106話 連打連打更に連打
『ほう。その小童、小娘のつがいか』
……この魔龍、ナジャ並に空気読みませんのね。まあ、言い方が違うだけですから、私とアルセイム様はつがいということになるのでしょうけれど。
もっとも、言われっぱなしなのも少々シャクですので煽ってみましょうか。
「関係ございませんわね。それに、見たところそのつがいもおられないようなあなたに言われる筋合いはございませんわ」
『主様ー、多分それ禁句ですう』
『抜かしおったな!』
「きゃっ」
まだアルセイム様の結界は健在だというのに、思わず避けかけてしまったわ。それだけ、魔龍の放った雷が強かったのですけれど。
でもまあ、どうやら図星だったようで。
「……まさかとは思いますが、魔龍などに身を落とした原因って」
『言うな! 言うなあ!』
「もてなかったから、ですのね!」
『言うなと言うとろうがああああああ!』
『一応避けまーす!』
あらあら、雷を連発してきたわ。ナジャがうまく交わしてくれているから、結界にすら当たっていないのはちょっとかわいそうかしらね。
それにしても、振られたのかそもそも相手にもされていないのかはともかくとして、もてなかったせいで魔龍に堕ちた龍神様ってどうなんでしょう。それでよろしいのかしら?
「……何だか、不憫だな……」
「というか、そういう理由で身を持ち崩すんですね。龍神様でも」
「……なんと申し上げましょうか……」
あ、何か下の方でアルセイム様やトレイスが呆れ顔をしているわ。あと長様、そこで祈っても致し方ないと思うのですが。
というか、私にも聞こえるくらいですから当然魔龍にも聞こえているわけで。ああ、雷がアルセイム様の結界にがっつり弾き飛ばされた。
『人の分際で、わしを哀れむなあああああ!』
「その程度で、同族に封じられる存在に成り下がったから哀れんでいるのですわ! ナジャ、行きなさい!」
『了解でーす! まあ、なんてーか同族ってのが恥ずかしいですからー!』
まったくもう、あなたの戦の相手はこの私よ。よりにもよってアルセイム様に雷を浴びせようなどとは、この不届き者め。
ナジャも分かってくれているから、うまく雷を避けながら魔龍に向かって突っ込んでいってくれる。足を踏ん張って、さあ。
「何でも構いませんわ! とにかく、おとなしくなさってくださいましい!」
『ぎゃんっ!』
全力で鼻面をぶっ叩いて差し上げる。先ほどの攻撃の上からだから、もっと痛いでしょうね。
ナジャがくるりと方向転換して魔龍の正面に止まってくれたので、ありがたく連打することにしましょう。
「ほらほらほら、とっとと降参なさいまし!」
『こ、この、負けぐはっ!』
「口を開けたら、舌に当たるでしょうが!」
『噛み付いてぶぎゃっ!』
「何でしたら、牙もへし折って差し上げましょうかあ!」
ああ、楽しい。こんな至近距離であれば雷を吐く前にがんがん殴れるから、私が一方的に勝てそうだわ。ナジャもうまいこと、魔竜の身体に絡みついていってるし。
『主様、一応固定しときましたけど大丈夫ですかー』
「足腰も鍛えるようにしているもの、このくらいなら平気だわ」
『おのれおのれぐへっ! たかが小娘ごときにげふ、ぐは、があっ!』
ナジャと会話している間も、連打は続けているわ。一瞬でも隙を見せたりしたら、目の前で雷を吐かれるかもしれないものね。
もちろん、アルセイム様がつけてくださった結界は未だに健在だけど、せっかくここまで保っているのだし。
それにしても龍神様って、どうやって空に浮かぶのかしらね。何かの魔術なのだとしたら、人も飛べるようになるかもしれないわね。
『きしゃま、がっ、やめ、ぎゃ!』
「まだまだですわよ? あなたの眼が、まだ負けていないなどとふざけたことを抜かしておいでですもの!」
『抜かせえげふっ!』
ところで魔龍。あと何回殴れば、戦意喪失してくださるかしらね?