27話 怪しい相手の探し方
さて。
そもそもの疑問は、このプチケーキの出処よね。パトラが箱で持ってきたのだから、その前。
「パトラは、プチケーキをどこからもらってきたのか。それが気になるわね」
「聞いてみますか?」
聞くって、パトラに? いえ、それが一番早くて正確なのだろうことは事実だけれども。
「素直に教えてくれるかしら」
「聞き方次第ですよ。美味しかったからまた食べたいわ、って言えば教えてくれるかもです」
「なるほどね。その手を使いましょう」
さすがというか、ナジャは口がうまいわねと感心することがある。私もこのくらい、口が達者になれば良いのだけれど……何というか、その前に手が出たり足が出たりメイス振り回したりしちゃってるから。反省しなくてはね、アルセイム様のためにも。
……それで、思い出した。プチケーキを食べたのは、私だけではないということに。
「ナジャ。私だけならともかく、パトラもアルセイム様もプチケーキを食べているわ」
「え」
私の言葉で、ナジャも思い出したようね。まあ、ケーキの変色とかでパニック起こして忘れてたのでしょうから、これは仕方のないことだわ。でも、まだまだ修行しなくてはね、ナジャ。
それはともかく、として。
「となると、パトラ様やアルセイム様にも何か出てる可能性がありますね……あ」
ナジャの言葉の最後、もしかして他にまだ何かあったのかしら。
「ひょっとしたら、公爵様やジェシカ様も食べちゃってるかも知れないです」
「……」
あったわ。
パトラは私たちのところにプチケーキを持ってきたけれど、その前後にクロード様と食べていたかもしれない。ジェシカ様のお部屋にはよくお見舞いに行っているから、その時に持っていっている可能性は高いと見て良い。
「そうなると、ジェシカ様のお身体の不調も……」
「可能性ないとはいえないです」
私とナジャ以外に人がいないのをいいことに、ちょっと行儀悪く頭を抱えこんでみた。まいったわね、もう。
とはいえ、ジェシカ様のお身体が回復する、かもしれない希望が少しは見えてきたことになるわ。あのプチケーキ以外にも、何かおかしなものを食べさせられていた可能性があるってことですものね。
でも、どうやって確認するべきかしら。ジェシカ様の主治医に調べてもらう、にしても、その主治医が魔女の手先とかそういう可能性はあるわけですし。
その辺の解決策は、何とナジャが出してくれた。
「私じゃまだ未熟で読み取れないですし、近場の知り合いに打診してみましょうか」
「いるの? 知り合いってつまり……」
「はい」
近場の知り合い。ナジャが打診できる相手ということはつまり、龍神様の一族ということ。
ナジャは「内緒ですよー」なんて言いながら、こっそり私に教えてくれた。
「私より少しお兄様な方が、確かこの近くの水源を守ってるんです。だから、毒とか呪いなんかには母様より敏感かもですよ」
「……そうね。水源をお守りくださっている方なら、確かに」
なるほどね、納得できたわ。
水源。人間だけでなく森、そこに生きる動物たち、田畑、そして川とその中に住んでいる者たちの生命の源でもある、大切な場所。
そんなところをお守りしてくださっている、龍神様。そのお方ならば、その水を汚すような毒や呪いにはとても聡く、厳しい方だろう。
正直言うと自分たちのことで龍神様のお手をわずらわせるのは少し気がひけるけれど、ひょっとしたら龍の血を食らうという魔女が関係していることかもしれないしね。
そういうことで、素直にお願いしてみることにしましょう。人間である私がお願いするよりも、ナジャに頼んだほうが受け入れてもらえそうだし。
「頼める? くれぐれも、他の誰にも知られないようにお願いね」
「了解です。大急ぎでお願いしてみますねー」
とは言え一応しっかりと釘は刺しておいたけれど、大丈夫かしらねえナジャだし。
ところで、ナジャより少しお兄様ということは殿方の龍神様なのかしら。私、龍の殿方にはお会いしたことないわね。どんな方なのかしら?