113話 戦の準備と心の準備
名目上はお色直し、ということで私はアルセイム様の腕をお借りして控室に入る。そこには、例の白い鎧が私を待っていてくれた。
「さて、どれほどのお相手をすればよろしいのでしょうか」
ナジャの手を借りて、ドレスの上に胴鎧を装着する。篭手もしっかり着けてもらいながら、アルセイム様と言葉をかわす。
「エンドリュース家から、メイド長始め領主護衛部隊の方々がおいでになっているそうだ。グランデリアからも、衛兵部隊を出すと叔父上がおっしゃっていてね……」
「まあ」
グランデリアの衛兵部隊も、かなり鍛えて差し上げましたけれど。それにもまして、エンドリュースのメイド長が来てくださるというであれば私も本気を出さなければ。
「メイド長に、勝たねばなりませんわね」
「でもまあ、ナジャもヴァスキもいるから大丈夫じゃないかな?」
「龍神様のお力をお借りするのは、最終手段ですわ」
アルセイム様のお言葉に、私は軽く首を振る。確かに、ナジャもヴァスキも私の侍従ということになっているけれど。その力を借りるのは、本当に最終手段でしかない。
できれば私は、私自身の力で師でもあるメイド長を超えなくては。そのくらいできなくて、グランデリアを名乗ることはできませんわ。ええ。
「私は私の力で、アルセイム様の妻となる実力を示さねばなりませんもの」
「龍神様を2柱も侍従にしている時点で、十分実力は示されていると思うんだがなあ」
「それでも、まずは私の力を見ていただきたいです。エンドリュースの家に生まれた者として、グランデリアに嫁ぐ者として」
「……そうか。そうだな」
まあ、人の身で龍神様を両脇に従えているなんて私くらいでしょうけれど。2人とも、たまたまぶん殴って倒せたからであって。
最低でも、龍神様をぶん殴って倒せる身であることをお客様がたにお認めいただかなくてはいけないもの。
そういう思いをこめてお伝えすると、アルセイム様もほっと笑って頷いてくださった。
「頑張れよ、レイクーリア」
「ええ、もちろん」
白い篭手を着けた私の手を、そっと取って握ってくださるアルセイム様。ああもう、こんな優しいお方を夫にできるなんて私は世界一の幸せ者ですわ。いつまでもそうあるために、私は私の力を示さなくては。
ところで。
「ていうか主様、私たちより強いですよねー」
「確かに、レイクーリア様はお強いですね」
「強いですなあ。まあ、我々はせいぜい結界を張ったり雷を吐いたりできるくらいで」
「それでも、主様には敵いませんでしたもんね」
「……おかげで、強くなろうと決意しましたよ」
「反逆はできませんよー」
「それはそうです。何しろ、まだトレイスにも勝てないので」
「鍛えがいはありますが……おっと。レイクーリア様、聞こえていらっしゃいましたか」
そこのトレイス込みで侍従3名、さっきから何を話しているのかと思えば私のことかしら、ねえ。
「しっかりとね。まあ、悪いことではないからいいけれど」
「失礼いたしました」
「しっつれいしましたー!」
「済みませんでした!」
トレイスは苦笑して頭を下げただけだからいいのだけれど、ナジャとヴァスキは床に額を擦り付けることになってしまってどうしましょう。いえ、私怒っていないのですけれど。
「まあ、それはともかく。トレイス、ヴァスキをしっかり鍛えてあげてね」
「そうだな。きっと、ヴァスキのためにもなるんだろうから」
「はい、おまかせを」
びくびくしてしまっている龍神様はともかくとして、その2人を見ている立場であるトレイスに私たちはお願いをする。ナジャもそうだけれど、いつか私の元を離れる時にちゃんとした、人から崇められる龍神様になれますように、と。
「準備はできましたでしょうか。お時間でございます」
メイドが呼びに来たところで、私は「はい」と返事をした。さあ、戦の時間ね。
「では、参りましょう。アルセイム様」
「ああ。レイクーリア、頑張れ」
「はい!」
アルセイム様の応援という最強の魔術を頂いて、私はメイスを握りしめた。




