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80年代シリーズ

『からんころん』と生きてます  80年代 女子高校生の回想録

作者: あみか
掲載日:2026/07/13


 あなたも夢を見るでしょうか?

 私は同じ夢を何度も見ていました。


 子供の頃、よく見た夢は母が出てきます。

 

 母が庭でしゃがんで草むしりをしています。後ろ姿のうなじから、10センチ位の糸が出ていて、


「お母さん、糸が出てるよ」


と、引っ張るとドンドン出てきて。それが内臓に小腸に大腸になっていってしまうのです。

 私は母が死んでしまうと思い、大慌てで止めようとするのですが、流出は止められません。恐怖で叫びます。

 怪奇的な夢。


 もう一つは、お風呂の夢。母と私と妹と家のお風呂に入ってます。母と妹が楽しそうに浴槽に入っていて、私が体を洗っています。すると突然、浴槽の底が抜けるのです。

 私は、二人の手を掴み助けようと引っ張ります。

 パニック映画のような夢。


 中学生になると、プールの夢をよく見るようになりました。

 大きな薄暗い建物の中に、透明なガラス製の巨大なプールがドンと置いてあります。

 濁った青緑色のドロドロな水の中に、大きな魚が何匹も蠢いています。

 そこへ梯子で登り、私は頭から飛び込みます。ゾクゾクとした嫌悪感を抱きながらも、一生懸命にクロールで泳ぎ、反対側にたどり着き、プールから上がります。 

 サバイバルな夢。


 それらの夢を何度も見ました。不思議に思い、人に聞いたり、調べたりしました。



 現代の夢占いだと、

怪奇的な夢は、強い精神的ストレスを暗示しているそうです。言いたいことを我慢して、爆発寸前の状態。


 納得です。前回の追懐でも、感情が爆発することがあったと記述しています。

 その前によく見ていた夢だったのでしょう。

 母に自分を理解して欲しい。でも、嫌われたくないから、言いたいことが言えない。ジレンマなのでしょうか。

 結局、爆発して、ますます面倒くさい難しい子と認識されたように思います。



 パニック映画のような夢。

家族間のトラブルの予兆を感じ、その困難から家族を守ろうとする、ポジティブな夢らしいです。

 思春期特有の潔癖症や正義感は旺盛でしたので、これも納得しました。

 病弱な兄がおりましたから、先が不安で心配だったのでしょう。母と妹には笑っていて欲しい。それを守りたいと思っていたようです。

 実際は家事のお手伝い程度しか出来ず、褒めて貰えるように、勉強や部活に精を出していたように思います。

 大した事は出来ませんでした。



 サバイバルな夢。

 不安、恐怖、寂寥感、疲労。感情が不安定。

 しかし感情に溺れず、挑戦して困難な状況でも諦めない。目標達成や計画が順調を暗示するポジティブな吉夢。


 現実的に水泳が得意なのが、幸いです。苦労して成し遂げる。吉夢なのにガッカリしてしまいました。

 目標達成や計画の順調が、兄の寛解なら、何回でも泳ぎ切らねばならず、夢で毎回泳ぎ切る私を褒めたい気持ちになりました。一方で夢でも頑張る私に、呆れるやら、笑えるやら。

 透明な美しいプールでも、海でも、泳がせてあげたい。

浮き輪を浮かべてのんびりと。

 だからでしょうか。現実では海やプールで泳ぐのも見るのも好きです。




 夜、夢を見る前に、見る夢がありました。


 ベットに寝転んでいると、天井がどんどん高くなり、部屋が広くなります。

 時計や心臓の音がどんどん大きく速くなり、やがて、小さくゆっくりになります。

 

 不思議に思ってじっとしていると、やがて収まります。

 

 時計が壊れたのかしら?

 夢でも見ているのかしら?


 しばらくはそう思っておりましたが、毎晩のようになるので、これはおかしい、と思うようになりました。

 

 時はちょうど、病弱だった兄が、夭折した直後。

 それと関係があるような気がしました。精神的なものだと。

 だからでしょうか、親には言いませんでした。

 

 この現象に名前があることを知ったのは、ずっと大人になって結婚してから。主人が調べて教えてくれました。

 

 不思議の国のアリス症候群。


 なんとも優雅な可愛い名称。『ガリバー旅行記』でも良かったような、と思ったのは私だけでしょうか? 


 私の場合は、やはり精神疾患。総合失調症やうつ病の初期症状。だったのではないでしょうか。


 幽体離脱もその頃に体験しました。

 それも解離性障害。自分の身体から抜け出して離れたところから自分を見ている感覚。体外離脱体験だったようです。

 幽体離脱の方が面白かったのにと、ちょっと残念。

 夜になると体が浮いて、ベッドで寝ている自分を上から眺めます。そして、家の中や庭を彷徨いました。

 庭では家の屋根の雨樋を掴んでいます。手を離すと、風船の様に何処までも上昇するのが、分(・)か(・)っ(・)て(・)いて怖かったのです。もう、二度と帰ることが出来ないと解(・)っ(・)て(・)いました。

 


 『赤毛のアン』も窓ガラスのお友達とお話することが書かれておりますが、これも解離性障害の一つの行動です。

 

 私も夭折した兄と良く話しておりました。部屋では声も出していたように思います。兄もちゃんと話していて、会話が成り立ちました。兄の返答が彼の声で、スラスラと頭の中に流れ込んで来てました。

 


 心臓の音。

 これはどうも動悸だったようです。

   


 重度の離人症。

 自分が自分であると感じられなくなる状態で、現実感を消失します。

 自分の行動をまるで遠くから客観的に眺めている感覚。自動的に動いている感覚。

 これは、自分を守る防衛反応だそうです。

 

 平均発症年齢は十六歳。まさに私の年齢でした。 

 しばらく、フワフワと生きていました。

 

 

 私は兄の部屋を引き継いで使っていました。だから、その現象が起こるのかとも思いましたが、部屋を出る気にはなれませんでした。


 兄を身近に感じられる空間を離れたくなかったのです。

 そして、もし現れることができるのなら、いつでも来てほしいと思っていました。

 その場所はこの部屋に違いないと。

 

 兄は蛍光塗料のついた星型のシールを、部屋の天井中に貼っておりました。しかも、様々な長さの糸で高低差を作りシールを貼っています。

 まさに満天の星空の下で寝られるのです。


 星空が遠くなったり、近くなったり。広くなったり狭くなったり。時に瞬いたり光ったり。それは美しく幻想的です。

 BGMでもかけてみれば良かったな。と今なら思えます。


 おかげで、高校を卒業してその部屋を出るまでずっと、それらの症状は治りませんでした。



 そんな状態だったので、あんなに夢中だった勉強も、全く意欲が喪失してしまいました。

 遅れた勉強は取り戻せず、成績は下がりました。

 

「全科目、成績が良いのだから、国立を目指せるね」


と兄に言われていたので、国立大学に行きたかったのですが、受ける前から落ちると思っていました。

 

「大学受験を辞めて働きたい」


と父に言いましたが、許可してもらえませんでした。親族の中で、大学に行かなかった人はいないと。

 私が一人目でも良いのではと思いましたが、落ちれば必然的に就職だと思い、取り敢えず受験することに。

 

 結果、私立大学に受かり、とうとう家を離れる事が出来ました。


 


 あの部屋を出て、一人暮らしをしても、結局治りませんでした。



 その大学で、自分の存在を認めてくれる人と巡り会えて結婚しました。


 彼は秒針がスムーズに動く時計をプレゼントしてくれました。

 兄の話を聞いてくれました。


 結婚してしばらく経つと、いつの間にかその症状は消えていました。

 親にもその症状のことを話しました。

 愛情を注げる子供が誕生したことも、良かったのかもしれません。


 発症して八年程経っていました。

 

 


 無表情でぼんやりしていた私をそっとしておいてくれた、女子高校の友人達。

 本当に有難う御座いました。


 よく考えれば、兄の葬儀に参列してくれたのですから、知っていて当然でしたのに、私は友人達は兄の死を知らないと思っていました。

 ですので、兄は居るものとして、彼女達と会話をしておりました。


 当時、兄の事を現在形で話していたと、後に友人に言われて申し訳なく、恥ずかしい気持ちになりました。皆、困惑したり、不気味に感じていただろうと。


 誰も兄の死を指摘する人はいませんでした。

 本当にごめんなさい。でも、とても助かりました。

 当時では、心が耐えられなかっただろうと思います。

 

 


 今、同じような症状で困っている方。

 すぐに、誰かに相談しましょう。病院に行っても良いです。今はいい時代です。色々な方法があります。早く治まることをお祈りいたします。




 たまにリハーサルの夢(夢のシュミレーション機能)をみながら、今は元気に生きています。

 アリスも自分の心安らぐ場所に辿り着いたようです。



 今日も、朗らかに懸命に、生きていきましょう。

 








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