109話 めざせ大事なお式まで
「やれやれ。これで、ひとまず今んとこの問題はなくなったってとこかな」
一息ついたところで、クロード様がにやりと笑顔になられた。はて、どうして私とアルセイム様をのんびりと見比べていらっしゃるのかしら。
「え」
「魔女も魔龍も、問題としては落ち着きましたものねえ」
「魔女といえば、スリーク伯爵はルナリア殿下が王都に連れ帰って、びしばしやっているそうですし」
ほのぼのと、ジェシカ様も頷かれる。それにしてもクロード様は、ひどく楽しそうに笑っていらっしゃいますけど……ルナリア様、びしばしって一体何をしていらっしゃるのかしら?
まあ、それはあちらにおまかせしておこう。きっと、スリーク伯爵もまっとうになってお戻りになられるだろうし。戻ってこられるかは別問題として。
「そうすると、うちがやるべきことはアルセイムとレイクーリア、お前たちの結婚式なわけよ」
「は?」
「叔父上?」
ともかく、何故そうなるわけですかクロード様。いえ、確かに私はアルセイム様の妻となるためにグランデリアのお屋敷に来たわけですが。まあいろいろあって予定も大して進んではいませんけれど。
「いや、最初から俺はつなぎの公爵だからよ。アルセイムがレイクーリアと夫婦になれば、俺は隠居してまたお気楽に暮らす予定なんだが」
「あら、いけませんわよ? いくら賢くて可愛い息子とは言え、アルセイムがそうそう器用にお仕事をできるとでも思っているのかしら。クロード」
……これがクロード様とジェシカ様の会話でなければ、ちょっと待ってとツッコミを入れるべきところでしょうね。
クロード様、とっとと隠居するつもりだったんですか。ジェシカ様の言い分はともかくとして、お子ができないことを除けば結構引く手あまただと思うのですが。アルセイム様の叔父上だけあって、なかなかの男前ですもの。
まあ、それはいいのですが。
「確かに、叔父上のような芝居は苦手ですからね。俺は」
アルセイム様が、先ほどのクロード様と同じように肩をすくめながらお答えになる。ああ、こういうところはよく似ていらっしゃるのね。親子ではないけれど、近い存在ではあるし。
そんなことを思いながら、私もアルセイム様に続くことにしよう。
「私などは、力で解決するフシがありますし……」
「力で解決された代表でーす」
「ナジャ?」
「……てへ」
ああもう、相変わらずナジャは空気を読まないんだから。いえ、読めたらもう、それはナジャではないわね。……ヴァスキは、せめて読めるようになって欲しいものだわ。うん。
「まあ、大丈夫だと思いますよ、義姉上」
っと、クロード様がジェシカ様に話しかけられた。そうなのかしら、と私とアルセイム様は一瞬だけ顔を見合わせた。
「アルセイムは俺があちこち連れ歩いてるときも、それなりにそつなくこなしてますし。レイクーリアも、何だかんだでうまくかわしていますから」
「まあ、2人とも頭は良い子ですものね。でも、まだ未熟よ?」
「無論、問題が起きたら手伝いくらいはしますよ」
あら。
私たち、クロード様から見て評価は良いということらしい。今からでも、十分公爵とその妻をやれると判断されたから、結婚式の話を出してこられたのだろう。
ならば、覚悟は決めなくてはいけないのだろう。ええ。
「レイクーリア。いいかい?」
「ええ。アルセイム様とならば、どこまでもまいりますわ」
「ほら義姉上、こうだし」
「そうね。夫婦は仲がいいのが一番よ」
アルセイム様のいいかい、の言葉にはきっと、色んな意味が含まれているのだと思う。けれど私にとっては、アルセイム様が私の隣りにいてくださるというそのことが、最大の意味で理由なのよ。
クロード様もジェシカ様も、それをご理解いただけたようで何よりだわ。ええ、アルセイム様の隣にいる事ができるのであれば結婚式でも何でも、どんと来いよ。
「よし、決まりだな。そうそうすぐにはできんが、早めにしてやるからな」
とっても嬉しそうに笑われるクロード様のことを、もうひとりのお父様とお呼びしたいな、と私はふと思った。