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還る場所―Silver Sorcere外伝―  作者: 土方あしこし
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其の者、幼き権力者

【ルシャ17歳下=其の者、幼き権力者】


『魔法貴族定例会議』


それは、年の暮れに行われる魔法貴族達の一年間の報告会。

ファルグド全土に存在する八家の各当主が集まり、それぞれの国の現状の報告や来年度の活動の仕方を話し合う。

だが、今日レジーム家の豪邸で行われる会議は一味違う。

本来、当主のみが出席する会議に、俺を含めた跡取り八人が出席することになっているのだ。

まぁ、ただの顔合わせというか、息子娘自慢会?


「ルシャパパにはうってつけの自慢会だよね~☆

ルシャのこと可愛がりすぎだもん」


隣にいるのは、ルワン。

今、レジーム家の屋敷内の廊下を二人で歩き、会議の行われる部屋へと向かっている。

俺はルワンに返事をせずにただ肩を落とした。


「そんなうんざりしなくてもいいじゃん。

パパに愛されているなんて幸せだよ?

俺なんて、出来が良くないと愛想笑いももらえないもん」


そりゃ、嫌な親だな。だが、俺は別に父上の可愛がりが嫌でうなだれているわけじゃない。

さっきまで世界武術大会準決勝に参加していたから疲れているんだ。

決勝戦への切符を手に入れたのはいいが、なんで同じ日に会議があるんだよ。

正装は肩がこるし、ノアルド家は『上位四家』に含まれるから、プレッシャーも大きい。


『上位四家』というのは、魔法貴族の中で最も権力を持っている家系のこと。以下がその四家。

ノーザン王の瞳『レジーム』(優れた洞察眼で、王を正しい道に導く)

サウジグ王の頭脳『ファンデル』(天才的頭脳で、王に助言する)

ウェストルダム王の腕『ノアルド』(最強を誇る武術で、王を守護する)

イースティック王の顔『ドレーク』(巧みな話術で、王の外交の手助けをする)


王がらみで活躍しているから目立っているだけで、やっていることは他の魔法貴族とかわらないが、王からの恩恵を受けていることにより、多大な権力が揮えるのだ。

そしてもう一つ、俺とルワンは特に注目されることになる。

それは、世界武術大会の決勝戦で俺とルワンが戦うことになったからだ。

実は、昨日のBブロックでの準決勝でルワンは勝ち抜き、決勝進出の切符を手にしていた。

そして、俺がAブロックで、今日の準決勝を勝ち抜いたため、頂上決戦をコイツと迎えるというわけだ。


ちゃっかり勝ち抜いてくるなよな・・・。


「ルシャ。あの部屋だよ」


「あ?どれだ・・・って触るな。ひっぱるな」


うなだれていた体を起こして前を確認しようとしたら、ルワンが俺の袖を掴んで、足早にそちらに向かう。

本日の第二試合開幕だ。



「これより、定例会議を開始いたします」


議長であり、魔法貴族の頂点に立つレジーム家の当主が会議の開始を告げた。

大きな丸いテーブルを囲んで、八家の当主たちが隣に跡継ぎである息子と娘を座らせている。

その中に見覚えのある顔があった。

魔法学校で俺のクラスの担任である『タシガ=シャリオン』だ。隣には弟らしき人物を座らせている。

相変わらず無愛想だな・・・と多少失礼な事を考えていたら目が合い、軽く会釈をする。


無視された。おい、こら。


「始めに、後継者の方々の紹介から致しましょう。

わからぬ相手のいる中、会議をするのもおかしいですからね」


ははは。と笑ってなんとも人がよさそうな当主だ。

跡取りの紹介順は、上位四家から始まり、最初はレジーム家からとなった。

レジームの跡取りはつまり、俺やルワンが当主になった時に、魔法貴族の頂点に立つ人物。

信頼の置ける人物ならいいんだがな。

しばしの沈黙後、ヒラヒラした装飾が沢山付いているドレスを着込んだ一人の少女が椅子から立ち上がり、軽く膝を折って挨拶をした。

不思議と華やかさは感じず、纏っている雰囲気は・・・うーん、爽やか?


「皆様、お初にお目にかかります!

レジーム家長女のマーリィンです。

父がいつもお世話になっています」


「マーリィンっ」


13、4歳くらいの娘に『お世話になっています』なんて言われたら、そりゃ恥ずかしいだろうな。

周りから笑いがこぼれる中、少女本人は、キョトンとしている。

芯の強そうな女の子だ。

次に紹介されたのは、ファンデル家の跡取りなのだが、この家系は数年前に破門者を出している。

その事が影響して、次期当主は幼い5、6歳の男の子だ。

当主である父の服の袖をつかみ、泣きそうな声で自己紹介をしている。こんな子供、連れてこないでもよかったんじゃ・・・。

皆が、口々にフォローの声をあげたりしている。


で、次は俺になるわけだ。


「お初にお目にかかります。ルシャ=ノアルドです。

以後、お見知りおきを」


はい、終了。一仕事終えたぞ。

と思いきや、座りなおした途端に周りから声がかかった。


「ほぉ!

華奢なイメージがあったのですが、近くでお見受けすると、結構大柄ですな」


それはどうも。えーと、どこの当主だったか。


「精悍な顔つきに、独特の威圧感を備えていて、もう王者の風格が備わってきているようですね。

大会での活躍は、常々耳にしていますよ」


はぁ、どうも。こっちは、ルワンの父親か。

いつも思うが、柔和な雰囲気はそっくりだけれど、顔はルワンと似ていない。

いや、ルワンが父親に似ていないか・・・まぁ、いいや。

仕舞いに、レジームの当主からも声がかかった。


「ウェストルダム王にも気に入られているようで、父上以上のご活躍、頼もしいかぎり。

娘を支えていってほしい」


「よろしくおねがいします!」


父親に習って、マーリィンという少女もにこっと笑って声をかけてきた。

元気そうでハツラツと喋るのは、リシュそっくりだ。


「ご期待に添えるよう、これからも精進いたします」


「いい返事ですね。

ご自慢の息子さんでしょう、ノアルド殿」


レジームの当主が今度は、父上に話を振ってきた。


「えぇ、それはもう!

我がノアルド家のために尽くしてくれる、親孝行な息子です。

私がいつ倒れてもノアルド家は安泰ですよ!」


「父上、縁起でもない」


恐ろしいことを言ってくれるなよ父上。

父上あってこそのノアルド家なんだから。


他の跡取りの紹介が済み、会議を本格的に始める頃には、マーリィンという子が会議の中心になっていた。


「これについて何か意見のある方は挙手をお願い致します」


「はい!」


「マーリィン。お前は黙っていなさい」


「なぜですかお父様?

お父様は議長だから意見が出来ませんが、私はレジーム家の意見を言ってもかまわないでしょう?」


「お前個人の意見をレジーム家の意見にされては困る。

いいから黙っていなさい」


俺より年下なのに、当主たちに意見するなんて恐ろしい・・・いや、しっかりした子だ。

マーリィンは次々と発言し、当主たちに気に入られていった。

ちなみに俺はというと、疲労のため会議中はほぼ、うとうとした状態で、混濁する意識の中、マーリィンの甲高い声でたびたび意識を覚醒させていただけだった。



そして、会議終了後、席を立ちかけた時、いきなり頭の中にオルファンの声が聞こえた。


『おい、ルシャ。

今からこい。すぐこい。一秒でこい」


うるさっ。相変わらず自分勝手だな。

でも、心なしか元気がないような気がする。


第三試合突入か。

俺は、今から城にいくことを父上に伝えようと、父上の姿を探した。


いた。誰かと喋っている。

早速伝えようとしたのだが、近づくにつれて聞きたくもない会話が耳に入ってきた。


「もう、それはそれはかわいくてねぇ♪

重たい剣を抱えて、私の後ろを一生懸命ついてくるんだよ。

『父上まって~』って、声がまたなんとも!!

だがな、11歳くらいからすっかり口数が減ってしまって、急におとなしくなってしまったんだよ。剣の修行にもくもくと打ち込むばかりでなぁ。

前はいつも、私に引っ付いていたのに。

あ、これがルシャの6歳頃の写真で・・・」


「ち・ち・う・え」


俺のいない間に何はずかしいこと暴露してるんだ!という思いを存分に込めて、父上を見据えた。

それが伝わったらしく、父上は笑顔をひくつかせて「ご、ご苦労だったな」と口ごもる。


「父上、オルファン王子に呼ばれたので、これから城に行ってきます」


「おぉそうか。あ、ちょっと待て!

お前への預かり物がある」


父上はそう言うと、何もないところから魔法で一つの荷物をだした。

それは、綺麗な藍色に染まった布がぐるぐると巻かれ、中央を紐で結んであるもの。

一体誰からだ?


「これは、婚約者であるテュイリール嬢から預かったものだ。

中身は、サウジグ産の籠手らしいぞ。

お前に使ってほしいらしい」


籠手・・・あぁ。俺は試合で毎回壊しているからな。

ありがたい。

それにしても、俺は何も送ってやってないのに、年下のむこうからもらうなんて格好悪いよな。

今度何か送ろう。

しかし、女って何をもらうと喜ぶんだろう?

全くもって女に面識のない俺は、それをもんもんと考えながら城へ向かった。


「オルファン様。顔色がすぐれないようですがどうされたのですか?」


城に着くと、いつも元気のあるオルファンの顔が青白くなっていた。

座りながら目を瞑っている。一体何事だろう。


「なぁ、おい。

お前、俺についてくるか?」


?どこかに出掛けるのか?

目を瞑ったまま言うし、意図がまったくわからない。

軽く首をかしげると、オルファンはゆっくりと目をあけた。


「父王が先ほど亡くなった」


ウェストルダム王が死んだ?オルファン同様、あんなに元気だったのに。

そのオルファンの開かれた目は赤い。

・・・泣いたな。

俺は、静かに話を聞いた。


「それでだ。

明日、俺は公にこのことを発表する。

『ウェストルダム王は死去し、新たな王オルファンが誕生する』と。

王になるからには、当然命を狙われることがある」


「はい」


「俺の命をお前に預けたい。

新たな国に忠誠を誓うか?」


オルファンは、ニヤッと笑いいつもの雰囲気を取り戻した。

まったくこんなことを改めて問われるとは、愚問だな。


「っは。この命尽きるまであなたをお守り致します。

ウェストルダム王」


叶うことはなかったが、その想いは本当だった。

本当だったんだオルファン。愚かな俺を許してくれ。


「頼もしいな。護衛官ルシャ=ノアルド。

あ」


「どうされたのです」


「嫁もらわなきゃじゃね?

やだなー。今のフィアンセ、タイプじゃないんだよ。

もっとさ、こうグラマーな?♪くびれた?♪

護衛官、新しい嫁さがしてこい☆」


「・・・やはり、護衛官は辞退します」


「うそだって!戻ってこい、こら!!

勝手に帰んな!!引き返せ!!ホント、マジで!!

ルシャーーーー・・・おさげ」


「誰がおさげですか!」


「あっはっはっは!!」



護衛官となった俺は、後日、新世界王者にもなったのだった。

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