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男爵令嬢レイクーリアがんばる  作者: 山吹弓美
一 龍と私とおかしな空気
28/118

28話 朝食ついでにお尋ねよ

 ひとまず、ナジャを連れて朝食に向かう。お腹が空いたら全力戦闘はできないもの、エンドリュースの娘として食事はとても大切なのよ。

 食堂に入る手前で、ちょうどトレイスを連れたアルセイム様と出くわした。ああ、今朝も麗しくていらっしゃる……んだけど、何だか少し落ち込んでおられるような気がするわ。


「アルセイム様、おはようございます」

「おはよう、レイクーリア」


 ともかく、挨拶を交わす。小さく頭を下げたトレイスが少し不安そうな感じで、これはやっぱりアルセイム様にも何かあったのだと考えざるを得ない。おのれ魔女、出会った瞬間に本気でフルスイングしなくては。

 目の前に敵が出てこなければ効果のない力って、ちょっと悲しいわね。


「ナジャ、彼女に何もなかったかい?」

「ほえ?」


 と、アルセイム様が妙なことをナジャに対してお尋ねになった。あ、これもしかしてと思う間もなく、ナジャがしれっと答える。


「あ、えーと、アルセイム様大好きすぎて夢の中で心配してらっしゃったようですけど」

「な、ナジャっ」

「……ははは」


 無言のトレイスはともかくとして。何てこと言ってくれるのよ、ナジャ。もちろん、アルセイム様のことは大好きだし夢であんなこと言われて心配なんだから、彼女は嘘をついたわけではないのだけれど。


「そうか。何でもないようならいいんだ」

「アルセイム様?」

「いや、気にしないで。食事にしよう」


 それにしても、アルセイム様。何かあったのならば、はっきりおっしゃって頂いてよろしいのに。それとも、他人の目が少しでもありそうなところではできない話、かしら。

 そうなると、手っ取り早いのはお互いの侍従を使う手ね。


「……主様」

「後で、トレイスから聞いておいてちょうだい。必要なら、こちらの話もしてくれてかまわないわ。夢の話くらいなら、だけど」

「了解です」


 私の考えを読み取ったのかそうでないのかはともかく、低い声で囁いてきたナジャに指示を出しておきましょう。どっちみち、食事をとる時は侍従は別ですものね。彼らにだって、私たち主が食事をしている間にやることがあるのだから。




「おはよう。遅くなって済まなかったね」

「おはようございますー」


 クロード様とパトラが、少し遅れて食堂に現れた。2人ともちょっとおめかしをされた感じで、特にクロード様は普段よりも髪をきちんと整えておられるわね。


「あら、公爵閣下。今朝はなかなかお決まりですわよ」

「そうかな? ありがとう、女性に褒められたってことは似合ってる、ってことで良いみたいだな」

「パトラもなかなか愛らしいな。走って転んだりしないほうがいいよ?」

「わあ、お兄様辛辣ですー」


 パトラ、辛辣って言葉知ってるのね。それにしても、多分近場とはいえ外出なさるんでしょうけれど、そのお姿で食事をなさるのかしら。


「ああ、今日はパトラと一緒に視察なんだよ。朝食が終わったら、すぐ出るんだ。留守はブランドに任せてあるから、レイクーリアも心配しなくていい」

「そうなのですか。パトラがご一緒、というのは珍しいのでは?」

「母親がいなくて、いつも屋敷の中で不自由させているからね。たまには外に出かけた方が良いだろう、ってことになってな」

「私も、お外の見物は楽しみなんですよー」


 クロード様の説明と、パトラの嬉しそうな言葉でなるほどと顔がほころぶ。これはアルセイム様も同じで、ああいい親子だなあとほっこりしたのでしょうね。

 早く魔女をぶっ飛ばして、ジェシカ様のお身体を回復させて差し上げたいわ。そうなればアルセイム様も、ジェシカ様と親子揃ってお出かけできるのですから。

 ……あ、魔女。そうだ、パトラに聞いておかないとね。


「そういえば、パトラ」

「なんですかー?」

「昨日、プチケーキ持ってきてくれたでしょう。あれ、とても美味しかったからまた食べてみたいんだけど」

「あ、よかったですー」


 一瞬、アルセイム様がお顔を引きつらせた気がするわ。やっぱり何かあったでしょう、それはとにかく、後で。

 よかったですー、か。不思議な反応ね、と思ったのだけどその疑問はすぐに解けたわ。


「プチケーキって、パトラが作ったあれかい?」

「はい。昨日はレイクーリアお姉様にも食べていただいたんですよー」


 クロード様のお言葉と、パトラの答え。……これはつまり、少なくともクロード様はお口にしてしまってる、ってことよね。

 それに、クロード様のおっしゃり方からするとあれって、パトラの手作りなのか。


「あら、あれパトラが作ったの?」

「ちゃんとできたのは、飾り付けだけですけどね。ほとんどは、うちのシェフがやってくれたんですよ」

「貴族の娘でも、お菓子作りが趣味でもいいんじゃないかと思ってね。興味を持つのは良いことだから」

「そうだったんですか」


 パトラが飾り付けをしたのだけれど、ほとんどはグランデリア家のシェフが手がけた。

 これでシェフを疑う、にはまだ材料が少ないわ。シェフを疑うのなら、この家で食事はできないもの。でも、飾り付けをしたのはパトラで、……。


「じゃあ、また作ってね。本当に、美味しかったから」

「はい、もちろんです!」


 とにもかくにも、笑顔でそうお願いするとパトラは、満面の笑みで大きく頷いてくれた。

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