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男爵令嬢レイクーリアがんばる  作者: 山吹弓美
三 私と龍と山の民
104/118

104話 目的地はぽっかり空き地

 とにかく。

 実はいた長様の付き人には民の皆様の避難をお願いして、私たちは魔龍をぶっ飛ばしてとっちめるために山登りをしたのだから、まずはそこまで参りましょう。

 というわけで、聖地の中に入っていく。人払いを長くされていた空間は手入れもされていなくて、草がぼうぼう生えているわ。細い細い獣道のような道が、奥へと続いている。


「聖地の内側には私も数度しか入ったことがございませんので、不案内は失礼致します」

「構いませんよ、長殿。数度でも入ったことがあるのであれば、その後に変化があれば分かりますでしょう?」

「ありがたいお言葉を……おや」


 先頭に立って私たちを案内してくれている長様が、ふと立ち止まられた。よく見ると、今まで通ってきた道の横に草をかき分けた跡がある。道にはなっていないから、そんなに人が通っているわけではない、わね。


「こちらには、入ったことがないはずです」

「ということは、テンポウたちが入ったのはこちらね」

「そのようだな」


 あら、本来向かうべき場所とは別方向に目的があったのね。まあ、お手入れされていないのが幸いしたわ。分かりやすく、こうやって跡を残してくれたのだものね。

 おっと、念のため確認をしておきましょうね。


「ナジャ、何か感じる?」

「んー、何となくぞわぞわしますう」

「当たりのようです」


 何だか服の着方がおかしいとか、そういう感じで背筋をもぞもぞさせるナジャ。それを見てトレイスが、納得したように頷いた。ええ、あなたも分かってきたようね。良いことだわ。

 さて、そうなるとこの先はつまり、長様には未知のエリアということになる。それを案内させては、万が一のときが怖いわね。

 そう思ってアルセイム様に視線を向けると、ご理解いただけたのか柔らかく微笑んで頷いてくださった。ええ、それなら大丈夫でしょうね。


「では、ここからはナジャに先頭を行ってもらいますわ。長様に何かありましたら、山の民に申し開きができませんもの」

「……お心遣い、痛み入ります。お嬢様」


 一瞬だけ考えられて、長様は頭を下げてくださった。「それじゃ、先行きますねー」とお気楽に進み始めるナジャとは、多分相容れないでしょうね。私たちはもう、慣れたけれど。

 それから、ざくざくと草をかき分けながら進み続けてどのくらい経ったかしら。


「到着でーす」


 ナジャの脳天気な声とともに、急に目の前がぱあっと開けた。何しろ、それなりに生えていた木々もない、草も生えないぽっかりとした空き地に出たんですもの。


「まあ」

「ふむ」

「これは……」

「……確かにこれ、でしょうね」


 そうして私たちの目の前に現れたのは、その空き地の真中にでん、と置かれた大きな岩。そうね、小さなコテージくらいはあるかしら。表面に何やら不思議な文様が描かれているのだけれど、その中央を一筋の亀裂が走っている。


「これは……初めて拝見しました」

「んー、母様や高位の龍神が使う封印術ですねー。まあ、見ての通りですけれど、まだ封印は効いてます」

「なるほど……さすがは龍神様直々の術、強力なのですな……」


 ナジャの解説に、長様がかなり本気で感心しておられる。この天然ボケメイドが幼い龍神なのが、ようよう理解できたようね。いえ、単なる知識に感心しているのかしら。ま、どちらでもかまわないわ。


「さて、どうしましょうかしら」

「君が岩をぶん殴ったら、封印が解けて魔龍が出てきそうなものだね」


 あのうアルセイム様、正直それが一番早いというか私が楽しい、と言うのはお分かりいただけていると思いますが。ああでも、長様やアルセイム様に傷がついてはどうしようもないですものね。

 と、その時。


『既に、封は解けておるぞ』

「あら」


 岩の中、多分中から声が響き渡った。低い殿方の声で、声だけなら渋いおじ様タイプなのですけれどねえ。まあ、魔龍がどういうタイプでもやることに変わりはありませんが。


「嘘ついちゃ駄目ですよー。解けてるんなら、自力で出てこられるじゃないですかあ」


 そして、例によってナジャは空気を読まずにそんなことを言って差し上げる。ついでですから、私も声をかけておきましょうか。


「そうですわね。自力で御出になれるのであれば、お姿を見せていただいてもよろしいのではなくて?」

「えー。主様に殴られるのが怖いんですよ、きっと」

『小童が、何を抜かしておるか』

「だってそうですもん」


 あ、岩の中身が怒った気がする。いえ、良いんですが。怒ろうが何しようが、私が殴るのは確定事項ですものね。

 そうして、何故かアルセイム様までお言葉をくださることになった。あらら。


「まあなあ。レイクーリアは、龍神様でも魔女でもぶん殴って降伏させられるからな」

『おお、あの愚か者どもか』

「愚か者?」

『そうじゃ。わしの力を食らうなどと抜かした、あの2人組のことだろう』

「テンポウと、スリーク伯爵でございますね」


 そうでしょうね、長様。あの2人、供も付けずにここまで来たのですね。まあ、よくぞ死にもせずに私の前に現れてくださったこと。


『わしを、あのような愚かな人間どもと一緒にせんでもらおう』

「でしたら、もっと殴ってよろしいのですね? うれしいですわ」

『へ?』


 あら、私おかしなことを申し上げましたかしら。だって、テンポウは一撃食らわせただけですし、スリーク伯爵だってねえ。


「正直、殴り足りなかったんですの。こちらには酷いことをしてくださったのに、その御礼も十二分にできませんでしたものね」


 長様がトレイスに導かれて私の後ろに下がる。それを確認して私は、何故か小刻みに震えているみたいな岩に向けて、メイスを振り上げた。

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