110話 準備はきっちりできたわよ
そうして、あっという間に結婚式の日はやってきた。私にとっては、新たなる戦場への第一歩、ということね。
この日のために、訓練もみっちりしてきたもの。龍女王様のお力をこめていただいたメイスも、綺麗に拭い直したし。
今この控室にいる私は、純白のドレスに身を包んでいる。いわゆる、ウェディングドレス。まあ、足元がヒールでなくて編み上げのブーツだったりするのが普通ではない、らしいけれど。
「主様、アルセイム様がお迎えに参りました」
「ええ。通してちょうだい」
「はっ」
きちんと取次をしてくれるのは、ヴァスキ。すっかりおとなしくなってくれて、うれしいわ。初めて人型になったときよりも、少し引き締まってきているのは鍛錬の成果ね。ナジャが楽しそうに遊ぶから、初めの方は毎日へとへとになっていたのよ、彼。
それはともかく、おいでになったアルセイム様はいつもにも増して素敵でいらした。白が基調、金の縁取りの礼服に真紅のマント。ああ、どうしよう。今日から彼は、私の大切な旦那様になるのよね。
「さすがだな、レイクーリア。よく似合うよ」
「ありがとうございます、アルセイム様。アルセイム様もよくお似合いですわ」
「ありがとう」
アルセイム様はお顔を少し赤く染められながら、おそらく私も顔を赤くしながら、お互いに言葉をかわす。ああもう、今日はアルセイム様と私の結婚式なんだからしっかりしないと。私が。
「それにしても、汚れないのか?」
「汚れますわよ。当然ですわ」
しげしげと私の全身を見ておられたアルセイム様が、ふいに質問をしてこられた。それに対して私は、至極当然な答えを返す。おっと、少し言葉が足りないかもしれないわね。
「汚れても破れてもかまわない、そういう素材でお願いしましたから大丈夫です」
「まあ、防具もあるしな」
「白でまとめてくださって、感謝しておりますわ」
今はまだ装着していない、白の胴鎧と篭手。テーブルの上に揃えてあるそれに視線を向けてアルセイム様は、苦笑を浮かべられた。
「いやいや。母上や叔父上のわがままを聞いてもらった以上、このくらいはあつらえないと……いや、資金を出してくれたのは叔父上だけど」
「それでも、せっかくだから白をとおっしゃってくださったのでしょう?」
「純白の君が戦う姿を一番見てみたいのは、俺だからね」
「はいっ」
うふふ。
アルセイム様のご期待に添えるよう、私は頑張らなくてはいけないわ。だって私は、エンドリュースの家からグランデリアに嫁ぐ身ですもの。
アルセイム様をお守りできる妻であることを世に知らしめるために、私は戦わなくてはならないわ。
「エンドリュースには、結婚式のときに花嫁がやる儀式があると聞いたが。どんなもんなんだ?」
「はい。両家より戦力を出していただきまして、その戦力と花嫁が模擬戦を行うんです」
クロード様に問われて答えたその儀式を、此度私はグランデリアの敷地で行うことになっているの。ああ、さすがに少し緊張するけれど、勝ち抜いてみせるわよ。