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男爵令嬢レイクーリアがんばる  作者: 山吹弓美
一 龍と私とおかしな空気
36/118

36話 あなたのために殴ります

 さすが公爵邸だけあって、グランデリアのお屋敷は外に出ても広いのよね。玄関からまっすぐ正門へと伸びる道は石畳で舗装されていて、馬車が玄関先に横付けできるよう整えられている。

 さて、先ほど放り出したパトラだけど。ああ、玄関と正門のちょうど真ん中くらいに落ちているわね。もしかしたら、正門辺りの結界にぶつかって跳ね返ってきたのかも知れないけれど……道の真ん中に両手両足広げてうつ伏せで倒れているのは、はしたないですわよ。


「主様ー! 結界はバッチリですよう!」


 そうして結界の主たるナジャは、楽しそうにぱたぱた両手を振りながらこちらに声をかけてきた。あら、スカートの端から、尻尾が見えていますわよ。大きな力を使ったら部分的に人化が解けるのは、相変わらずなのねえ。


「今、お屋敷にも掛けときましたから、後ろにそらしちゃっても大丈夫ですからねー!」

「ありがとう、ナジャ。尻尾見えているわよ」

「え、わあ!」


 まあ、お屋敷への気遣いはさすがね。だから、ちゃんと私も尻尾のことは教えてあげたわ。慌てて仕舞おうとしないで、落ち着きなさいな。


「な、なんじゃと……」


 あ、やっとパトラが身体を起こしてこられたわ。彼女はこちらには目もくれず、何とか尻尾をしまったナジャに視線を向けている。


「貴様、龍か?」

「え、今更ですかあ?」


 ナジャの言葉が私と、それからアルセイム様のお気持ちも示しているだろう。ジェシカ様の体力を奪い、その次には私とアルセイム様を狙っていた魔女が、よもやナジャが本物の龍であることに気づいて、なかったなんて。


「あら、もしかして『龍の血』は分かるのに『龍』は分かりませんの? お間抜けですわねえ」

「う、ぬ」

「みたいだな。長年の間に、勘が鈍ったんじゃないか?」


 なので、軽く尋ねてみることにする。アルセイム様も腕を組み、私の言葉にうんうんと頷いてくださって。


「……ま、まさか人型の龍が、出てきているなぞとは思わなんだわい!」

「本当に気づいてなかったんですねー。主様、どうしましょう」


 まあ、本音が出たわね。パトラって、魔女としても大丈夫なのかしら。いいえ、相手の心配をしている場合ではないわね。

 とりあえず、ナジャには動かないようにしてもらいましょう。ここは、私が殴るべきなのだから。


「あなたは、結界の維持に集中なさい。私には破れなくても、あなたが暴れたら破れるでしょう?」

「わかりましたー。主様頑張ってくださいねえ」


 本当に分かっているのかしら、ナジャったら。でもひとまず、これで周囲は安心ね。パトラは何とか立ち上がろうとしているところだから、これからですわ。

 私はメイスを握り直して、アルセイム様を振り返った。ああ、なんて麗しい笑顔。


「では、アルセイム様」

「レイクーリア。君の戦いを、俺に見せてくれ」

「はい!」


 私の戦いを見せて欲しいなんて、そんな嬉しいお言葉をくださるのがアルセイム様。さすがですわ、私の力はきっと倍増どころではなくなっているはず。


「エンドリュースの力、存分にご覧くださいませ! いざ、参りますわ!」


 パトラが立ち上がり切る前に、私は石畳を蹴る。駆けながらメイスを大きく振りかぶって、魔女めがけて振り下ろす!


「おのれ小娘えええええ!」

「はあっ!」


 がぎいん、と金属がぶつかるような音がして、私のメイスは光のバリアに受け止められている。ただし、一瞬後にばきっと割れたけれどね。


「ぎゃっ!」

「避けないでくださいませ。長引くだけですわよ」


 その一瞬で、パトラはメイスの下から逃げ出している。まあ一度で駄目なら何度でも、これがエンドリュースの女の流儀なのだけれど。


「はっ、はっ、はっ、はあっ!」

「ぐっ、ぐ、う、くそお!」


 パトラはバリアをどんどん繰り出してくる。私はその上から叩き割りながら、彼女をぐいぐいと追い詰めていく。あのう、攻撃して来てくださらないのかしら。ちょっぴりつまらないわ……手を緩める気はないけれどね。


「さすがですわね、パトラ。まあ、ご自身の生命がかかっておりますものね!」

「ほほほ本気か! 一緒にお茶をした仲ではないか!」

「ですから、私自らが引導を渡して差し上げますから!」


 まったく、逃げるのだけはうまいのね。だからこそ、今日の今日までミリア様から逃げまくって正体がバレることもなかったのでしょうけど。


「……エンドリュースのご令嬢って、本当にすごいんですね」

「ああ。素敵だろう?」


 ……一瞬聞こえたのは、トレイスとアルセイム様の会話かしら。このくらいですごいなんて、まだまだですのにね。

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