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手錠  作者: マコト
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1・プロローグ

この作品は5年くらい前に構想を開始した作品です。好きでも無い男女が手錠で繋がれて密着した生活したらどうなるか?という個人的な好奇心で構想しているうちにイメージ的にも面白そうで「意外とイケるかも?」と思って何度か下書きして今回、新たなイメージの元に書きおろすことにした次第です。読んで、イメージして、楽しんで頂ければ作者としてはとても光栄です★

『コッ、コッ、コッ、コケコッコーー』

目ざまし時計の音。何度聞いても耳触りでやかましい。

遅刻を繰り返していた職場の心優しい先輩が、去年の俺の27回目の誕生日にプレゼントしてくれたものだ。

「このおとぼけ顔のニワトリ、イケてるだろう?リアルに羽根が動くんだぜ」

俺より10も年上の先輩は俺とは真逆で女の子にモテる。

宅配便の職場の女子事務員、バイトの女子大生、人妻にいたるまで先輩の許容範囲はかなり広い。

「お前も早く彼女見つけろよな。お前に彼女出来たら4人でダブルデートしようぜ」

と、先輩はかなり盛り上がってるけど、俺には「彼女」はいない。ていうか、彼女を作ることは不可能なのだ・・・体質的に。

俺は極度の女性アレルギーなのだから。

女が傍に寄ってくるだけで、息苦しくなるし全身にジンマシンが出来る。場合によっては意識が遠のくことだってある。

「ごく稀にそういう症例は有ります。残念ながら、現段階で有効な治療法は有りません」

僕を診断した心療内科の俺と同じくらいの男性医師は黒ぶち眼鏡を右の人差し指で押し上げながら、極めて事務的にクールにそう言いきった。 

「俺は生涯女子には近づけないんだなぁ・・・。でも、これが俺の運命なら諦めるしかないよなぁ・・」

俺は女性に近づけないことを不幸とは思わなかった。女子が傍に居る時の苦しさを思えば「お一人様」でいる方が数倍楽だし、俺にとっては女子にモテるよりもその方が幸せだった。

 

「さあ、起きるか・・・」

俺はいつものように体を起床モードにするべく、両手をワンルームマンションの天井に突き上げようとした・・・けれど、右腕が重くて上がらない。何かに引っ張られているみたいだ。

「昨夜、飲みすぎたかな?」

 昨夜、先輩は仕事で疲れきってた俺を無理やり駅前の居酒屋に連行し、約3時間に渡って恋愛論を語り続けたのだ。恋愛論といえば聞こえはいいが、つまるところ今までいかにして先輩が女の子たちをモノにしてきたか、その口説きのテクニックや複数の女子といかに上手く付き合ってきたかという武勇伝とか、果てはベッドでどんなふうに女達と楽しく過ごしたかに至るまでを俺に聞かせたかっただけなのだけれど。

 俺は「はあ、そうですか・・・」「凄いですねぇ」「流石、赤石先輩は凄いですねぇ」と適当に相槌を打って出来ることなら早く解放して欲しいと願うだけだった。

「俺が寝坊しそうになったのは、先輩のせいだ・・・」

そう思いつつ俺はもう一度、力を込めて両手を天井に突き上げた。やはり右手が引っ張られる感じがしたがさっきよりも力を込めたお陰で、どうにか両手を突き上げることが出来た。

けど、なにかおかしい。右手が2本あるのだ。「やっぱり飲み過ぎか?」俺は2本の右手を見つめた。太くてごつごつして陽に焼けた見慣れたいつもの俺の手と、しなやかで細くて透き通るように白い手。まるでもう1本は女の手みたいだ。

「えっ?????????」俺はもう一度目をシッカリ開けて天井に向かって直立した2本の手を見た。

二日酔いのせいでも、気のせいでも無かった。目の前には俺の手と仲良く女の手が挙がっている。

 俺は反射的に右側を見た。するとそこには・・・

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁl・・・・」

女がいるぅーーーー。俺の真横に女が寝てるぅぅぅぅぅぅっぅぅぅぅ・・・。

たちまち俺の全身、頭の先から足の指先、人目につかない秘部に至るまでジンマシンが浮き出てきた。

脂汗がにじんで、息が苦しい・・・。早くこの女から離れないと・・・。

俺は全身の力を振り絞って起きあがり、部屋の外へ駆け出そうとして、転んだ。

まだ床で眠っている女に右手を思い切り引っ張られたのだ。

「いい加減に俺の手を離してくれよ」

俺は右手を勢いよく振った。すると女の手ももれなくその動きについてくる。ひつこい。うっとうしい。俺が女性アレルギーと知っててからかっているのか?

 俺は恐る恐る右手を見やった。すると手首の部分になにやら銀色に光るものが・・・。

「俺、ブレスレットなんてした覚えないし」

寝起きと二日酔いの顔を右手にグッと近づけると、俺の手首で手錠が光っていた。

「おれ、逮捕されたんだ・・・。何やらかしたんだろう?酒に酔って暴れたのか?その勢いで人を傷つけたとか、殺したとか?あゎゎゎゎゎ。俺は殺人犯?てことはこの女は刑事で俺を逮捕して、おれが逃げ出さないように一緒に寝てるってわけ?」

 俺は気力を振り絞って女を見た。俺の右手首と女の左手首とが手錠でシッカリ繋がれている。

女は仰向けに寝ていた。髪は背中まで伸びていて、青いワンピースを着ている。口紅はピンクで、まつ毛が長くて自然にカールしている。胸はシッカリと膨らんでいるし、腰のくびれもカーブが滑らかだ。世間的には美女の部類に入る女だった。

 と、冷静に観察している間も俺の体にはジンマシンが増え続けてるし体中に脂汗が噴き出してる。呼吸だってかなり激しくて苦しい。早くこの女と離れなくては。でないと俺は気を失ってしまう。

 俺は自由な左手で手錠を探った。連結部分を思い切り引っ張るがびくともしない。

「そうだ、手錠には鍵がかかってるんだ。鍵を探せばいいんだ」

俺は自分が寝ていたところや小さなテーブルの上や、フローリングの床をくまなく見渡した。でも、それらしいものは見当たらない。

「どうすればいいんだ・・・」

泣きたくなった。

 その時、俺の真横から「うぅーん」と何とも言えず甘い声がした。

女が右手で目を擦っている。右手が目から離れて女が目を開いた。

次の瞬間、女が上半身を起こした。床に手をつくことも無く、足に反動を使うことすらなく自然にスッと起きあがったのだ。「腹筋が凄いんだ・・・」変な所に俺は関心した。

「ここって、どこ?」

女が真っ直ぐ前を向いたまま呟いた。

「どこって・・・ここは俺の部屋だけど・・・」

間近に女の横顔があるせいで声が震えている。

「なんで私がここに居るの?」

「俺に聞かれても・・・困るよ」

「あなたは誰?」

「俺は・・・ここの住人です」

「昨夜、私に何かした?」

「何もしてません・・てか覚えてないけど・・・」

そこで女は何か思い出したように下半身に手を当てた。

「はいてない・・・」

「???」

「パンツ、はいてない」

「え?」

パンツという言葉の意味を理解するのに3秒かかった。

「あなたが脱がせたの?」

「まさか。それはありえないよ」

自信なさそうに笑ってしまう俺。

「こう見えても私、知らない男の前ではパンツ脱がないのよ。覚えてないけど、あなたは相当上手に私のパンツ脱がせたみたいね」

俺の脈拍が一気に最高レベルに達する。

「ありえないよ・・・そんなこと絶対にあり得ないよ。俺に限って・・・」

わけもなく涙が溢れてくる。いくら泥酔してたからってこの俺が女と寝るなんて天と地がひっくり返ってもありえない。もしそんなことすれば、心臓発作で今頃天国だ。

「冗談よ。私、寝るときにはパンツ脱ぐ癖が有るの。どんなに疲れててもパンツだけは脱いで寝るの」

女が楽しそうに笑った。俺はがっくりと首をうなだれるしかなかった。

「あ、あった。私のパンツ」

女の指さす先に、青い水玉模様がちりばめられたパンツが丸まっていた。

女はパンツを手に取るとワンピースの裾を少しめくりあげ、俺を見た。

「はきづらいから向こう向いててくれる?」

「は、はい」

俺は壁の方を向いた。カレンダーの中のチワワが僕に安らぎを与えてくれる。

「あれ、何これ?」

女が手錠に気付いたようだ。女の動きに合わせて俺の右が釣り上がる。

「あなた、こういう趣味の人なんだ」

「ち、ちがう。俺も知らないうちに繋がれててわけわからないんだよ」

振り向くと女がじっと俺の顔を見ていた。正面から見るその女の顔は鳥肌が立つくらい綺麗だった。普通の男ならここで鼻の下をだらしなく伸ばして歓びを感じるところだろう。が、俺の場合はマジで鳥肌モード。もちろん感動の「鳥肌」とは真逆の恐怖の「鳥肌」だ。

「頼むからそんな目で俺を見ないでくれよ」

体を震わせて俺が言うと、女は「うぶなんだね」と、また楽しそうに笑った。女はそのまま両手を使ってパンツをはき始めた。当然俺の右手も女の手の動きに連動する。俺は再び壁を向いてチワワを見つめるが、俺の右手は女の足を股に向けて上がっていくのをリアルに感じている。足首からふくらはぎ、膝を経て太もも。だんだん右手に生温かい感触が強まっていく。俺は右手を強く握って目を閉じた。

「もっと手の力抜いてよ。パンツが上げられないじゃない」

女が俺の右手を軽くたたいた。俺の体にビリッと電気が走る。

女は力任せにパンツを引き上げる。今俺の右手の甲に触れたショリショリした髪の毛みたいな感触は、もしかして?

「さあ、パンツもはけたし。トイレ行ってこよう」

女はあっけらかんとそう言い放ち、立ち上がった。

自然に俺も立ち上がる形になる。

「トイレどこ?」

「あっち」おれが左手で指さすと同時に女がトイレにダッシュした。

「いてっ・・・」

引きずられて俺も後に続く。

「ついてこないでよ。トイレまで一緒に入るつもり?」

そんなつもりはない。でも繋がれている以上、こうするしか仕方がないんだな。

「ああ、もれちゃいそう」

女は俺を引きずったままトイレに駆け込んだ。こっちを向いてさっきはいたばかりのパンツを脱ぎ始める。

「あっち向いててくれる?」

女にキッと睨まれて俺は右手を思い切りトイレに伸ばして反対側を向く。これって他人から見ればかなり変態チックだよな。けど、今の状況ではどうすることも出来ないし、俺は断じて変態ではない・・・と自分に強く言い聞かせる。もう気が狂いそうだーーー。俺は女がトイレを使う時の音が聞こえないように左の肩で左耳をふさぎ、左手で右耳をふさいだ。            (つづく)

 



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