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還る場所―Silver Sorcere外伝―  作者: 土方あしこし
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其の者、未来からの参戦者

【17歳上=其の者、未来からの参戦者=】


昨年、16歳まで出場できるジュニアを終えた俺は今、武術世界大会の予選に来ている。

武術世界大会は、ジュニアとは比べ物にならないほどの強豪達が集い、コロシアムは世界中から来る見物人でいっぱいになる。

腕に自信のあるものは、『世界最強』という名を奪い合うためにこの舞台に立ち、死力を尽くす。


俺はノアルドの名を最強にする。現当主である父上に栄誉を捧げたい。

そのために、これまでどんな努力もおしまなかったつもりだ。

簡単には勝てないことは、今までの大会を観て大いに予想できるが、勝率が1%でも見出せるならそれにかけて、名に恥じない戦いをする。

たとえ負け試合になってしまいそうになっても、焦らず冷静に対処しようと思う。

そう、毅然と。


しかし。

しかし、だ。

今、焦らずしていつ焦るんだ、俺。


「ルシャ、お、落ち着け。まだ始まってもいないぞ」


俺の右隣に座っている父上が膝の上に両ひじを乗せて、手を口の前で硬く結んでいる。


「父上こそ、なんでリシュに大会を進めたんですか。

あぁ、もうだめだ。あっちの子太刀筋がよさそうだ」


父上と同じ姿勢になって、視線だけで闘技場内を何往復もし、いつになく挙動不審にしている俺。


親子仲良くどこにいるかというと、コロシアムの観客席の一番後ろだ。

今は午前。

俺の参加する予選は、午後からでまだ時間に余裕がある。


試合前になぜいるのか。

それは、リシュが・・・俺の妹が・・・


世界武術大会ジュニア女子の部に参加するはめになったからだ。


俺より5歳年下の妹は、今年12歳になり大会に出場できるようになった。

今まで剣術になど興味を持っていなかった子なのに、去年から突然父上に型を習うようになり、知らない間にいたるところに傷をつくるようになっていた。


今日は、その初戦だったりするからハラハラドキドキだ。


「ん?私が進めたんじゃないぞ!リシュから出たいと言ってきたんだ。

・・・あれ女の子か?体格が男じゃないか?」


言い訳をしながらも、闘技場から目が離せないでいる父上だが、俺も人のことは言えない。


「どうしてその時に強く反対しなかったんですか。

・・・リシュの細い腕がへし折られたらどうしよう」


「なんだなんだ!俺だけ非難して!

き、来た!リシュが入場した!!」


父上の切羽詰った声に反応して、闘技場の入り口を凝視した。

すると、いつも通りの笑顔のまま、ポニーテールの少女が小走りで出てきた。

腕には、俺が以前使っていた剣を大事そうに抱えている。


「あ、ぁぁあんなニコニコと。

リシュは『恐怖心』というものを持っていないのか」


俺達二人は、青ざめて現実を直視できず手で顔を覆った。

すると、俺の左隣にいる16歳の妹レーシェがその光景を見てクスクス笑い、俺は母上の呆れ声により顔を上げた。


「二人とも落ち着きなさい。

リシュより自分達のイメージ低下の心配をするべきではなくて?」


その言葉通り、観客席いるほとんどの客が俺達に視線を注ぎ、口々に何かを言っていた。

聞こえる内容は様々。


『ルシャ=ノアルドは試合前に余裕だな。なめやがって。

予選でくたばっちまえ』など。


『まぁ、ご家族で揃って応援にいらっしゃるなんて仲がよろしくて微笑ましいわ☆』など。

『ジュニアで一度も優勝を逃したことがないから調子に乗っているんじゃないか?

女子の試合を見てる暇なんてあるのかよ。

絶対負けるぜ』などなど。


聞こえてくる大概の言葉は『図にのりやがって』という罵りだった。

陰口なんぞ叩いていないで、正面から言いにくればいいんだ。

俺と目が合うだけで顔を背けるくらいの弱虫を相手にするつもりはない。


「今そんなことは関係ありません」


俺はいたって真剣だったが、母上は変わらず呆れ口調だ。


「大有りよ。あなたこの後、初戦でしょう?」


「言わせておけばいいのです母上。俺のことなどどうとでも。

今はリシュが心配です。

・・・レーシェ、笑い事じゃない」


妹が今からバッサリと斬られてしまうかもしれないのに、さっきから小さく笑い続けているレーシェが不思議でしょうがない。不審な視線を送った。

しかし、相手は気にした風もなくまた小さく笑った。


「ふふ、そうですね。

リシュはお兄様のことが大好きでお力になりたくて大会にでたのだから、笑っていては失礼ですよね。

お兄様は心配ではなく、応援をしてあげてくださいね」


大会に出たいと言った理由を初めて知った。てっきり、剣が好きになったからという単純な理由だと思っていたのに。

俺はそんなに頼りなさそうなのだろうか?


「俺は、お前達が笑えていればいいんだがな」


家族のために戦っているのに、助けられてどうするんだ!という話だ。


「私もリシュも、お兄様が笑っていたほうが嬉しいですよ?

一人で頑張りすぎないでくださいね」


レーシェ、お前はいい嫁になるぞ。


「なんていい子達なんだ!お前達は!!」


父上が太い腕で目元を拭い、号泣しだしたせいでいろいろと台無しだ。

母上は額に手を当てて呆れ果てている。


「あなた、泣かないでください。恥ずかしいですから」






「はじめっ!!」


父上を皆でなだめていたら、早速試合が始まった。

相手は、リシュより頭一つ分背が高く、体系も・・・ふくよかで、下敷きにされたらペッちゃんこになるだろう。

しかし、その体系のおかげで動きが鈍く、小回りのきくリシュが先手をとり相手の背後に回った。

すでに鞘から抜いた剣を大きく振り上げ、相手の肩めがけて振り下ろす。


「やぁ〜!」


直後、俺は座っているのにこけそうになった。

『やぁ〜』ってお前・・・。

可愛すぎて、迫力が微塵もかんじられないぞ。

しかし、相手の女の子も戦いなれしていないのか、反応が遅れて肩に浅い傷を負って走り出す。

相手から血が流れて失神でもするのではないかと心配したが、リシュはキッと相手の顔を見据えて動揺を示さなかった。

血に慣れてほしくはないものだ。


この後も、リシュの実に迫力のない声がコロシアムに響き渡ったが、決着は案外早くに着いた。

なんと、リシュはそれ以上相手を斬ることなく、ストレートパンチで相手をノックアウトさせたのだ。女の子がパンチなんて・・・。

父上もリシュには人を斬る事に慣れてほしくなく、剣で数箇所斬りつけて相手の動きを鈍らせてから、体術で止めを刺すというふうに教えたらしい。

相手の子は、肩に傷を負っただけで滅入ってしまい、それ以上斬る必要がなかったのだ。


リシュの試合で今日のジュニア女子の部の試合が終了し、15分後には同じ場所で自分の試合が始まる予定のため、俺は一人母上たちと席で別れ、闘技場脇まで移動した。

そして、多くの人で混雑する道を通っていたときに後ろから声がした。


「お兄様〜♪」


その聞きなれた声の方を振り向くと、ニコニコしたリシュが走ってきて、俺の腰に抱きついた。

抱きついたまま妹は顔を上げ、大きな紫の瞳を輝かせながら俺からの褒め言葉を待っている。

俺は、リシュの頭を軽く撫でてそれに応えた。


「頑張ったな」


一言だったが、リシュは撫でられた頭を気持ちよさそうしてさらに笑顔になった。


「はいっ!お兄様の剣のおかげです!

わたし、ちゃんと恥ずかしくない戦いができていましたか?」


「あぁ(掛け声だけを除けば)。

強くて驚いた。無傷で勝つなんて大したものだ」


「本当ですか!」


腰に抱きついたまま、ぴょんぴょん跳ねる。

この子は、落ち着きのあるレーシェと違ってかなりのおてんば娘なため、見ている俺をハラハラさせることが多い。

たぶん、今までで4・5年は寿命が縮んでいる。


「無理はするなよ」


こう言っても無駄かもしれないが、一応はしゃぎすぎないよう言葉で釘をさしておいた。

リシュはそれに対して元気よく返事をし、抱きついていた腰から手を・・・離そうとしたのだろうが、その手は途中で止まり、不自然に宙に浮いたままとなった。


「どうした」


明かに様子がおかしい。手は動かず、視線が何かを捕えている。

俺の背後の一点へと注がれたその視線。


「あの人、お兄様のことじっと見ています。

平民の男の人」


その男が友好的な視線で俺を捕えているようではなく、リシュは不安そうな顔になり、またしがみついてきた。


平民の知人はいない。

いつかの大会で俺に負けた輩が睨んででもいるのだろうか?そう思い、俺は首だけを後ろに向けてその人物の顔を確認した。

平民も大勢この道を行き来しているため、すぐにどの人物か探し出せないと思いながら振り向いたのだが、そいつはすぐに俺の視界に飛び込んだ。

そいつとの距離は、10メートルほどあり、向こうは柱に寄りかかって腕を組んでいる。

平民の特徴である茶の髪は、珍しい赤茶色で、長さが肩の少し上で切りそろえられているが、前髪は長めで、白い顔に影を落としている。歳は俺と同じくらいだろう。

体格がもろにわかるピッタリとした黒い服を纏い、黒いブーツと黒い手袋をして、顔しか白い肌がでていない。

王家並みの高価な服装だ。

ボタンやベルトに金が使われ、腰に下げている白い布が絹であったり、首元の刺繍らしきところがステンドガラスみたいにキラキラ光っている。

リシュがかすかに怯えているから、ものすごい剣幕で俺を睨んでいるのかと思いきや、その人物の表情は、何も感じ取れない『無』だった。

気を抜いているわけではなく、どこかに力をいれている様子もない。


しかし、異様だ。

平民があんな高価な服を購入できるわけがないし、なによりあの顔立ち。

目や鼻のパーツが均等に並べられ、男の俺から見ても整った顔。

女みたいに綺麗というわけではなく、凛々しく透き通った顔で・・・イケメンというやつだ。通り過ぎる女性たちが彼の顔を見ながら去ってゆく。

何も感じ取れない『無』の表情は、その整った顔の所為で恐怖心を増幅させた。

まるで人形のようだ。

しばらく視線をはずせずにいると、いきなり向こうが目線をはずして寄りかかっていた柱から退き、どこかへ去ろうと踵を返した。

その時だ、そいつはリシュの方に視線をやり、先ほどの表情からは想像もできないやさしい笑みを浮かべた。

まるで別人。そいつはそのまま人ごみにまぎれてどこかへ行ってしまった。



「オルファン王子様よりキラキラして本当の王子様みたい」

リシュ、お前は面食いだったな。

あの人物が笑って去ってから、さっきまでの恐怖はすっかり忘れたらしく、頬をほのかに赤く染めている。


「会いたいからって探すなよ?あまりいいかんじの奴じゃなかった。

そろそろ俺は試合の時間だから、リシュは早く父上たちのところに行っておいで」


強制的に会話を中断させて、俺は自分の試合に集中することにした。試合開始まであと5分しかない。

腰に巻かれていた腕を優しくはずすと、リシュは少し不満そうに口を尖らせた。


「迷子にならないようにな」


そう言って頭を軽く叩いてやると、すぐに機嫌をよくして席の方へ走り出した。


「レーシェお姉様と応援していますね〜♪」


手を振りながら、リシュは人ごみの中に消えていった。


さぁ、気合を入れなければ。

今日の対戦相手は、今まで武術世界大会に一度も参加したことのない剣士で、なんの情報も得られていない。

向こうは俺のことをいくらでも調べられるだろうから、いつも以上に慎重に動かないと足元をすくわれるだろう。



「これより、ルシャ=ノアルドとフェイメル=サージの試合を開始する。

両者前へ」


互いに闘技場内に姿を現すと、観客席からものすごい歓声があがった。ジュニアの比じゃない。身体の芯が振動する。

高揚感を感じながらも、俺は試合が始まる前に、いつも無意識にやることを始めた。

それは、三千人近くいる客から家族を探すという無謀な行為。

なぜか無意識の内に、相手を先にみるより観客席に目を向ける。そして、結構すんなり見つけられたりする。

リシュはちゃんと席を見つけられたみたいだ。


「それってぇ!観衆に『黙れ』って合図なんですかー?」


意識を観客席に向けていたら、観衆の声に負けじと大声を張り上げている男がいた。明かに俺に話しかけている。

そいつは、足首まである深い藍色のマントが特徴的な、水色髪の貴族。片手を口の横に添えて、俺の前に立っている。

情報がまったくない対戦相手だ。

腰には、双剣が下げられていて、服装は実に高価なのだが、妙に能天気そうで見かけと気配が合っていない。

俺がそいつを観察して質問に答えないでいると、相手は肩をすくめてからまた大声をあげた。


「『ルシャ=ノアルドは、試合前に客を黙らすために睨みつける』とか『相手を最初から無視して、敵と見なしていない』とか、良くない噂になってますよー!」


初めて聞いたな、そんな噂。ただ観客席を見ているだけじゃないか。しかも、ほんの数秒のはずだ。

だが、誤解されたままなのはいただけない。


「ただの噂だ」


観衆の前で大声を上げるのは気が引けたため、普段どおりの声量で答えてしまった。

自分すらも自分の声が聞こえなかったから、きっと向こうは何を言ったのかわからないでいるだろう。

しかし、相手には聞こえていた。

いや、聞こえたのではなく、俺の口の動きを見て何を言ったのか読み取ったらしい。

次の言葉が、返事を理解したようなものだったのだ。


「でしたらぁ!予選だからって、手は抜かないでくださいねー!

俺、命かかってるんでー!」


俺が本気でいかないと死ぬのかあいつは?

プライドが折れるとかではなく?

俺は答えにいたることはなく、その直後、試合開始の鐘が鳴らされた。

ほぼ同時に地面を蹴った俺達。相手は俺に迫り、俺はそれを避けた。

まずは、相手の動きを見る必要があるため、受身をとる。

湾曲した双剣を舞のように綺麗な軌跡を描きながら的確に俺の足元を狙ってくるが、その速さが尋常じゃない。

水色の髪が通り過ぎては、すぐに剣の切っ先が急所を狙って迫ってくる。時々目で追えなくなり、勘だけで避けている状態だ。

こいつ、最初からスピード上げすぎて後半大丈夫なのか?

それだけスタミナに自信があるのか、俺を焦らせて本気にしたいのか。


どちらにしても、少し焦る必要がありそうだ。

避けても避けても追ってきて、攻撃以外に魔法攻撃を使う様子をみせないが、何か仕組まれているような気がしてきたのだ。


「・・・」


俺は今、闘技場の四隅全てに追い詰められた。

まずいな。魔法陣が敷かれ始めたかもしれない。

そして、俺が相手から飛びのいて、地面に足をつけた時・・・


「グランドプロージョン」


相手が碧いマントをなびかせて右手を掲げると、魔法陣が発動して着地したところから大爆発が起こり、俺の身体は相手の視界から消えた。

白い煙が立ちこもり、観衆がざわざわと騒ぎ出したが、フェイメル=サージは剣を構えたまま煙の向こう側を捉えている。

そして、突如真上に視線を移しニッっと笑った。

太陽を背に影が落ちてくる。銀の影。



俺は、魔法防御が施されている上着で爆発から身体を守り、煙が届かず、太陽で死角になる真上に高く飛び、そのまま抜剣して相手の眼前に斬りつけた。

向こうも双剣を組んで受身をとり、勢いをつけた俺の剣を受け止めた。


「無傷で飛び出してくる人なんて、初めて見ました。

あぁ、上着に魔法防御を施していたんですね。なるほどー」


不敵に笑うフェイメル=サージは自分が押されているのも関わらず、状況判断を迅速に行っている。

上着を一枚脱いだ俺は、動きやすくなり格段に剣の技を繰り出す速さが増して、今度は攻めに回った。

そして、その最中に、ぼそっと相手が意味のわからないことを口走った。


「さすが英雄殿」


英、雄?

国とか世界を救っちゃうような救世主のことか?

独り言のように小さな声だったが聞こえてしまった気になる単語を、俺は口に出して反芻した。


「英雄・・・」


相手は聞こえていたことに驚いたように目を見開いてから口元に笑みを作った。


「余計なところは聞き取らないで、ちゃんと本気で戦ってくださいねっ」


そのやり取りを境に、向こうがスピードを上げた。


「こんな魔法知っていますか?」


相手はそう言うと、俺の眼前から闘技場の端まで飛びのき、足元に黒い魔法陣を出して、長ったらしい呪文をカットして術名だけを発した。

黒い魔法陣は闇魔法の証。

闇魔法は他の術と違い、下手したら自分も飲み込まれてしまうという危険な術のため、魔法を極めている者さえもほとんど使わない。

同年代らしき人物がなんでこんな術を知っているんだ。

内心冷や汗をかいていると、闘技場の地面が歪み、おびただしい数の黒い帯がその場を埋め尽くしはじめた。

瞬く間に足の踏み場がなくなり、不適に笑う相手が見えなくなって、帯が俺の体を拘束しようとまとわりつく。


直後、闘技場の様子が黒い帯で見えなくなったため、観客達の歓声がざわめきに変わった。『ルシャ=ノアルドが初戦敗退?』その気配を肌で感じる。

冗談じゃない。こんなもの全て切り落としてやる。


黒い地面に吸い込まれながらも俺が剣を振り上げると、上の方から愉快そうな声がした。


「無駄無駄ぁ。この黒いのは、斬っても再生するからね〜」

黒い帯の塊が上に伸び、その上にフェイメル=サージが腕を組んで立っていた。藍色のマントが風に翻る。


再生・・・。

俺は、その言葉で一つの可能性を思いついた。

帯に触れられている肌が温かい。

その温かさは、人間の体温とほぼ同じに感じられる。足元の黒い物体は、アメーバみたいな生き物かもしれない。

冥界の生物でも呼び寄せたのか?


まぁ、なんでもいいのだが、生き物ということは心臓もあるはずだ。

そこを討てばコイツは消える。

ためしに波打つ黒い地面に手を差し入れると、脈のような振動を感じる。

こいつを辿っていけば・・・。


「気が付いたな。

コレ飼いならすの、結構苦労したけどしょうがないか」


帯の上から見下ろしていたフェイメルは、舌打ちをして右手を上に掲げ、雷雲をコロシアム上空に呼び寄せる。

全身を青白く光らせながら、彼はなんともなさそうに一言つぶやいて雷をルシャに落とし始めた。


「焦げたら悲惨な死体になるんだろうなー」


突然の雷にルシャはさすがに驚いたが、魔法で雷を打ち消し、なんとか無傷だった。


「一度に何個の魔法が使えるんだ、あいつは」


見上げた相手は冥界の生物を呼び出したまま、天候を操るという大型な魔法を使っても尚、疲労を感じさせない平気そうな顔をしている。

しかも、また雷を落とそうと右手を上に掲げ始めた。



こいつ、この歳で最上級魔法使えたりしないよな。

最上級魔法は、その名の通り魔法の中で最も強力な攻撃力と防御力を備えた術で、最も魔力を放出する大型な魔法だ。

その多大な魔力を払うことによって上級魔法までの通常な魔法とは異なり、強力な魔法攻撃を放つのと同時に、螺旋状に体の周りを回る魔法陣によって何人も術者に触れられない鉄壁のシールドが張られ、一人で軍隊の1000人ほどの力を発揮することができる・・・らしい。

まぁ、そんな不確定なことを心配している暇はない。


さて、どうする。

このまま、向こうが魔法の使いすぎで疲労を表し始めるまで雷を打ち消している時間はない。その間に足元の生物に飲み込まれる。

なら、向こうに傷を負わせて、これ以上攻撃できないようにするしかない。

俺は体にまとわりつく黒い帯を無視し、目に魔法をかけて、両手で刀を構えた。


フェイメルは右手を上にあげたままルシャを観察した。


「構えているのに目にしか魔法陣を発動しない。

刀には魔法が蓄えられている。

・・・面白いことを考えついてくれたみたいだ」


『面白い』といいながらも顔は真剣そのもの。彼はルシャから目を離さずに二度目の雷を落とした。


「来たっ」


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