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「断崖」
滅多に鳴らない携帯電話がけたたましく喚く。
悪夢から引き剥がされるように耳に押し当てる。
「どうした? 見たくはないのか?」
銀狼──。
頭蓋に直接響く周波数。
「何故、この番号を──?」
「くだらん。どうでも良いことを訊くから何も見えぬのだ」
「お前の姿は確かに見えた……」
「──それは当然のこと」
「何故──?」
「追っているものが同じだからだ」
口の中の水分が蒸発してしまうような不快感。
眉間に深い渓谷が刻まれる。
「──そうだ。谷だ」
「谷──?」
「谷に往けば、お前の望むものが見える」
周波数が途絶えた。
『虚を食め。そして、孤を抱け──』
薄明かりが差し込む部屋の仄暗い壁面が両側から押し迫る。
振り払うように紫煙を燻らしたが、指先が痙攣していた。
やがて、重圧から逃れるように部屋から離脱した。
『谷へ──』
脳細胞繊維に谺のように乱舞する。
黒だかりの森を目指した。
『森を抜ければ谷が在る筈だ──』
蹌踉めいた確信と誘惑の幻想が入り乱れる。
衝き動かされるように脚が地を蹴る。




