お侍さんのお話
今日はひどい雷が鳴り
一緒に住んでいる小さい子が怖がっていたので
覚えていた昔話をごっちゃにして作りました
昔々、ある村に一人のお侍さんが住んでいました。
節分の日のことです。
いり豆を用意して家の戸を開けると、あちらこちらから
鬼は外 福は内
の声が聞こえてきました。
こんなにたくさんの家から追い払われて鬼がかわいそうになったお侍さんは
鬼は内 福は外
そう言って豆をまきました。
すると、一人の鬼が勢いよく家の中へ飛び込んできたではありませんか。
「ああ、ありがたい。そこらじゅうから豆をまかれて大変だった」
そう言ってどっかりと腰を下ろした鬼に、お侍さんは夕飯の余りをやりました。
話しているうちに酒も入り、すっかりうちとけた鬼とお侍さん。
ふと、鬼はお侍さんにたずねました。
「そういえば、お前には嫁は居るのか」
「いやいや、おれに嫁なんか居るわけがないだろ」
それを聞いた鬼は喜び、姪を嫁にもらってくれないかと持ちかけました。
お侍さんも、嫁に来てくれるのならばうれしい。と答え、次の日鬼は帰っていきました。
さて、それからしばらくして。
とん とん
家の戸をたたく音が聞こえたので開けてみると、そこにはお嫁さんの格好をしたきれいな女の人がいました。
「以前助けていただいた鬼の姪です、嫁にいただいてくださると聞いてまいりました」
お侍さんは喜んで鬼の娘と祝言を挙げました。
鬼の娘は優しく、美しく、おいしい料理を作ってお侍さんの帰りを待っていてくれる嫁でした。
頭にはかわいらしい角が二本生えていて、お侍さんは角を飾るための綺麗な組紐をいく本も贈り、二人は仲良く暮らしていました。
ところが、
村の中には鬼の娘をよく思わない人間がいく人も居たのです。
娘は陰口をたたかれ、洗濯物を汚されたり、買い物に行っても物を売ってもらえなかったり。
怒ったお侍さんは村人を切り捨てようとしましたが、鬼の娘がしきりに頼むのでしぶしぶ刀を納めました。
人の世で暮らしていくことは難しいと悩んだお侍さんに、娘は言いました。
「私の実家で暮らしませんか」
二人は少ない引越しの荷物を持ち、村をあとにしました。
さて、村を出て少し歩いたところで娘は突然立ち止まります。
お侍さんは不思議に思い、声をかけようとしましたが。
ぱん ぱん
娘が二回手をたたくと空から小さな雲が降りて驚いてしまいました。
促されるままに雲に乗ると、雲はそのまま空高く上っていきました。
鬼の嫁は空に住む雷神の娘だったのです。
神としての役目があるために娘の嫁ぎ先に行くこともできず、ただ見ているだけだった雷神は大喜びで二人を迎えました。
雲の上で平和に暮らしているうちに、お侍さんは雷神の仕事を手伝うようになりました。
雲の上から雨を降らしたり、ごろごろと太鼓をたたく練習をしたり。
そんなある日、まじめなお侍さんは雷神の仕事を一日任されることになりました。
雨を降らせて、空を光らせ太鼓を鳴らし、忙しい合間に雲の隙間から下を見ると、以前住んでいた村が目に入りました。
村の人たちが鬼の娘にした仕打ちを思い出し、お侍さんは村に雷を落とし始めました。
ぴしゃーん
人が倒れ
ずどーん
家が燃え上がり
どがーん
山が崩れます
雷神が慌ててお侍さんを止めました。
そして、悲しい顔をしてこう言います。
「雷神の力は公平に振るわないといけないものだ。娘を大切に思ってくれているのは嬉しいが、お前はやってはいけないことをやってしまった。もうお前を天上に住まわせることはできない」
そしてお侍さんは一人、村へ落とされてしまいました。
村の人たちは突然空から降ってきて驚いたものの、鬼にさらわれたお侍さんが帰ってきたと大喜び。
お侍さんは何も言わず、悲しい顔で空を見上げると、村を出て旅を始めました。
これは、旅するお侍さんの最初のお話。
どうやらその子は雷が怖くなくなったようです