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不思議学園 短編集

大騒動は振られ話から

作者: 吾桜紫苑

「——ごめんね。俺、君とは付き合えない」

(…………は?)


 どうやら私は、たった今振られたらしい。

 「らしい」というのは、私は所謂「年齢=彼氏いない歴」という恋愛とは無縁な人なのであって、一体どうしてこんな目に遭うのか分からないから。付き合ってくださいの「つ」の字も言っていないのに、どうして振られるのか。


 言葉もなく、謎発言をしてくれた同じ図書委員かつ1つ上の先輩を見上げた。名前は何だっただろう、というか会話を交わした事さえ無い気がする。

 ただ、琴音に以前「……咲希は時々男の子に誤解を招く事を無意識にしてるから、気を付けてね?」と警告された事があるので、もしかしたらそれかもしれない。

 けれど改めて記憶に検索をかけてもやっぱり名前は出てこないし、彼に誤解させるような言動の……というか、接触の心当たりすらなかった。

 それは私が忘れているだけかもしれないにしても、だ。


(これって、どう対応すれば良いのかしら。「分かりました」も「そうですか」も違う気がするし、どこかで誤解させていたのなら「何の話ですか」は失礼よね)


 珍しく無難な対応が思い付かない。本の移動作業を終えた帰り、たまたま図書館入り口の靴箱で居合わせただけの相手にいきなり振られる——それも告白した覚えなし——なんて場面、まあ誰も予想しないと思う。


「ええと、あの……」

 ひとまず何か言わねばと口を開いたけれど、やっぱり何も思い付かない。困った顔を作って首を傾げると、先輩は優しげな……というより、申し訳なさそうな表情で頷いた。

「ごめんね……香宮さんは美人だし、真面目だし、素敵な人だと思う。でも、俺は付き合えないんだ。きっと香宮さんなら直ぐ良い人が見つかるよ」

「はあ……」

 兄とか幼馴染みとか稽古仲間とかの人気者の本性を知り尽くしてしまっている私は、異性への興味が薄い。よって、良い人が見つかる云々はどうでもいいし、さりげなく紛れ込んでいたお世辞はよく分からないし、そもそも告白していない。

 にも関わらず「振られた可哀想な子」扱いされている現状は、ちょっと何だか微妙な気持ちにさせられる。曖昧な相槌を打って、首を縦に振った。


(私は貴方に告白した覚えはありませんし、異性として意識した事もありませんし、そもそも貴方の名前すら知らないのですがどこでどのような関わりがありましたか?)


 ……まさかこんな直接話法を用いる訳にはいかない。相手は哉也でも翔でも龍也さんでも、空瀬先輩でさえないのだ。間接話法を嫌う彼等の方がとっても珍しい例外なのであって、一般的な日本人にこんな事を言おうものならまず間違いなく問題になる。彼等と違い典型的日本人である私は事なかれ主義だ、厄介事に自分から足を踏み入れる趣味はない。


 そんな訳で、私は曖昧に微笑んで一礼した。

「あの、部活がありますので失礼いたします。お疲れ様でした」

 こういう時は深く踏み込まず無難な挨拶と共に戦略的撤退、これに尽きる。

「うん……、お疲れ様」

 やっぱり気の毒そうな顔のまま挨拶を返してきた先輩に思わず「違うから」と言いそうになるのをぐっと我慢し、私はさっさとその場を去った。






(うーん……何だったんだろうなあ、さっきの)

 弓道場に到着し、1年生が掃除をしている傍ら矢を番えずに弓を引く。

 2年生、つまり先輩という立場になって早1ヶ月。当たり前のように自分の仕事だった掃除を任せきりで練習するのは未だに少し申し訳ない気がするけれど、その分練習して彼等の見本になれるよう頑張ろうと思う。


 閑話休題。


 それにしても、あの先輩は一体どうしてあんな事を言い出したのだろうか。

 特に何か前振りがあった訳ではない。作業を終えて帰る時に鉢合わせたので無難に「お疲れ様です」と挨拶して擦れ違おうとしたら、いきなり「香宮さん、ちょっと」と呼び止められてからのお断りの言葉だ。正直意味が分からない。

 琴音の警告を踏まえたって、それらしい接触の記憶さえない。一体何がどのような経緯で、私が先輩を好いているなんて愉快な勘違いをしてくれたのだろうか。端から見てて誰でも分かる琴音と哉也じゃあるまいし。


「お疲れ様、咲希。相変わらず早いね」

 むう、と眉を寄せたその時、後ろから声をかけられた。弓を元に戻して振り返り、頭を下げる。

「お疲れ様です、瀬良先輩」

 3年生にして女子部長である瀬良先輩だ。入部当初は経験者である私をやや敵視していたようだったけれど、1年間共に大会に出た経験が仲間意識にすり替えてくれたらしく、最近は関係も良好だ。「咲希ってしっかりしているようで抜けてるからおもし……色々世話焼きたくなる」という言葉はちょっと腑に落ちないけれど。

「今日って図書委員は作業日じゃなかった? こっち来ちゃって大丈夫?」

「……いえ、もう終わりましたので」

 現在の懸念事項をダイレクトに思い出させてくれるその気遣いに思わず顔が引き攣りそうになるのをぐっと堪え、にこりと笑顔を作ってみせる。

 けれど、妙に勘の良い所の有る瀬良先輩は誤魔化せなかったみたいだ。

「ん? どうかした?」

「いえ、少し……」

 笑顔を軽い苦笑に変えてはぐらかし、視線を外す。これは私の問題だから、という無言の遠慮のつもりだったのだけれど、瀬良先輩には効果が無かった。何故かにっこりと笑った瀬良先輩に、弓道場内にある女子部室に引き込まれる。


「さあ話しなさい。遠慮も拒絶も必要ないよ、いえ寧ろ私の好奇心の為に言いなさい」

(……本音丸出しの要求をどうもありがとうございます)


 有無を言わさぬ語調と笑顔で詰め寄られ、私は20分程前の出来事を簡単に説明する。

 話を聞いた瀬良先輩は、不思議そうな顔ではなく不審そうな顔で軽く顔を顰めた。


「図書委員3年……って、誰がいたっけ。各クラス1人だけど……顔とか覚えてる?」

 考え込む素振りを見せる瀬良先輩に訊かれて、記憶の中の顔を思い出してみる。

「ええと……ちょっと耳にかかるような長めの髪、顔は細めであまり日焼けしておらず、目は少し垂れ目。細身で、少しこう、おっとりした印象を与える人でした」

「なるほど。のんびりしていると言えば聞こえの良い、現実ただのヘタレな優男風ね」

「…………」


 率直に彼の事を描写するとその通りだ。瀬良先輩はどうやら、直接話法を好む数少ない日本人のうちの1人らしい。……何故私の周りに集まるのだろう。


「見かけに反して声は低めじゃなかった?」

「はい、そうですね」

「うん、じゃあ岩垣かな。隣のクラスだ」


 どうやらあの謎の言動をかましてくれた先輩は岩垣先輩と言うらしい。1つ判明してやれやれと思っていると、瀬良先輩は身を乗り出してきた。


「ねえ咲希、岩垣とは今まで関わりなかったのよね?」

「はい、記憶にある限りは」

「……そういえば咲希って、変な事忘れるよね。岩垣ってそこそこ人気あるけど、名前も知らなかったの?」

「あはは……」

 呆れ顔で半眼を向けられ、視線を逸らし笑って誤魔化す。部活で偶に迷惑をかけているので、この件に触れられると弱かった。

「……まあいいや。取り敢えず、咲希に告白した記憶は全く無いと。ううん……ちょっと嫌な感じだなあ」

「嫌、ですか?」


 思いも寄らない事を言われ、馬鹿みたいに言葉を繰り返してしまう。反応に困ったし、妙だなとか不思議だなとは思っても、嫌とは思わなかった。


 けれど瀬良先輩は意見が異なるらしく、真顔でしっかりと頷く。

「うん……、取り敢えず私の彼氏に相談してみよう。岩垣がバスケ部でカレはバレー部だから、丁度良い距離感だし。話して良い?」

「はあ……構いませんが……」

 半ば押し切られるようにOKを出した。まあ、瀬良先輩の彼氏が言いふらした所で私が恥をかくというか微妙な目で見られるだけだろう。嫌ではあるけれど、我慢出来る。


(あ、でも、岩垣先輩が気まずいかな……)


 盛大な勘違いではあるものの、断る際すまなさそうな顔をしていたのだ。振った事をあちこちで広げられては彼も肩身が狭いかもしれない。断るのは自由なのに、私が可哀想とか岩垣先輩酷いとか言い出す人はどこにでもいるものだ。

 その事に思い当たり、あまり広げないようにお願いします、と瀬良先輩に言いかけたけれど、瀬良先輩がはっとした顔で私の両肩をがっしと掴む方が先だった。


「それより咲希! この事、他の人にまだ話してないよね!?」

「え? ええ、ですから——」

「だったらもう誰にも話しちゃダメ、いい、だ・れ・に・も、よ!? 吉祥寺さんだって香宮君だって中西君だって、とにかくだれっにも話しちゃダメだからね!?」

「え、えっと……琴音もダメなんですか……?」

「ぜーったい、ダメ!」

 怖い程の剣幕に気圧されながらも頷きを返す。哉也の眼光や覇気にも動じない私をここまでたじたじにさせるとは、一体何をそんなに必死になっているのだろう。


(というか、哉也や翔にこんな事カミングアウトしてからかわれる趣味ないし……でも琴音がダメって何でだろう、この感じだと朱音や亜希子もダメよね)


 わざわざ振られた事を言いふらすつもりは無いけれど、相談するのもダメというのはちょっと残念だ。他人の意見を聞いて考えてみたい。


「いい? 分かった?」

 けれど、怖い程真剣な顔で念押ししてくる所を見ると従った方が良いだろう。腹黒2人組のように気を抜くと良いようにこき使ってくれる例外を除けば、年長者の忠告は素直に聞いておくものだ。


「はい……あのでも、どうして……?」

 とはいえ理由を聞く事くらい許されるだろうと思いそっと尋ねれば、何故か瀬良先輩は肩に置いていた両手を外して私と距離をとり、あらぬ方を見てぼそっと呟いた。

「バレンタインデー、ホワイトデーの騒ぎも気付いてないのか……嫌な予感が当たっても当たってなくても魔王が降臨するに決まってるじゃん……無自覚姫って怖い」

「え、っと、あの……?」


 妙に虚ろな目で遠くを見たままよく聞こえない低い声でぶつぶつ呟かれたら、ちょっと引いてしまっても仕方ないと思う。


 微妙に距離をとりつつ声をかければ、先輩は瞬きを1つして私に視線を向けた。よかった、戻ってきた。

「ううん、こっちの話。この段階で他の人に話すと、咲希が微妙な目で見られかねないから。咲希の味方になってくれる人に話したら話したで、岩垣が困っても嫌でしょ?」


 ……後付けというかこじつけのような雰囲気を感じた。というか、岩垣先輩が「困る」という言葉が、何だか妙に沢山意味が込められている気がしてならない。


(ううん……翔とか哉也ならここでがんがん問い詰めるんだけど……)


 善意で行動してくれていると分かる相手を疑うような真似はしづらい。挙動不信はともかく、瀬良先輩の目に浮かんでいるのは純粋な心配なのだ。心配してくれる人の好意を無碍にするのは気が引けるというか、この程度の事でそこまでする必要を感じない。


「……そう、ですね。分かりました」

 よって、私は素直に頷いておく事にした。必要になったら相談しよう、とまるきり面従腹背な事を考えながら。


「よしよし、素直な後輩は好きだぞ。さって、正規練行こうか」

 当然、そんな腹黒い発想なんてこれっぽっちも無い瀬良先輩は、そんな私の本音をまるで勘付く事なく。満足げに頷いている先輩に誘われるまま、私は道場へと戻った。



*****



(…………何なんだろうなあ、本当に…………)

 奇妙な状況の連続に、私は疲れたような溜息を漏らした。


 あれから早1週間。状況は更に訳の分からないものとなっている。相談役となってくれている瀬良先輩のアドバイスも虚しく、私の学年では噂となりつつあった。


「咲希、大丈夫?」

 朱音の心配げな問いかけに、私は曖昧な笑みを浮かべる事しか出来ない。

「うん……流石に、偶然とは思いづらいかな」

「毎日だもんね、岩垣先輩が声かけてくるの……」


 そう。亜希子の言う通り、何故か岩垣先輩が毎日事ある毎に接触してくるのだ。


 登校時、休み時間の移動教室、部活への移動時、委員の仕事時、放課後。どこかへ移動するとほぼ岩垣先輩と鉢合わせ、しかも必ず話しかけてくる。

 会話は当たり障りのないもので、私も無難な応対をしている……けれど。


(……何考えているのか分からない人との接触が途絶えないのって、意外とストレス)


 知りたくもなかった発見だが、事実だ。岩垣先輩はいつでも捉え所のない笑顔を浮かべていて、考えている事を全く窺わせない。それとなく会話の中で探ってみても、柳に風で見えてこない。

 多分、今まで知り合った連中とはまた別の「変わった人」なのだろう。一種独特の思考回路をしているせいで表情の変化の理由が分からない。当然、考えている事もトレース出来ない。

 厄介な人に目を付けられたと思う。こちらとしてはとても関わりたくない人種なので、正直鬱陶しい。ただでさえちょっと他人様には言えない秘密を抱えている身、あまり関わられると落ち着かなくて仕方がない。


 内心溜息を漏らしつつ、選択教科の教材を持って教室を出る。多分また話しかけられるだろうなあと思ったその時、両脇から朱音と亜希子が顔を出した。

「一緒に行こ」

「あ……うん。ありがとう」

 相変わらず優しい2人だ。琴音とはクラスが別になってしまった上に生徒会が忙しそうであまり会えず少し残念だけれど、互いに親友と呼び合って憚らない、面倒見のよいこの2人とまたクラスが同じになれたのは幸いだと改めて思う。


 3人で階段を下りていると、朱音が話を切り出した。

「そういえば咲希、最近琴音と会ってる?」

「え? うん、月に2,3回琴音の家に遊びに行ってるよ」

 琴音の料理の腕は相当上がっていて、もう「食べ物じゃない」なんて誰にも言わせない、というか普通に美味しい。けれどレシピを増やしたいという琴音の要望と、夕食を一緒にという琴音の強引な誘いに押し流され、土曜の午後に琴音の家を訪れて一緒に料理を作りそのまま夕食を、というパターンが増えている。

 だからそう答えたのだけれど、何故か朱音と亜希子が一瞬固まった。

「……い、家に?」

「そうだけど?」

 友人の家に遊びに行く事が何かおかしいだろうかと首を傾げる。表情から察したのか、朱音が重ねて訊いてきた。

「や、あのさ……琴音って確か、空瀬先輩と一緒に住んでなかったっけ……?」

「……ああ、そういう事か。ええ、そうね」

 言いたい事が分かって、私は苦笑気味に頷く。


 琴音と一つ屋根の下で暮らす、1つ上の空瀬先輩は有名だ。文句無しの美形とハイスペックと厳重に被った猫の皮にものを言わせて有名かつ人気者である哉也や翔とは、また違う意味で。直接話法に頼れば「ちょっと不気味な変な人」扱いだ。お気の毒に。

 ……まあ、学校を爆破しかけ説教が異様にど迫力で時々突飛な行動に出る人を他の方向に捉えられる人って、なかなかいないと思うけれど。

 その例外が去年の生徒会役員一同と私だ。流石にほぼ1年間関わっていれば、発想が突飛な人という認識は更に強まるものの、不気味とか変という単語は出てこない。というか変と言えば去年の生徒会役員が全員変だ、空瀬先輩が溶け込む程度には。

 ……話がずれてしまった。要するに、私としては空瀬先輩を敬遠する理由は全く無いのだけれど、朱音や亜希子には多かれ少なかれあるのだろうという事だ。


(悪い人じゃないんだけどね……というか感性は意外と普通だし、顔に出ないだけで感情豊かだし、頭良いし、話していて楽しいんだけどなあ)


 何度も夕食を同席させてもらっている私は、空瀬先輩とのディスカッションや先輩と琴音の楽しいやり取りのおかげで、初対面時のあれこれによるマイナスイメージは完全に払拭されている。……いや、その後命を助けてもらっておいてまだ根に持つような失礼さはそもそもないけれども。

 自分でもどうかと思う程警戒心も解けている今、朱音と亜希子の春影高校生として至極まともな反応を見ても、「そんなに身構えなくてもなあ」という感じだ。


「勿論、空瀬先輩は受験生だから邪魔にならないようには気を付けているわよ。……琴音が大丈夫って押し切る事が多いけれど」


 唯一気になるとすれば、受験勉強の邪魔になっていないかだけだ。私が琴音の料理教室がてら夕食にお邪魔した程度で勉強に支障を出すような人とは思えないので、杞憂に近い。琴音もそれが分かっているから全く遠慮せず私を誘うのだし。


「……いや、うん。そうじゃなくてね」

 けれど予想に反して、朱音の表情は微妙なままだ。見れば亜希子も同様で、どうかしたのかと首を傾げる。

「何? 別に嫌な思いはしていないわよ?」

「……でしょうねー。うん、気にしないで咲希。ちょっと、用意周到さの怖さと情報統制を徹底している私達の努力の正しさを再確認しただけだから」

「はあ……?」

 朱音のいつもより低い声に怪訝な声を返すけれど、朱音はそれ以上何も言わない。亜希子もうんうんと頷くだけで何も説明してくれなかった。


(うーん……?)


 どことなく、瀬良先輩と反応が似ている気がした。どうにも学年が上がる前辺りからこの手の反応によく出くわす。言葉に繋がりがなくて、視線があらぬ方を向いているのが特徴だ。


(何かやったかなあ、私……?)


 尋ねても誰も答えてくれないので、少し寂しい。というよりも、皆が当たり前のように分かる事を分からない馬鹿なんじゃないかと思えて不安だ。

 しばし自分の言動と相手の反応を思い出して考えてみるも、やっぱり分からない。取り敢えず保留にして、また今度考えてみよう。

 そう結論づけて顔を上げた途端、内心呻きを漏らした。


(出た……)


 もはや幽霊同然の扱いの岩垣先輩だ。ばっちり目が合ってしまった岩垣先輩は、にこりと例の読めない笑みを浮かべて近寄ってくる。

「こんにちは、香宮さん。移動?」

「ええ、私達生物学をとっているので」

 答えたのは私でなく、朱音だった。驚いて横を見ると、妙にきりりとした表情で岩垣先輩に対峙している。

 岩垣先輩も少し驚いたようで表情が崩れたけれど、直ぐにまた感情が読みにくい曖昧な笑顔に戻った。

「そう、春影の生物は厳しいのに偉いね。俺も生物だから、ノートいる?」

「咲希がとっても優秀でいつも私達に懇切丁寧分かりやすく教えてくれるので全く問題ありませんお心遣いだけいただいておきますどうもありがとうございます!」


(……おお、流石陸上部)


 見事な肺活量を披露した朱音に感嘆の視線を向ける。きっ、と睨むような目をしているのはちょっと息苦しいからだろう。当然である。


「……そう。分かった、じゃあまたね」

 朱音の勢いに圧されたのか、岩垣先輩はにこりと笑ってそう言い、去って行った。それにしても「またね」とは、まさかまだ関わるつもりなんだろうか。

「参ったなあ……」

「咲希ちゃん、大丈夫?」

 亜希子に心配そうな声をかけられ、心の声が漏れていた事に気が付く。いけない、と自分を戒めて、安心させるように微笑む。

「大丈夫。岩垣先輩も悪意はないよ、面倒見が良いのだと思う」

「そうかなあ……」

 警戒心を剥き出しにした朱音の声はスルーした。私もなんとなく嫌な予感を感じているけれど、だからこそ、この優しい2人を巻き込みたくはない。


(ま、生徒会レベルの厄介事にはなりえないでしょうし、どうにかなるわよね)


 そう自分を励まし——人間1度大変な思いをすると大抵の事は何とかなると思えるものだ——、私は2人と一緒に生物の教室へと急いだ。



*****



 更に1週間。岩垣先輩からのコンタクトは未だ続いている。予想外にも噂が同学年の子以外に広まっていないのが不幸中の幸いだけれど、そろそろ本音をうっかり漏らしそうで怖い。


(鬱陶しいからもう声かけないでください、って言ってしまいそう……)


 本人に悪気は無さそうだけれど、岩垣先輩と話すと調子が狂う。その独特の思考回路故なのだろうけれど、時々「え?」と思うような事を言ったりしたりしてくるのだ。


 図書委員のくせに「何でそんな本好きなの?」と聞いて、私が図書館で読んでいる本を覗き込んでくる。

 同じく図書館で自習していたらぽんと肩を叩かれ、「お疲れ。分からない所があったら教えるよ」と言って目の前の席に——空いているテーブルばかりなのに——座る。

 昨日なんて「髪の毛かなり乱れてるね」と言いながら、許可無く髪に触れてきた。しかも雑に扱うからもっと乱れた。


 ……とまあこんな風に、なんというか、馴れ馴れしい。人気あるらしいから女の子の扱いに自信があるのかもしれないけれど、私としては「どうしてそんな親しげにしてくるのか」と聞きたい。

 近付かれて警戒心が込み上げるし、どうにも不快だ。仮に同じ事を空瀬先輩にされても——あんな無遠慮な態度なんて絶対にとらないので、飽くまで仮に、だ——気にならないけれど、出会って2週間の相手にされるのは嫌だ。……哉也や翔にされたら病気を疑う。


 瀬良先輩には2回程「はっきり拒否なさい」と言われているし、朱音は先週一緒にいる時に遭遇し全身で威嚇してくれて、岩垣先輩もその時は直ぐに引き下がったのだけれど、その後から私が1人でいるタイミングを狙って接触してくる。

 朱音のようにさっさと拒否すれば良いのにと言われそうだけれど、悪意のない人をあからさまに拒絶するのはどうも気が引ける。相手を傷付けたくないからではなく、こっちが批難されるのが嫌、という自分勝手な理由だ。

 だからこそ、ほぼ赤の他人に対して当たり障りのない範囲で無難に対応してきた。愛想笑いで大抵の事を乗り切れる程度の容姿に生まれた事には少し親に感謝している。


 けれど、今日はちょっと違った。


「お疲れ様、香宮さん」

「……お疲れ様です、岩垣先輩」

 放課後弓道場に向かっていた私は、またもや自然な風を装い人の流れを割って現れた岩垣先輩に捕まった。


 微笑と共に挨拶を返しつつ、私は少し訝しく思った。なぜならここが、人通りの多い校門に繋がる道だったので。

 今までは人目の少ない所でしか鉢合わせ……訂正、待ち伏せされなかったのだ。人の目に付くとしても移動教室に向かう廊下が限度。だからこそ噂が広がらなかったのに、何故今になって放課後最も生徒達が集まる場所に待ち伏せていたのかと。


「今から部活?」

「ええ。大会も近いので、少しでも練習を頑張りたくて」

 今週末のインハイ予選を理由にその場を去ろうと「時間が惜しい」アピールをするも、岩垣先輩は空気を読まず続けた。

「そっか。俺ももうすぐ大会だな」

「頑張ってください」

 応援しています、のフレーズは省略。流石に心にもない事を言う気はしない。

 儀礼的な応酬が終わった為、一礼して去ろうと体の向きを変えかけた、その時。



「——ねえ、香宮さん。もうやめない?」

「え?」



 2週間前に負けず劣らずの唐突かつ意味不明な言葉に戸惑う。何が言いたいのかと向き直った私は、初めて見る険しい表情と続く言葉に、今まで無難な態度をとってきた事を全力で後悔した。



「もうやめない? こんな風に、俺に付きまとうの」

「————」



(そう来たか……!)

 内心呻いたけれど、時既に遅し。

 いつもより明らかに大きい声で言い放たれたそれは、放課後の騒然とした校庭にもよく響いた。辺りが一斉に静まりかえり、視線が集まる。


「……何の、事ですか」

「2週間ずっと、俺に付きまとってきたじゃないか。事ある毎に俺の視界に入ってきてたのに、はぐらかす気?」


 ざわり、と校庭の空気が揺れた。私に向けられる視線がみるみるうちに冷たく、厳しいものへ変わっていく。


(……やられた)


 どうやらこの先輩、読めない笑顔の裏になかなか黒い思考を隠していたようだ。随分と用意周到に仕込まれた罠に、感心しさえする。

 こうして人前で言われてしまえば、無実を主張しても誤魔化そうとしているとしか思われない。噂は広がらずとも私達が話している所を中途半端に記憶している人がいるだろう、どちらから話しかけたのかは見ないままに。


「俺が振ったからって、こんな行動に出るのはどうかと思う。こんな事をされたって、俺の気持ちは君には向かない」


 そしてあの唐突な「お断り」も、ストーカーの切欠として十分な効果を発揮する。


(誰も見ていない以上……いえ、見ていても手紙やメールの返事だと思われるから狂言とは思わないか。先輩には愚痴ったけれど……アリバイって事に出来るわよね、この状況)


 朱音や亜希子、瀬良先輩は私が騙して味方に付けた、あるいは恋愛脳で協力したと受け取られかねない。少なくとも今この場で反論してもらえない以上、周囲の誤解は解けない。「香宮咲希=ストーカー」説は今日中に固定して、翻る事はないだろう。

 気になるのは、何を思ってこの人は赤の他人に近い私をストーカーに仕立て上げたいのかという点だ。何となく背後に女がいる気がする、去年の生徒会の面子に惚れているのが。学年上がる前についにばれた、連中にこき使われていたという事実が羨ましかったのだろうか。正直いつでも変わって欲しかったのだけれど。


(生徒会の手伝いしてよかった事なんて空瀬先輩とディスカッション出来る立場になった事くらいだし、それだって琴音と友人だから生徒会は不要だと思うのよね)


 何が悲しくてこんな人に振られた腹いせにストーカーした人として後ろ指を指されなければならないのか。そんな状況で後2年間過ごせなんて、流石にごめんだ。

 という訳で、私は1つの選択を下した。



「——何か誤解なさっているようですが、私は岩垣先輩には興味の欠片もありません。2週間前にいきなり声をかけられた時点では名前も知りませんでした」



 武道で鍛えられた良く通る声を張った私の言葉に、場の空気が別の意味で凍った。

「……は?」


(あ、ラッキー)


 岩垣先輩も上手い事フリーズしてくれたようだ。これ幸いと大きく息を吸い込む。


「2週間前、岩垣先輩は確かに私に「付き合えない」と仰いました。ですが私は岩垣先輩に告白なんてしていません。その時も今も恋愛感情は一切なく、3年の図書委員の先輩という認識でしかありません。そして同級生や弓道部長の瀬良先輩がいれば証言してくれると思うのですが、付きまとっていたのは私ではなく岩垣先輩です。散々鬱陶しく付きまとった挙げ句に人をストーカーに仕立て上げようという先輩の企みには悪意しか感じられませんが、私は何か先輩の勘に障るような言動をいたしましたか? もし不快な思いをさせてしまったにしても、あまりにも悪質で傍迷惑で高校生が行うには驚く程幼稚な嫌がらせだと思うのですが、その辺りはどのようにお考えでしょうか」


 途中から物凄く本音がダダ漏れてしまった。反省。


(だって本当に鬱陶しかったし、腹立ってるし、小学校の頃似たような嫌がらせをされた以上幼稚という言葉には嘘はないし、少し位自制出来なくても仕方がないと思う)


 誰にするでもない言い訳——強いて言えば琴音だろうか、叱られるとすれば琴音だけだ——を心の中で済ます。だって腹が立ったんだもの、なんて言い訳を私がするとは夢にも思わなかったけれど。

 ……なんだか哉也とやっている事がそっくりな気がする。いや気のせいだ、私にあんな傲岸不遜で人の神経をがりっと抉る物言いをする機能はない筈だ。多分。


 周囲の目は、またもや変わっていた。毅然とした物言いが効を奏したか、狙い通り厳しい視線が岩垣先輩に向かっている。一部意外そうな信じられないような目が私に向けられているのも、予想の範囲内だ。見た目(そこそこ美人)と態度にものを言わせて主張を押し通した結果、今までの「大人しい本好き」という設定——嘘ではない、自己主張はあまり好きではないし本は大好きだ——とはがらりと異なり、「はっきりとものを言う、ちょっと口が悪い人」になってしまったのだ。仕方ないと言うべきだろう。

 ……「成績と見た目がそこそこ良いのを鼻にかけてお前なんぞ眼中にないと面と向かって言い切る性悪女」という印象を一部の人に与えてしまった気がするのがちょっと心配だ。明日からいじめられても証拠を残せるよう、スマホのカメラ機能はいつでもオンに出来るようにしておいた方がいいかもしれない。

 ただ、後悔はしていない。ストーカー評価と性悪評価ではまず間違いなく天秤は後者に傾く。流石にそれを見誤りはしない。


(だってありえないでしょう、こんな何考えているか分からない、笑みが胡散臭くて鬱陶しくて腹黒くて失礼極まりない男に振られた腹いせにストーカーする女扱いなんて……)


 言いがかりにも程がある。人には我慢出来る事と出来ない事があるのだ。ストーカーなんて気持ち悪い存在と同等に扱われるだけでも許せないのに、よりによってこんな人が好きだなんてぞっとしない——


(……ん?)


 はた、と自分の思考に違和感を覚えた。何となく順番が逆だった気がする。


(普通、ストーカーと思われる方が嫌じゃないのかしら……?)


 どう考えても不名誉度はストーカーが断然上だ。にも関わらず、岩垣先輩が好きと思われた事への不快感が圧倒的に上回っている。元々他人の目が気にならない方だからストーカーと後ろ指を指される事を気にする度合いは低いと分かっていたけれど、流石に順位が逆になるのはおかしい、気がする。

 けれど何度自分の感情を確認しても、ストーカーの汚名より勝手にこの鬱陶しくも興味の無い岩垣先輩に惚れている人扱いされた事の方が不快に感じている。我ながら謎だ。

 無関心な人への好意を勝手に持たされた事がこれ程腹が立つ理由は、とTPOも忘れて考察しかけたその時——



「見事な啖呵だね」



 無駄に爽やかな声が、校庭の人垣を縫って響いた。


 聞き覚えのある声が直ぐ後ろから聞こえた事に驚いて振り返れば、爽やか生徒会長仕様の翔がにこやかに私の肩に手を置く所だった。

「中西会長?」

「元会長だね、今の会長は琴音だよ」

 そうだった。生徒会長は2年生が1年間行う仕様なので、学年が上がった今、翔から琴音に会長職は譲られている。


(どうも翔の会長っぷりが印象強いのよね。胡散臭い爽やか笑顔とか腹黒さとか人のこき使い度合いとか、ばっちり会長って感じで……あれ)


 今挙げた特徴だけなら岩垣先輩と翔はそっくりらしい。でも不快なのは岩垣先輩だけ、根本の性格の悪さと格の違いのせいだろうか。


(翔は良い意味で性格悪いのだし腹黒も弁えているけれど、岩垣先輩は本気で性格歪んでる上にやっている事はたちが悪いものね)


 1人納得している間に、ようやく岩垣先輩は我に返ったようだ。ややぎこちない笑顔を貼り付けて翔に話しかける。

「見事って事は、中西は香宮さんの事を信じるのか?」

「うん。説得力あっただろう、みんな信じてると思うよ」

 ねえ、とこちらは綻びなんて一切存在しない見事な爽やか笑顔を浮かべて周囲を見回す。周りはつられたように頷いた。流石の統率力である。

「何でそんな事を言うんだよ! 付きまとわれていたのは俺なのに……」


(お、ここで演技か)


「そんなすぐにばれる嘘をつかないでください」

 やや悲壮感漂う物言いに他人事気味に感心しつつ律儀に否定しておく。生徒の人気者である翔が私の肩を持った時点で勝敗は決まったのに、往生際の悪い人だ。

「俺は香宮さんの言う事の方が納得出来るな。香宮さんがそんな事するとは思えないし。というか、そもそもありえないしさ」

 あくまでも爽やかに、けれどきっぱりと相手の主張を取り下げる翔を、岩垣先輩は一瞬強い憎悪の視線で射貫いた。


(あ、仮面剥がれた)


「ありえない!? 俺に言わせれば、香宮さんの主張の方がありえない! 何でわざわざ俺が、香宮さんがストーカーしてるなんて嘘つかなきゃならないんだよ!?」

「さあね、それは岩垣しか知らない事だ。大方、香宮さんに岩垣の事を印象づけたくて接触したけど効果が無くて腹いせにって所かな? そんな事でこんな騒ぎを起こすなんて、いい度胸だと思うけど。そんな勇気があるとは思わなかったよ」


 どこまでも爽やかかつ好青年風に返す翔の最後の言葉に、一瞬だけ岩垣先輩の顔が強張る。直ぐに無理に奮い立つような強気な表情に変わったけれど……勇気ってそういう意味なんだろうか、ちょっと意味が分からなかった。


「っ、中西が香宮さんの肩を持つ理由は何だよ!? 俺に何か恨みでもあるのか!?」

「全く無いね。というか、俺の恨みを買うような事した? 覚えがないんだけど」

「……っ」


(……いいの翔、今微妙に爽やか崩れたわよ)


 言外に「そんな器じゃないだろう」と告げた翔が一瞬だけ黒かった事に驚いた——何せこの程度の相手に猫かぶりを崩す人じゃない——私は、続いて翔が投下する爆弾を全く察知出来なかった。



「あと、俺が香宮さんを信じる根拠だけど。香宮さん、好きな人いるから」



「……は!?」

(………………は!?) 


 あまりの驚愕に声も出なかった。唖然として固まった私を余所に、翔はどこまでも爽やかに高らかに宣う。


「去年の生徒会の人は勘付いてたけど。香宮さんが隠しているのと吉祥寺さんが口止めしていたのもあって、ばれてなかったか。残念だったね、大前提が崩れて」


(いやちょっと待って、流石に大嘘にも程があると思う!)


 まだ声が戻らない私は取り敢えず振り返って止めようとしたけれど、未だ肩に置かれていた手に力が込められ阻止された。無駄に力があるのが腹立たしい。


「っ、誰だよそれっ、どうせ嘘だろ、言ってみろよ!」

「ええ? 酷いな岩垣、この衆人環視の前で言えって?」

「はっ、嘘だから言えないんだろ! そんな見え透いた嘘、誰が信じるんだよ!」


(……今の態度がとっても嘘だと物語っていると思うのは私だけ?)


 破れかぶれに近い言動を繰り返す岩垣先輩を見て、現実逃避気味にそんな事を考えた。うん、少し動揺がおさまったみたいだ。

 さてこの狂言をどう終わらせようかと思考を巡らせたけれど、時既に遅し。


「嘘じゃないけどさ、良識的にこの場で言うのはどうかと思うんだけど?」

「はぐらかすなよ、去年の生徒会が気付いてたなら誰でも分かる相手って事だろ!」

「いや、そうだけどさあ……」


 翔がオーバーに肩をすくめる気配を感じた。物凄く嫌な予感がして翔を止めようとするより早く、続く言葉が校庭中に響き渡る。



「言いふらさない方が良いと思うんだよね、香宮さんが空瀬を好き、だなんて」



『……っ、えええええ!?』

 悲鳴の大合唱が響き、岩垣先輩が文字通り凍り付いたのを尻目に、私はせめてもの報復にと渾身の力で翔の足の指を踵で踏みつぶした。



*****



 その週の土曜日。定期的に行われる土曜講座の後直接琴音の家にお邪魔し、いつものように料理教室がてら夕食をいただいた私は、琴音に尋ねられるままに事の顛末を話した。

「へー、結局咲希の予想通り、裏に妬んでたのがいたんだ?」

「ええ、瀬良先輩が見つけ出してくれたの。あの日捕まえたものの、こっちの騒ぎを止めるには遅かったって謝られた。そこまでしてもらっただけでもありがたいのにね」

「咲希って自分を狙う動きには割と無頓着だよね、もっと早く調べればよかっただろ」

「……その点に関してはとても反省しているから、言わないでちょうだい」

 面倒がって裏を探らなかった対価はちょっと大きかった。ストーカー疑惑と比べれば天と地程差があるとはいえ、学校中に空瀬先輩が好きと誤解される羽目になるとは夢にも思っていなかった。真面目に翔に罰が当たらないだろうか。

「あはは。でもごめんね、全く気付けなくて」

 琴音が申し訳なさそうに眉を下げるから、私は直ぐに首を横に振る。

「琴音は生徒会忙しいから仕方ないわよ。それに、元生徒会長サマが噂まできっちり操作したから一応大丈夫よ、一応ね」


 そう、あの件の噂は思わず半眼になるくらい完璧に操作されていて、岩垣先輩の想い人である私が岩垣先輩を見もしない事を逆恨みしてストーカーした挙げ句、その所行を私に擦り付ける事で貶めようとして、最後には私を好きな人の名前を言わせるまで追い詰めた、という完全な悪役扱いだ。翔は私を助けたように扱われていて、カミングアウトした張本人である事実は綺麗に無かった事にされている。

 ……私が本音を漏らしたのも無かった事にしてくれたのはありがたいけれど、勝手に作り上げた好きな人説も無かった事にしてほしかった所だ。恋愛事は無かった事にするのが難しいのは分かるけれど。


 皮肉を込めた私の言葉に、琴音は失笑と苦笑の間のような反応を見せた。

「翔はなあ……相変わらずというか、池上が聞いたらまた何か言いそうというか……」

「ああ、池上先輩は翔の腹黒さがどうしても肌に合わないみたいだものね」

「まだ哉也の方が許せるみたいだね、哉也は池上の事嫌いだけど」

「嫌いというか、自分よりも他人を優先している姿が理解出来ないって感じね」


 関心が他に移った所でこの話は終わり。そう思ったのだけれど、琴音はわざわざ地雷へと突入していった。自分の隣、私のはす向かいに座っていた空瀬先輩に顔を向け、咎めるような声を発する。


「……いつまで黙って不機嫌な空気まき散らしてるの、鬱陶しいよ宏」

「琴音、この場面でコメント出来る方が驚きよ」

 話の間中ずっと押し黙って食事を口に運んでいた空瀬先輩がどことなく不機嫌なのは、仕方のない事だろう。私も本人の目の前で話すのは結構抵抗があったのだ、聞く側のいたたまれなさたるやちょっと同情する。

「他人事みたいに言うけど、咲希は割と平気よね」

「根掘り葉掘り聞いたのは琴音じゃない」

 琴音のからかい気味の言葉にきっちり返してから、私は今まであえて視線を逸らしていた空瀬先輩にちらりと目をやった。


 私と琴音2人の視線を受けて、空瀬先輩は夕食開始時からずっと閉じていた口をようやく開く。

「……不機嫌な訳ではない。何か言う必要を感じなかっただけだ」

 それはそうだと思わず納得して頷く。不機嫌じゃないというのは微妙に怪しいけれど——だって何となく空気が硬いのだ、さっきから——、空瀬先輩のコメントなんて私だって気まずくてあまり聞きたくない。

「無難な反応ありがとう」

 対して琴音は何が不満なのか、皮肉げな笑顔と共にそう返した。


 それから全く関係のない話へと移ったけれど、空瀬先輩がどことなく不機嫌なのは変わらず、いつもより会話が弾まなかった。私は私でちょっと気まずいというか申し訳なさがあり話しかけにくく、折角の夕食会が静かなものになってしまった。週1回の楽しみなのに、少し残念。


 夕食が終わり片付けようというタイミングで、琴音の携帯が鳴った。琴音が電話に出ている間に、私は手早くお皿を片付けて台所に運ぶ。お相伴に与っているので、片付けくらいはといつもさせてもらっているのだ。

 作業している間も、リビングのソファに移動した琴音の声が途切れ途切れに聞こえてくる。


「へえ……そう。うん……他にいないでしょ。……そっちは……ああ、やっぱり……うん……うん、了解。また明日」


 最後のフレーズはこっちにやって来ながら言うものだからはっきり聞き取れた。食後にと淹れたコーヒーをテーブルに置きながら訊く。

「哉也?」

「……よ、く分かるよね」

 微妙に反応がよくないので、肩をすくめた。

「琴音が土曜の夜、私がいる時にかかってきた電話に出て、しかも明日また会う相手なんて哉也以外にいたら驚きよ」

「う……ん、ごめん」

 真っ赤になった琴音を見てくすりと笑いを漏らす。自覚はあるらしくて何よりだ。


 付き合って数ヶ月、丁度いろんな事に嫉妬してしまう頃合いらしい。面白いので時々煽って遊んでいるから、哉也もさぞかし四苦八苦している事と思う。


「そ、それでね。咲希に伝言というか……」

「……何か物凄く聞きたくないから聞かなかった事にしたい」

 哉也からの伝言なんて碌なものじゃないと顔を顰めると、琴音は苦笑して首を振った。

「違う違う。翔経由なのかな、よく分からないけど。……岩垣って男、転校するって」

「え?」

 いきなりの情報に目を見張る。琴音がくいっと口の両端を持ち上げ、チェシャ猫のように笑った。相変わらずその少し皮肉の入った笑顔がよく似合う。

「あれだけ噂になればね、居づらくなったんじゃないの? 自業自得だよ、咲希に手を出そうなんて巫山戯た男、もっと早く叩き潰したかった」

「……琴音? どこかの元生徒会長や彼氏に似てきているわよ?」

「上等。親友に散々不愉快な思いをさせた奴の転校届けなんて、笑顔で受諾するよ」

「あはは……」

 苦笑混じりに笑って流す。いつの間にか春影高校の生徒会長らしくなっている友人が頼もしい、と言って良いのか。

「でも岩垣先輩、噂くらいでいなくなるようには見えなかったけれど。見た目はともかく、会話の感じではずうず……繊細さとはあまり縁が無さそうだったし」

「図々しいで良いんじゃない、話を聞く限りそんな感じだろ」


(……それはどこ情報ですか琴音さん)


 今夜話したのは振られた事、接触が続いた事、そしてこの間の騒動。接触時のやり取りは大幅に端折った——余り気分の良い話ではない——のに、それなりに情報を得ているように見える。生徒会長として人脈や情報網は必須とは言え、ついこの間まで忙殺されていて知らなかった情報に詳しいのは空恐ろしいというか。


「ええと……取り敢えず、岩垣先輩がいなくなった理由って噂だけなのかしらね」

 何となく考えると怖い気がしたのでひとまず横に置き、そもそもの疑問をもう1度口にすれば、琴音はにこりと笑った。

「さあ、ね。その辺りはほら、当事者にしか分からないよ。ねえ、宏?」

「ああ」


(……どうして今そこで空瀬先輩に話を振るの?)


 琴音の含みを感じさせる言葉に首を傾げるも、琴音は笑うばかりだし、空瀬先輩はいつもの鉄面皮で表情を完全に隠している。

 ……これは話してくれなさそうだ。小さく溜息をついて、諦める。


(何だかなあ……)


 瀬良先輩、朱音と亜希子、そして琴音と空瀬先輩。どことなく含みを持たせたまま、私に隠し事をしているようで。分からない私が悪いのか、彼等が私に教えるまでもないと思っているのか。どちらにせよ、何となく寂しい。


「それもそうね。……お皿、片付けてくる」

 何でもない風を装って肩をすくめ、コーヒーを飲み干した。そのまま台所へ向かう時、後ろでやり取りが聞こえた。

「宏、夕食は私が作ったんだから片付けてきて」

「当番制だろう」

「おや、いいの? 寧ろ感謝して欲しいんだけど」

「…………」

 溜息の後に、足音。キッチンでスポンジを取り上げた私は、歩み寄ってきた空瀬先輩の顔を見ないまま言う。

「別に私1人でも大丈夫ですよ」

「気にするな、いつもの事だ。……量も多いし、手伝う」

「……どうも」

 返したお礼の言葉がいつもよりずっと素っ気なくなってしまった事に気付いたけれど、今更撤回のしようもないので黙ってスペースを空け、2人で作業出来るようにする。 


 スポンジに付けた洗剤でお皿の汚れを落とし、空瀬先輩に渡して流してもらう。流れ作業を行いながら、私はさっきのやりとり、岩垣先輩が転校する事について少し考えた。


 どう考えても、あの図太いというか無神経な人が、あの程度の噂でいなくなるとは思えない。人の噂も七十五日と言うし、受験の年に編入試験を受ける手間をかけてまで逃げ出す理由にはならない。

 となると、外部からの圧力がかかっている筈で。


(岩垣先輩に転校までさせる、となると……やっぱり翔かしら)


 頭の回転は悪くなさそうだった岩垣先輩を追い出すまでやってのけるのは、去年の生徒会のメンバレベルでないと厳しいだろう。哉也がそんな事する筈ないし、真柴先輩や高宮先輩はそこまで腹黒くない。琴音が1番可能性が高かったけれど、さっきの口振りから除外。消去法で翔が残る事となる。


(ううん……翔がそこまでするかなあ。愛校精神? ……似合わない)


 身内認定した人はどんな手を使ってでも守るけれどその他大勢はどうでもいい、春影高校のルール——成績1位が生徒会長——に則って生徒会長に押し上げられなければ学校全体の為に動こうとは思わない、それが翔だ。自分の得になるなら頑張るけれど、それ以外の活動は消極的だった。それでも目敏く仕事を見つけるから、こき使われる側は忙しかった訳だけれど。

 そんな翔があんな人相手にそこまで労力を割くとは意外だ。あの時私の肩を持った事だって驚いたのに。

 かといって、他に私への嫌がらせをした程度で追い出すまでする人なんて——


「香宮?」

 名前を呼ばれて我に返る。考え事に没頭しすぎて作業の手が止まっていたらしい。

「すみません」

 言葉少なに謝りの言葉を口にした。作業を再開しようとお皿を取り上げた手に、空瀬先輩の手が触れる。

「? あの、何か?」

 戸惑って顔を上げると、空瀬先輩は妙に真面目な雰囲気で口を開く。

「本調子でないなら休んでいろ」

「は?」

「先週の件、大変だったのだろう」

「…………」


 空瀬先輩こそ大丈夫だろうか、何の気遣いだこれは。


「いえ、別にもう……」

「表情が浮かない」

 けれど続く言葉に、自分が先程の不満をまだ引き摺っていて、あまつさえ顔に出していたと気付かされた。

「……なんでも、ありません」


 空瀬先輩が悪い訳ではない。単に私が周囲の態度に違和感を覚えているだけだ。それを態度に出して八つ当たるなんて、子供じみた自分に恥ずかしくなった。

 目を逸らして誤魔化し手を引こうとしたけれど、触れる手に力を込められ阻止される。


「噂が不快か?」

「え?」

 きょとんと見上げれば、空瀬先輩は少し躊躇うような間を置いて続けた。

「……庇ったつもりだろうが、中西に偽りの噂を流されたのが不快か」

「いえ、別に」

 空瀬先輩の目が少し見開かれる。その反応に驚きつつ、付け加えた。

「翔が何を思ってあんな事を言ったのかは分かっています。自己防衛しきれず庇われておいて不快に思いはしません」


 岩垣先輩の嘘を吹き飛ばす勢いで印象の強い噂を流さないと、私を貶めたい人が岩垣先輩の嘘を真実としかねない。私が1度啖呵を切ったくらいでは忘れてくれないのがああいうしつこい人達だ。

 何の影響力も無い私にそれを何とかする方法は無い。それを最も効果的なタイミングで現れてやってのけた翔に、感謝はしても不快に思う事はない。……流石に内容的に、ささやかな報復はさせてもらったけれど。


「というよりも、不快なのは私ではなく空瀬先輩ですよね。私の不注意でご迷惑をお掛けしてすみません」


 寧ろ困るのは空瀬先輩だろう。今日だってどことなく不機嫌だったし、学校でも噂のせいで居心地が悪いに違いない。逆の立場を想像すれば、どう反応して良いか困るというか、騒ぐ周囲が鬱陶しそうだ。

 そもそも空瀬先輩は好きな人がいる。誰かは知らないけれど、その人の為にバレンタインのチョコも全て断ったと聞いた。きっとこの騒ぎで、近付きたいとかそういうのを色々と邪魔してしまっただろう。

 私がきちんと最初から警戒して対応していればまた違っただろうに、失敗した。それがこんな迷惑をかける羽目になったのは、翔も悪いにせよ申し訳ないと思う。

 そう思って謝り、小さく頭を下げる。


「……不快にも迷惑だとも思っていない」

 言葉の割に不機嫌そうな声に顔を上げれば、空瀬先輩は珍しくはっきりと眉を顰めていた。

「前々から思っていたが、香宮は気を使いすぎだ。俺は香宮に迷惑をかけられた覚えは一切無い。香宮はそう思っていないようだが」

「…………私の方が普通だと思います」


 初対面では彼の計画を失敗へと追い込み、共同で生徒会の仕事をすれば勝手に死にかけて助けられ、琴音の友人とはいえ受験期である彼の家で騒ぎ、挙げ句にこの大騒動。迷惑と思わない方がどうかしている。


 そんな思いを込めて言葉を返せば、空瀬先輩は真摯な眼差しを向けてきた。

「香宮が悪かった事が1度でもあるか」

「え?」

「被害を受けているだけだろう、香宮は。今回の件なら岩垣か。奴の身勝手な行動、それも香宮以外の人間の思惑も絡んだこの一件で香宮が何も出来なかったからといって——」

「空瀬先輩、どういう事ですか?」


 言葉の途中で遮ったのは初めてかもしれない。それでも、我慢出来なかった。

 声の尖りに戸惑ったか黙り込んだ先輩に、真っ直ぐ目を向ける。


「私以外の人の思惑とは、どういう事ですか」

 空瀬先輩が微かに目を細めた。構わず続ける。

「今回、周囲の人達は私に何も言わず、何かを隠したまま動いていました。噂の広がり具合を考えればそれは明確……ですが何故、その事を空瀬先輩がご存知なのですか」

「推測だ」

 即答が返ってきた。視線で続きを促せば、空瀬先輩は無表情のまま続ける。

「不自然な行動をとる人間が付きまとうなら、香宮がそれ以上の不安を感じないよう密かに調べようと思う者は少なくない。意図不明な人間につけ回されるだけでも負担だろうからと、噂という形で好奇の視線に晒されるのを回避させたのではないのか」

「頼んでいません」

「香宮が言っていた事だ、相談し任せたと。なら香宮の知らない所で事が進んでもおかしくないし、それが事態を好転させる事も悪化させる事もあり得る。自明の理だ」

「……頼んだ私の自業自得、と仰いたいのですか」

「頼んだ以上今回のような結果を招く可能性もありうる、善意の行動が必ずしも良い結果を伴うとは限らないという事実を述べたまでだ」

「…………」

 正論だ。押し黙った私に、先輩は尚も続ける。

「そして多くの人がそれぞれの思惑を持って動いた場合、当事者が身動きを取れない、あるいは予期せぬ事態に陥る可能性は0ではない。よって今回の結末は香宮の責任ではない。そもそも、岩垣が愚かな行動をとったのが元凶だろう」

 そう言い切り、空瀬先輩は目を眇めた。常に静かな瞳に鋭く射るような光が宿る。



「香宮を貶めようとしたあの愚か者への怒りはある。中西の行動は香宮をそれから救うものだ。それはそれで香宮に負担だろうが、香宮も言った通り仕方のない事。ならばこの結果を招いたのは奴の愚行だ、香宮には何ら責がない。俺が不快に思うとすればあの愚か者だ。……怒りの方が遥かに強いが」



 剣呑な言葉の数々に、無意識に目を見張った。


(ここまで怒るかこの人……)


 他人に期待しない空瀬先輩が、1人の人間を貶めようとしただけでここまで怒るとは。感情を剥き出しにしている時点で相当珍しいのに、愚か者とか奴とか愚行とか、口から色々と本音が漏れている。

 解決してよかったね、と不快気な顔をしつつも言ってくれた周囲の事も冷静に分析したその口で。その友人達の「終わりよければ全てよし」な態度とは正反対の静かな怒りは、今回の件で誰にも見なかったもの。


(ああ、翔も少し似てたかな……2人とも、どうしたのかしら)


 戸惑い気味に見つめる先、空瀬先輩は呼吸1つで放っていた怒気を綺麗に収めた。真っ直ぐ私を見て、真剣な口調で問うてくる。



「香宮には何ら責がない、その認識の上で改めて訊く。……今回の噂、香宮は不快に思っていないのか」



 息を止めてしまったのは、その真摯さに呑まれたからだろうか。



 わざわざ私の罪悪感を不要と説いてまで心配する事じゃない、私が不快に思うよりも空瀬先輩が不快に思う方が自然だ。そう思うのに、空瀬先輩は今、私の感情を優先して訊いてくる。


 どうして、とは訊かない。



「……いいえ」



 けれど、きちんと答えた。



「岩垣先輩を好きと噂されるのは我慢なりませんが……その、今流されている噂は、嫌ではありません」



 その不公平というか理屈に合わない、身勝手な感情のままに。



「翔の意図は分からないです、けど、他の人でなくて良かったと思います」



 自分でも説明の付かない私の本心を、目を見てはっきりと伝えた。



(いつ以来かなあ、本音を言うのって……)


 内心自分の発言に呆れながら、眼差しで嘘の無い事をきちんと伝える。本心をありのままに告げる事は自分に禁じていたけれど、この人にここまで真摯な態度を向けられて、返さずにはいられなかったから。

 空瀬先輩はしばらく無表情のまま私を見つめていた。瞳の色だけが僅かに感情の移り変わりを示すけれど、私には読み取れない。


 見つめ合う形で沈黙を分け合う事しばし、空瀬先輩は静かに瞼を下ろして頷いた。


「…………そうか。ならいい」

 それだけ言って、空瀬先輩は顔を背けて作業を再開する。つられて私も長い間止まっていた手を動かした。


(……いたたまれない……)


 個人的な感情で素っ気ない態度をとって、気遣われたのにきちんと答えず、話の腰を折ってつっかかり、理屈も何も無い本心をさらけ出す。まるきり子供のような態度が恥ずかしいのに、空瀬先輩がいつものペースを崩さないから、もう本当にいたたまれない。

 みっともなさを自覚し落ち込みそうになるのを、作業に没頭して誤魔化す。夢中で手を動かしている間に、妙に浮き沈みの激しかった感情が鎮まっていった。


(……うん)


 言われた通り、岩垣先輩の件はストレスになっていたのかもしれない。一段落付いたと認識出来た今、とても気持ちが落ち着いたから。

 そしていつもの自分を取り戻した今、誰のお陰なのか、その人に何を言うべきなのかくらいは分かる訳で。


「……空瀬先輩」


 作業を終え手渡された手拭きで手に付いた水滴を拭いながら、ぽつりと名前を呼んだ。


「何だ」


 それでもまだ少し気恥ずかしいから、作業中ずっと無言だった空瀬先輩の相槌にも顔を向けられず。


「…………ありがとう、ございました」


 手拭きに視線を落としたままお礼を言うと、空瀬先輩は私の髪をさらりと撫でて、何も言わずに台所を去った。 

 

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