしましょう
「集まれ集まれ、我が手に力!」
「はあっ!」
パトラの手のひらから溢れ出た光、それが開いたバリアをメイスで叩き割る。その間にパトラは再び、手に光をともしていたわ。
あれ全部、ジェシカ様から奪った力かしら。もう、腹の立つ。
「尖れ尖れ、我が手に剣!」
あっさり再展開されたバリアの向こうに、尖った形の光が見えた気がした。まあ、あれでこちらを突き刺すつもりなのかしら。本当に冗談では無いわ、ともう一枚叩き割る。まあまあ、何枚あるのかしら、お手頃バリア。
そうして全部破りきったところで、パトラがその光をこちらに向けて発射した。
「穿て穿てえ! 我が敵をおおっ!」
「無茶をおっしゃい!」
馬より早いかもしれない速度で突っ込んできた光の先端に、メイスを合わせて叩きつける。龍女王様のお力を頂いたメイスは、こんな魔力の攻撃で壊れはしないのよ。
ただ敵もさるもの、私の全力の一撃で砕けてくださらなかったわ。おかげで私、身動きが取れないじゃないの。全力でどうにかこうにか押し込んでいけるけれど、早く壊れてくれないかしら。
「ひゃはははは! さあ、我が足元に這いつくばるが良いわ、エンドリュースの娘え!」
「レイクーリア!」
あ、アルセイム様の清々しいお声が聞こえた。力倍増、いえ三倍増ね。
このような魔術ごときで、私を倒せると思っているのかしら、パトラは。私には、アルセイム様という力強いお味方がいてくださるのだから!
「おおおおりゃああああああ!」
少々はしたない大声だけれど、力を込めるにはこれが一番なのよね。ほうら、尖った光の先端からびり、びりとヒビが入っていくわ。
「な、に?」
「はああああああああっ!」
アルセイム様の声援を得た私に、敵は居ませんの。更に力を込めた途端、光はあっさりと砕け散ってしまったわね。ほうらパトラ、ぽかんとしていたらその頭、同じ目に会いますわよ?
「ぐっ!」
「バリア展開だけは早いんですのね、パトラ!」
「貴様あ!」
ほんと、守りの術は早いんだから。そうして私は再び、多重バリアを叩き壊しにかかる。ああ、でも先ほどより砕く速度が早くなっているみたい。パトラってば、迎撃用の魔術を展開できないでいますもの。
それにしても本来の……でしょうね、パトラのお顔。とてもシワが多くて、どれだけお年を召しているのかしら。その顔で目尻を釣り上げてこちらを睨みつけているのが、少々迫力ありますけれども。
「貴様キサマ、我が菓子の毒に浸っていればよかったものを!」
「あ、やっぱりあのプチケーキ、そうでしたのね」
何だ、やっぱりそうでしたのね。事情によってはグランデリアのシェフを問い詰めないと、と思っていたのですけれど。
つまり、目の前にいる魔女パトラを叩き潰せば、アルセイム様とグランデリアは安泰、ということね。承知致しましたわ。
「ぎゃあ!」
ばきばきばきん、と続けざまにバリアが壊れる。あらあら、腰を抜かしてしまわれたのね、パトラ。魔力が足りなくなって来ちゃいましたかしら?
いいわ、もうそろそろ終わりに致しましょう。
「成敗、致しますわ!」
遠慮なく、真上から思いっきりメイスを振り下ろす。普通ならばきばきとかグシャリとか、あまり聞き馴染みのない音がするものなのでしょうけれど……ここはなぜかごん、という大きな石でもぶん殴ったときのような音になったわ。
「……あ、が、が……」
私のメイスの下で、パトラは額からだらだらと血を流している。赤くなくてどす黒くて、その血の流れとともに……なんだか、パトラが小さくなっている気がする。
「か、からら、が……からだが、あああ」
よく見ると、私はパトラの頭を殴ったはずなのになぜか、足元からさらさらと細かい粉のようになって崩れていっている。ああ、それで慎重が縮んでいっているのね……そうじゃなくて、え?
「身体が限界越えたんじゃないですかあ?」
私の疑問に答えをくれたのは、ナジャだった。慎重に、パトラから距離を置きながらこちらに歩いてくる。まあ、『龍の血』の力を奪っていく魔女ですものね。近寄りたくないでしょう。
「本当なら、とうの昔に亡くなられている年齢なんでしょ? 『龍の血』の力で無理やり延命してたんですよね、きっと」
いつも私と会話しているときとは違う、少し冷たい感じのナジャの言葉。ぎりぎりと歯噛みしながら彼女を睨みつけているけれど、その間にもパトラの身体はどんどん粉になっていく。
「それで主様にぶん殴られたせいで、限界が来ちゃったんですよ。魔術使ってるから、どんどん『龍の血』の力出ていっちゃってるし」
「ぐぐぐ……」
ああもう、スカートも半分以上が消えているわ。服も一緒に消えるなんて、アレも魔力で生み出していたのかしらね……怖いわね、魔女って。
「そこな龍! 貴様の力をよこせええええ!」
「えー、やです」
必死に腕を伸ばしてくるパトラから、ナジャはひらりと身をかわした。ああ、そうか。龍の力を直接奪えば、ここから復活も可能ということなのね。
残念でした、と思いながら私はメイスを振り上げる。介錯をして差し上げるのが、親切というものよ。
「いい加減になさいませ。あなたはここで、消えるが定めですわ」
「ひい! やめろやめろお!」
私がもう一度メイスを振り下ろした瞬間、パトラは頭の先まで粉になって、吹き飛んでいった。