少年、その者運命を左右する者なり
【準決勝=少年、その者運命を左右する者なり=】
俺は順調に勝ち抜き、なんと昨日は準決勝だった。
今日は休日だ。只今、家族と食事中。
昨日の試合のことを思い出すと、つらい・・・
昨日もあの不思議少女は、初戦から欠かさず俺の試合を観にきていた。女の子があんなもの見ていておもしろいのだろうか?
俺は本戦でも、鞘から剣を抜かずに戦えた。
・・・昨日までは。
俺に剣を抜かせた準決勝の相手は、同じ魔法貴族で、同い年の男の子だった。
常に何か企んでいそうな顔をして、やたらと余裕な態度をしていたが、バカにしているようではなかった。
「お手柔らかに、ルシャくん。
僕はルワン。
君と手合せできるなんて光栄だよ」
光栄って。
挨拶と共に、手も差し伸べられた。口が笑っているが目が笑っていない。
俺が恐いのか?
「よろしく。えっと・・・ルワン、くん」
無愛想だな俺。
なんかもっと言えばいいのに。たとえば・・・
『やぁルワンくん!こちらこそよろしく!かっこいい武器だね〜!うらやましいな〜☆あはははっ』とか?
気色わる。
というか、こんなバカ発言しか思いつかない俺って。
また嫌われるかな。
「へ!?う、うん!よろしく☆あはは!よろしく!ありがとう!」
「?」
心配とは裏腹にものっすごい笑顔で返された。しかも握った手をぶんぶん振られる。
今度は本気で笑っているようだ。
どうもこいつは、俺から返事すらもらえないと思っていたのだろう。
結果的にいいんだか悪いんだか・・・。
「では、はじめっ!」
先に仕掛けてきたのはルワンって奴の方からだった。
向こうの武器は、ランス。刃の部分に魔法がチャージされているらしく、紫の光を放っている。
それをくるくる回しながら攻撃するから、画的にはとても綺麗だ。
しかし、あたったら真っ黒焦げ確実だろう。
ランスがあたった地面は、ひび割れて黒ずんでいる。油断できないな。
こいつ、なかなか動きもいい。狙ってくるところが適確だ。
でも、適確すぎて次の行動が読める。
わざとだろうか?俺をはめようとしている?考えすぎか?
まぁ、はめられたとしてもなんとかなるだろう。
考え事をしていると逆に腕が鈍くなるから考えるのはよそう。今、すでに鈍くなってるし。
「ねぇルシャくん?」
いきなり向こうが攻撃の手を休めずに、話し掛けてきた。
ここはとりあえず返事をしておこう。なんといっても、いきなり嫌われたくはない。
「なんだ?」
「どうして今まで鞘から剣を抜かなかったの?
人が斬れないの?」
何を言いだすんだこいつ。
でも、人を斬ったことはあるんだ。
正確には人型悪魔だが、人に羽が生えた程度で斬る感覚はなんらかわらない。
昨年、父上が弱らせた人型を俺は斬った。
数日はろくに食事が取れなかったし、腕が震えて剣も扱えなかった。斬った夢を何度も見た。
命は、重い。
なのに、この試合は平気で人を斬るやつがいっぱいいる。
平気で斬れる理由は、このコロシアム内に働いている特殊な魔法のせいだろう。
ここでは、殺されてもコロシアムから出たらどんな傷でも治るのだ。
そんな所で戦っていたら、人間の感覚がおかしくなるのも仕方がないのかもしれない。
でも俺は・・・
「平気で人を斬るような奴にはなりたくない」
そう思うから俺は本戦でも、対戦相手を斬らずに気絶させるか、降参させるかしてきたんだ。
綺麗ごとを言っているのはわかってる。
将来俺は、人型悪魔を倒す役職に就くだろうし、このジュニアではなく世界武術大会で上にいくために人を斬ることに慣れなければならないのだろう。
「そうか、とてもいい考えだね。僕も同感。
でも、決勝までには斬らなきゃいけなくなるんじゃないかな。
去年の優勝者強そうなお兄さんだったし。
それに・・・僕本気で優勝狙ってるんだっ」
ルワンはそう言うと、攻撃の速度をあげた。
む。本気じゃなかったのか。今まで戦ってきた貴族達と比べて格段に速いな。
でも、まだ俺のほうが一枚上手だろう。
こいつは、この戦いの最中、何度も俺に話しかけてきて、その度に俺は返事に詰まった。
下手なことを言って、嫌われたくなかったから。
ん?なんで嫌われたくなかったんだ?
そうだ、友達になりたいと言ってくれたし、喋っていて心地よかったからかも。
そう。心地よかったから、まんまとはめられたんだ。これがあいつの武器だった。
俺はいつの間にか会話に集中しすぎて、自分の攻撃の型がワンパターン化していたことに気づかず、ルワンに背後をとられたのだ。
「もらったぁ!」
「!!」
ランスに当たれば死ぬっ!
『殺らなきゃ、自分が殺されるっ
でも、ここはまだ倒れる場所じゃない!』
「俺は、上に行くっ!」
叫んだのと同時に俺は抜剣し、剣を横に薙ぎ払っていた。
その後のことはあまり覚えていない。
俺が覚えているのは、ルワンが血まみれの腕を押さえて俺に笑いかけながら言った言葉だ。あの腕、この試合でなきゃ一生使えそうもなかったな。
「あ。なんか、吹っ切れたかんじ?
斬ることにためらいがなくなったみたいでよかったよ。
君の戦い方、もやもやして嫌だったんだよね。
ごめんね。なんか、騙したみたいで。
でも、友達になりたいのは本当だよ?
もっとおしゃべりしていたかったな。また、会える?」
「俺は、返事をしただろうか・・・」
魔法学校に入ったら会えるかな。
「いや。していないじゃないか。」
「!」
びっくりした。父上か。
食事中なのに言葉に出していたようだ。
「そうですか。自分はルワンに返事をしなかったですか」
「?ちがーう。昨日のドレーク家のご子息とはちゃんと言葉をかわしていたぞ?
しかし、今はその話じゃないだろうが」
どうやら、昨日のことばかり考えていたら、話を聞いていなかったようだ。いかんいかん。
「すみません。どういうお話をしてましたか父上」
「だから、お前にぴったりのご令嬢が決まったと言ったんだ。
で、婚礼はいつがいい?やっぱり20歳までお預けか?それもいいな。
若いうちに遊んでおけ。はっはっはっ」
は?
「いや、いやいや。え?言ってる事がよくわからないのですが、父上」
「まぁ、無理も無いわね。まだルシャは12ですもの。
でも、幼少から婚約者が決まっていることは普通なのよ?
それに、あちらの娘さんもルシャのことすっかり気に入ってらして♪
あ、でもあちらはまだ8歳だったわね。ほほほ。子供受けは意外といいのかしら?」
こ、こんやくしゃぁ!?
し、しかも8さい!?
レーシェより年下じゃないか!
ん?まて俺。無い知能を搾り出せ。
『気に入ってる』ってことは、俺と会ったことがあるのか?あるいは見たことがある?
8歳くらいの少女に俺は・・・会ったな。会ったよな。うん。
ど、どうしよう。
あの大会を観戦している少女に違いない。




