蟻
実験は繰り返された。
まず、一枚のビスケットを置いた。
翌朝には影も形もなくなっていた。
次の日には、パンを一個置いてみた。
やはり、それは一晩ですっかり解体され、運び去られた。
ビスケットの次はパンを。
パンの次は一連のソーセージを。
男は飽くことなく毎日実験を繰り返した。
相手の勤勉さを計るように、食べ物を置いては様子を見た。
幾日が過ぎただろう。
男はやはり綺麗に片付けられた供え物の痕跡を調べ終わると、顎を引き、一つ頷いた。
翌日、男は食物ではなく、女の屍体を引きずって現れた。
そして地面のちっぽけな穴を確認し、その傍らに女を置く。
それ程経たぬ間に、一匹、二匹と働き蟻たちが獲物を見つけ、近寄ってきた。
二匹が四匹に、四匹が十匹に、やがて女の肌の細かなきめが黒く埋め尽くされる程に。
蟻は隊列を作り、ひたすら女に群がった。
いつもの実験と同じく、女は分解され、彼らの巣へ、腹へと納まるだろう。
男は蠢く黒山を見届けると、踵を返し、森を去った。