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男爵令嬢レイクーリアがんばる  作者: 山吹弓美
一 龍と私とおかしな空気
37/118

37話 敵を相手に油断は禁物よ

「集まれ集まれ、我が手に力」


 あら、いけない。一瞬アルセイム様に気を取られた隙に、パトラが詠唱を始めてしまったようね。潰せるかしら、とメイスを振り下ろす。


「はあっ!」

「怒れ怒れ、我が手に光」


 メイスをバリアでギリギリ受け止めながら、パトラの詠唱は続いている。さすがは魔女、龍には気づかなくてもその力は本物らしいわ。でもこちらは、バリアなんて張れないのよねえ。

 叩き潰すしか、能がないんですもの。


「穿て穿て、我が前の敵をっ!」

「おあああああああっ!」


 だから、彼女が両手で放った炎の珠をメイスで叩き潰す、要領で受け止めるしかないのよね。く、僅かとはいえ勢いに押されるなんて、この私が。

 いけない、アルセイム様がご覧になっておられる。


「負けませんわよおっ!」


 あの麗しいお顔を脳裏に描いた瞬間、私の力は幾重にも増す。炎の珠はなおも私を押し返そうとするけれど、でももう私にはかなわない。


「なかなか、で、ございます、わね!」


 ひときわ力を込めると、メイスは私の思いに応じて炎を跳ね返してくれた。さすがに私から距離を取ったパトラのところまでは戻らなかったけれど、地面に叩きつけられて弾けて消える。


「射抜けなんだか! さすがはエンドリュースの小娘っ」

「ええ、当然ですわ!」


 距離を取ったせいか少し余裕が出たみたいね、パトラ。でも、私の足を舐めて頂いては困るのよ。地面は石畳だし、エンドリュースの娘は嗜みとしてかかとのあまり高くない靴を履いているのだから。


「お返しですわ!」

「く、来るなあ! 穿て穿てえ!」


 そんなわけで、あっという間に私は彼女の目の前まで戻る。もちろん、パトラは炎を放って迎撃してきたけれど、さっきの珠ほど大きくないもの。すいすいと避けられるわ。さて、勢い任せに一撃いれて差し上げましょうか。


「守れ守れ守れええええ!」

「はあああっ!」

「ぎゃあ!」


 がつん、ばきっ。

 バリアにメイスがぶつかって、バリアが割れた音が続けざまにする。あ、パトラの左肩を叩き折ったようね、よしよし。

 さあ、追い打ちとばかりにメイスを持ち直したところで。


「レイクーリア! 後ろだ!」


 アルセイム様の声が、聞こえた。ここで振り向いたら、目の前にいるパトラから反撃を受けるのは必至。私は勘だけで、パトラの肩が折れている方……私からしたら右横へと身を投げだした。

 次の瞬間、今私が立っていた場所を目掛けて炎の珠が続けざまに叩きつけられる。あ、もしかしてさっき避けたあれ? おのれ魔女め、やってくれるじゃないの。


「レイクーリア様!」

「主様あ!」

「レイクーリア、大丈夫か!」

「大丈夫ですわ!」


 トレイスもナジャも、そしてアルセイム様も私の身を案じてくださっている。そんな皆の目の前で、この私が、負けてたまるものですか。

 何しろ、私は。


「ひゃははは。ほうれエンドリュースの娘、大人しゅう私の力の餌となれ」

「冗談ではありませんわね!」


 そう、エンドリュースの娘にしてアルセイム様の婚約者ですもの。すぐさま立ち上がって、低い姿勢のまま駆け寄る。


「アルセイム様の御前で、恥ずかしい戦はできませんわあ!」

「ぴぎゃ!」


 あらあら、私を大地に転ばせたことで余裕かましていらっしゃったせいかしら。弱すぎるバリアごと、パトラのお腹をぶん殴れてしまったわ。正門前まで吹っ飛ぶなんて、気を散らしすぎよ。ええ。


「さあさあさあ、まだまだ参りますわよ!」


 とは言え、ここで叩き潰しておかないと私はともかく、アルセイム様やナジャたちにまで迷惑がかかるものね。遠慮なく、追撃するわよ。

 何よパトラ、こちらに手のひらを向けて。待てと言われても待ちませんわよ。


「ままま待て待て待て、降参だ降参っ!」

「両手に魔力ブチ貯めときながら、何言ってんですかあ!」

「ちっ」


 ねえ。ナジャが見破った通り、この手の敵は降参と見せかけて不意を打ってくるのが得意なのよ。お母様も良く、そういう敵は多いから気をつけなさいとおっしゃっていたもの。

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