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男爵令嬢レイクーリアがんばる  作者: 山吹弓美
一 龍と私とおかしな空気
24/118

24話 結局乱入してくるのね

「……ありゃ」


 いきなり、ナジャが扉の方に視線を向けた。何かを感じ取ったのかしら、聞いてみましょう。


「どうしたの?」

「表でごちゃごちゃやってますー」

「トレイスか。誰かな」

「見てきますねー」


 アルセイム様のお言葉を受けて、ナジャが入口に向かう。表にはトレイスが見張り役でいるはずだから、その彼と誰かがごちゃごちゃやっている、のだろう。

 はて、私の部屋に何かしに来そうな人なんて……あ、いたわ。

 がちゃ、とナジャが扉を開けた途端、私が思いついた当人がはしゃぎながら飛び込んできた。まあまあ、トレイスにも止められなかったのね。


「お待ち下さい、パトラ様!」

「あー! やっぱりお兄様、お姉様のお部屋にいらっしゃった!」

「わー、駄目ですよう!」


 ナジャの手もするりとすり抜けて、あっという間にパトラは私たちのいるテーブルの横までやってきた。なに、このすばしこさ。というか、その手に持っている箱の中身は何かしら。


「パトラ、どうしたの?」

「ねえ、プチケーキもらってきたんですよ。一緒にお茶にしましょう!」

「え……」


 どこから、と言う前にパトラが箱を開く。ああ、一口サイズの可愛らしいケーキが沢山並んでいるわ。もしかして、これを持ってきてくれたのかしら。

 ちょっと困ってしまったので、何となくアルセイム様と顔を見合わせる。まあ、少なくとも聞かれて困る話は聞かれていないはずだし、ここでお断りするのもその、何というかプチケーキが美味しそうだし。


「どうしましょう、アルセイム様。美味しそうなんですけれど」

「ああ、そうだな。まあ、こちらもお茶の最中だったし、いいんじゃないかな」

「そう、ですわね」


 ほっ。アルセイム様も頷いてくださったことだし、良いことにしましょうか。それなら、パトラの分のお茶がいるわね。


「ナジャ、追加で準備をお願い」

「分かりましたー。しょうがないですねえ」


 お願いすると、ナジャは肩をすくめてさっさと準備に戻った。一方アルセイム様は、がっくりと肩を落としたトレイスを慰めて……いるのかしら。


「……トレイス。相手が悪かったな」

「申し訳ありません」


 ああ、トレイスは本気でへこんでいるわね。まあ、本当に相手が悪かったとしか言い様がないわ。これが私たちを暗殺に来た刺客、とかなら全力で戦ってくださるんでしょうけどさすがに、ねえ。




 パトラの分のお茶が用意されたところで、トレイスは表に戻った。ミリア様などの前例があるから、一応見張っておくらしい。そう言えばあの盗賊の皆様、口を割ってくださったのかしらね。まあいいわ、後ででも確認しましょう。

 それはともかくとして。見張りを置いてアルセイム様が私の部屋にいらしてる、という状況に興味を持ったのか、パトラが身を乗り出して尋ねてきた。


「お兄様、お姉様。何のお話なさってたんですの?」

「え?」

「ああ、これでも婚約者同士だからね。子供にはまだ早い話、とだけ言っておこうかな?」

「うわあ」


 私が目を瞬かせている間に、アルセイム様がさらりとかわしてくださった。さすがですわ、パトラが顔を真赤にして引っ込んでしまったもの。

 でも、お茶を飲む間にパトラの表情はもとに戻って、それからニコニコ笑って言ってくれる。


「んもう、パトラはお兄様とお姉様がとっても仲良しなのが嬉しいですー」

「あらあら、ありがとうパトラ」

「うふふ」


 本当に、パトラは良い子ね。私たちの仲を正直邪魔してもおかしくないでしょうに、こんなに応援してくれて。

 なんてことを考えていたらさすがにまだ子供、というべきか。彼女はとんでもないことをおっしゃってくださった。


「お兄様とお姉様、いっぱい子供作ってくださいねー。私、一所懸命遊んであげちゃいますから!」

「は?」

「え?」


 えっといやええ確かにそうですけど。アルセイム様が私の夫になって公爵家を継いだら、私の最大のお仕事は跡継ぎを生むことですけど!

 いえまだ婚約者であって、妻にはなっていませんからその後の話です。ええ。


「こら。そういうこと言っている間に、お前が適齢期になるだろうが」

「そうですねー」


 アルセイム様もそんなご返答はどうかと……あら、でも確かにそうかしら。

 私がアルセイム様の妻になって、その後子供が生まれて、パトラと遊べるくらいの年令になる頃には確かに、パトラが適齢期に差し掛かるわね。というか、パトラもそれ分かって言ってたわね。


「そうしたら、お兄様とお姉様の子供と私の子供で、一緒に遊びましょう」


 それはそれでどうかしら、と思うのよ。私たちに子供ができるのと、パトラが輿入れして子供ができるのが同じくらいの時期になるには、こちらの子供が遅く生まれてもパトラがかなり早く輿入れしなくちゃならない、のではないかしら。


「パトラ、そんなに早く輿入れできるの?」

「ふふん。これでも公爵令嬢ですからねー、引く手あまたなんですよう」

「まあ」


 尋ねてみたら、余裕の笑みで返されてしまったわ。まあ確かに、現在のグランデリア公爵閣下のご令嬢なんですものね。私が早くにアルセイム様と婚約していたように、もうそういったお話が幾つか来ていてもおかしくないし。


「あー。でも本当に、お兄様とお姉様のお子様が早く見たいですー」


 とは言えそれより何より、パトラはそちらのほうが気になるらしい。ケーキをひとつ手に取りながら、満面の笑顔で大きく頷いたのよね、彼女。


「絶対かっこよくて可愛らしいに決まってますもの。うふふ、楽しみー」

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