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「好きにして良い」と言われ喜んで家を出た妻は、美容でスローライフを満喫します~関係修復しろと追い出された旦那様お気の毒に~  作者: 松平 ちこ


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第9話 鬼の居ぬ間にワインの蒸留実験を。

「うぷ……、お酒臭い」


 二人を送り出した後、今世のフルール人生で初となる一人暮らしを満喫している。

 今は調理場で、ワインを蒸留しようとしていた。前世頼りの見よう見まねだ。


 いつもなら三人いて、誰かが留守番を出来たけれど、今は一人。

 ゆくゆくは、来客の時間帯を決めた方がいいだろう。そう思いつつ、なるべく家で過ごしていたのだった。


「絶対、漏れてるなぁ。あり合わせで作ったから、密閉出来てないよねぇ」


 換気はしているものの、アルコールの目の前にいると匂いだけで酔ってしまいそうだ。


 ――諦めよう。


 火を止めようと手を伸ばして、ハッとする。鍋の下、ゆらりと炎の色が青白く変わらなかったか?

 ゾワリと身の毛がよだち――。


「ス、スプリンクラー!!」


 ドバッ。


 火事が――思わず無我夢中でフルールが叫んだ。

 同時に、バケツをひっくり返したような大量の水が天井から部屋全体を水浸しにする。


「……くしゅ」


 ボタボタと頭から水を滴らせて、フルールは混乱する。


 ――な、何が起きたの?


 辺りを見渡せば、どこもかしこも水、水、水だ。


「とりあえず、家の中を掃除しなきゃ、水が――」


 たぷん。


「……」


 フルールの目の前に、大きな水の玉が浮いていた。


 拭きあげて乾かして、大丈夫だろうか、ダメになったものはどれくらいで、使えるものはどれだけ残っているのか。

 いっそ水が一ヶ所に集まってくれたら、そう思ったのは事実。


 でもまさか、思ったことが具現化するとは思わないではないか。


 濡れていたフルールの髪も、服も乾いている。部屋の中もそう。

 乾いているというよりは、水分を集めたという方が正しいのかもしれない。


 なぜなら目の前には、水浸しになった部屋の中の水分が集まって出来たような水球が、漂っているからだ。


「魔法っていうかさ。これもう、超能力の間違いじゃないの?」


 いや、そもそも前世に無かった不思議パワーに関しては、問答しても仕方ないのかもしれない。


「とりあえず……」


 どうしようか、と悩んでプカプカと漂っている水球を見つめる。

 フルールは立ち上がって調理場から近い窓へと行き、外へと指を突き出した。


「水は外!」


 フルールの声に合わせて、水は勢いよく外へと飛んでいくと、そのまま地面に落下して派手な音とともに水溜まりを作った。


「……」


 火事になる、とっさによぎったのは前世の火災対策のスプリンクラー。

 そして出てきたのは、ゲリラ豪雨や夕立のようなどしゃ降りの水。


「……そっか、魔法があったかー」


 他人事のように呆然と呟く。ずるずると座り込んで、フルールは脱力する。

 安心したせいか、どっと疲れが押し寄せて来た。


 生活に使う程度のちょっとした便利な魔法。フルールの中では、ずっとそう思っていた。

 魔法使いという役職の人間のように、大それたものは使えないと。


「人間、思い込みって怖いなぁ……」


 一人言と一緒にあくびが出る。フルールは気付けば、座ったまま寝てしまっていた。




 ◇◆◇◆◇◆◇




 王都に着いて、以前よりも視線を感じながらガルドとカームは侯爵邸へと向かった。


「旦那様にお話があるのですが……」


 と執事に取り次ぎを頼むと、なんとすぐに執務室へと通された。

 日中、邸に居ることも驚きだが、一介の使用人にすぐに対応することも、いつもと違うとカームは内心、不安でドキドキしていた。


「ガルド、カーム、お前たち今までどこに居た?」


 カームが緊張しながら執務室へ入ると、ルゼルヴェがそう問うてきた。じろりと睨んできた彼は、機嫌が悪そうだ。

 フルールの予想が当たって、お叱りを浮けるのか――そう思った。


「特に報告を義務つけられては、いませんでしたので」


「――っ」


 ぎょっとして隣のガルドを見ると、涼しい顔をして前を向いている。

 前へと視線を移せば、ルゼルヴェもカームと同様、驚いていた。


「だからといって、別邸に行く予定だっただろう。場所を移したのなら、報告はあって然るべきだ」


 ガリガリと髪をかきむしりながら、ルゼルヴェは睨むように見つめて、そう指摘する。


「そういうことでしたら、最初から奥様用の家を手配すべきでした。

 現状、郵便とは縁遠いところに居を構えています。カームと二人では報告は難しいです」


「今は二人とも目の前に居るじゃないか。ガルド、今日はえらく饒舌だな?」


 ガルドは後ろ手に組んだまま、姿勢よく微動だにせず意見を述べていた。

 確固たる意思のもと、行動している証拠だ。


「ええ、ですので現在。奥様――フルール様は一人でお過ごしです。侯爵夫人が、です」  


 チラリとガルドがカームを見つめた。

 その意図を察して、カームは頷いた。それは道中ですでに、二人で決めていたことだ。


「旦那様、目をかけていただいたこと恩義を忘れてはおりません。

 けれど、暇をいただきたく存じます」


 三年後に離縁する、そう笑ったフルールのそばに仕えたいと二人は思った。

 けれど、フルールはそれに引け目を感じている。ならば――。

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