氷綺
ジリリリ!!
目覚まし時計の音が鳴り私は目を覚ました。
まだ昨日のことを考えてる。
昨日のあれは夢なのだと決めたじゃないか。もう忘れてしまえ。
そうしてベッドから体をだした。
やはり冬だと寒いためずっとベッドの中にいたいと思ってしまうが学校に遅刻してしまう。
急いで寝癖がないか鏡の前に立った。
そこに写るのはツーサイドアップの髪型の美少女だ。美しい金髪には寝癖などなく。朝食を取り何も変わらず普段通りに日常を送る。…はずだったのだが。
ジー。
登校中。いつもの道を歩いているのだが。
ずっと視線を感じた。
視線を感じた電信柱の方へ振り向くと、昨日の蒼髪の美少年がこちらの様子を伺っていた…。
いやいや。昨日のあれは夢だって決めたじゃないか。
きっとあの男も私ではなく私の方角の何かを見ているんだ。そうに違いない。
「おはよ。梓奈どうしたの?」
学校の教室の扉を開け真っ先に話かけてくれたのは親友の雪だ。
セミロングで茶髪のなかなか可愛い子。
「いや、ちょっと先程から視線が…。」
「視線?」
「い、いやなんでもない。」
雪には黙っておいていいだろう。なんか視線を送ってくるアイツは問題を転がしてきそうだ。
「ん?あー。蒼永氷綺さんだー。こっち見てるようだけど何か用でもあるのかなー?」
「ちょっとまて。え?蒼永氷綺?だれのことだ?」
「えー?だからさっきからこっち見てるイケメンさんだってー。」
「そうか。それはいい。ではなぜ名前をしっているのだ?」
梓奈は首を傾げた。
「だってー。うちの学校の有名人さんだよー。みんな知ってるよー。」
まさかあのストーカーが有名人だったなんて。
いやストーカーとは酷かったか。別に私を見ているなんて確証はない。のだが…。
ジー。
やはり見られてないか?!
教室移動。
ジー。
昼休み。
ジー。
「じゃあまたねー。」
「ああ。」
ジー。
ジー。
ジー。
やっぱりストーカー!?
空はもうすっかり暗くなり寒さが増してくる。
今日一日中監視されていたことから勘違いではないことがわかった。
一体なにが目的だ。
『うるせー。黙って俺に守られてろ…。』
と昨日の言葉を思いだす。
これは、やはりそういう意味なんだろうか…。
あの…その…。告白的な…。
注意:勘違いです。
でもいつまでついてくるつもりだ?
さすがにストーカーはいやだぞ?
さすがにもう我慢も限界だ。
「おい。いつまでついてくるのだ?」
ついに聞いてみることにした。
「んー?一生?」
「は?」
いやもはや変態じゃないか。
警察に連絡しようかな…。
「昨日いったでしょ。俺に守られてろ。ってね。」
や、やはりそういう意味なのか!いやでも私そういう経験ないし、いきなりは困るというか!
「い、いや私のことがその、す、好きなことは伝わった。だが一生というのはさすがに…。」
「…なにいってんの?俺お前のこと別に好きじゃないんだけど…。」
「へ?」
じゃあなんでついてくるんだよ。
ますます意味がわからないじゃないか。
「じゃ、じゃああの守られてろ。っていうのは?」
「そのままの意味だけど?」
「いや、だから…。」
「こういうことだよ!」
氷綺はいきなり私を抱え大きく飛んだ。
「お、おい!いきなりなにをする!」
「よく見ろ。」
いままで自分のいたところにはまるで何もなかったように消えていた。
消える。ってことは。
昨日のあれ、夢じゃなかった。
ザーーーー!!
昨日と同じようにラジオの壊れた音のような雑音を響かせる黒い影だ。
「あれは一体…。」
「あいつらは<黒偽悲絶>だ。まあ君の命を狙ってるといえばわかるかな?」
「私の命…。」
守られろ。の意味をようやく理解した。
でもなんで私を…?
「理由くらい後で教えてやる!だから今は黙って守られろ!」
氷綺はまた大きく飛んだ。
ファントムが襲ってきたからだ。
だが昨日のようにすぐ決着がつかず氷綺は逃げ続けた。
「おい。昨日の氷の塊はお前だろう?はやく凍らせてしまえばいいじゃないか。」
「バカ言うな。あれは昨日止まってくれたからであんな早い奴倒せないよ。」
「…。使えな!」
「うるせー!」
だがこれじゃあ氷綺の体力が失われるだけだ。
ならば昨日と同じ状況にすればいい。
「おい。私を降ろせ。囮になる。」
「アホか。守るっていってるんだ。守られろ。…それに。君に万が一怪我なんて出来たら大変でしょ…。」
私のことを気にかけていたのか…。
そのなんだ。気にかけてもらえるっていうのは嬉しいのだな。
「ん?」
ザー。
雨だ。
急に雨が降り出したのだ。
「雨か。」
そういった氷綺の口は笑っていた。
まるで勝利を確信するかのように。
「ここからは俺の舞台だ!」
氷綺の左右の手に冷気を感じ周りの温度が急に下がったように感じる。
そして雨の一粒一粒が、凍った。
凍った雨は左右の手に引き寄せられるように静止する。
「いけー!」
左右の手を前に掲げ声をだす。すると。
一粒一粒がまるで弾丸のようにファントムに飛んでいき全弾命中する。
パチン!
指をならした瞬間氷の塊となったファントムは跡形もなく砕け散ったのだった。
この男は強い。
多分。
なんで私の命が狙われるのか。
そしてこいつが何ものなのか。
このときの私は何も知らなかったのだ。
これから起こるのは悲劇の物語だということに。