第6話 泥洗顔と石鹸作り
ぐつぐつ。
ごりごりごり。
「それは、なんですか?」
水に浸けてふやかした乾燥とうもろこし、湯煎にかけたあと、ひたすらすり鉢で潰していく。
カームが訝しげに眉根を寄せ、頬がひきつっている。それでも気になるのだろう、すり鉢を眺めていた。
――なにもそんな、怪しいことはしてないのに。
乾燥とうもろこしを購入した時もそうだ。食用ではなく、ここでは飼料としての用途が多いらしい。
安価に買えていいのだが、周囲の目が残念な子を見るような眼差しだった。
「とうもろこしの、スクラブを作ってみようと思って」
そう説明するも、やはり意図は伝わらない。反対はされないが、それは主従からだろうと察せられる。
こういう時は、実際に出来てから試させる方が早い。
そう思うのは、前世のサンプルやデモンストレーションの印象だろう。
ちなみに帰宅したら、カームが宣言通りおかずをすでに作ってくれていた。
スープがまだだったので、とうもろこしの煮汁を、そのまま出汁として夕飯に追加した。
これまた味は好評だったものの、大層驚かれたのだった。
『フルール様は飲食店が営めますよ!』
フルールは、二人の意気込みを思い出して笑う。
食後、後片付けを二人に任せ、フルールは作業に戻った。
とうもろこしに取りかかる前に、採取した土と水を深い瓶に入れて振り、混ぜておいた。
浮いてきたごみを取った後、もう一度混ぜて、さらにしばらく置いていたものだ。
瓶の中で水と泥とに分かれていて、その上澄みの水だけを捨てる。
次は泥を少量とって目の細かい布で濾した。残りはまた、水を入れて振り瓶の蓋を閉めた。
潰したとうもろこしと絞った泥を混ぜ、オリーブ油を様子を見ながら入れてさらに練る。
「カーム、ちょっと腕を貸してくれる?」
「腕、ですか?」
「そう、パッチテストをするの。腕の内側に少しつけて肌に問題がなければ、今日から試してみようかなぁって。ガルドもどう?」
そういって、フルールは自身の腕の内側に塗って見せた。
カームとガルドは互いに顔を見合わせて、腕を出してくれた。
「痛いとかヒリヒリするとかあったら、遠慮なく教えて、すぐに流すわ」
床に落ちてしまわないように、ハンカチを塗った腕に巻いた。
「次は石鹸ね」
採取リュックから、散策で燃やしてきた灰と水を混ぜ、布を使ってろ過する。
その間にオリーブ油を鍋に入れて、弱火にした。
比率がある場合は、適当に合わせることも出来るだろう。
今は計りがないので、材料は全て目分量、前世の勘だよりだ。
適量を探るために、何パターンか用意するつもりだ。
――キットとかあって、便利だったなぁ。
「カームが色々と器具を買っていてくれて助かったわ、ありがとう」
出掛ける前に、調理用と分けたくて幾つか器具の購入を口頭で伝えていた。
数があったのだが、カームはキチンと揃えていくれていた。
「いえ、夕飯の支度だけでは時間も余るので」
ろ過して出来た灰汁を、少しずつ鍋に入れて木ベラで混ぜる。
液体がいい感じに固まったところで、乾燥ハーブを砕いて入れた。
浅めの木箱に流し入れて、あとは乾かすだけだ。
「固まったら、完成ね」
「フルール様は、何でも手際が良すぎに思うのですが、いったいどちらで?」
「ああ。怪我が治ってから、屋敷に籠ってて色々ね」
カームの疑問に、フルールは茶を濁す。
貴族の女性が表舞台から下りた先は修道女が、定番だがフルールは性に合わないと思っていた。
――厳しい寮生活が延々、とか無理ね、私。
それに手際が良く見えても、何事も完成するまでは分からないのだ。
「さて、二人とも泥を流しましょう。大丈夫だった?」
ハンカチを取って、洗い流せば二人とも赤くもなく綺麗なままだった。
フルールはホッと胸を撫で下ろす。
「いきなり顔は抵抗があると思うから、今日は手にしてみましょうか」
カームを椅子に座らせ、向かい合わせになる。彼女の片手に泥石鹸をのせて、塗り伸ばし、日頃のお礼をかねてハンドマッサージも行った。
フルールに付く前は、雑用も多かったのだろう、手荒れが目についた。
「フ、フルール様、くすぐったい」
「ふふ。手のひらには、ツボが幾つかあってね。せっかくだから」
そうして、木桶を膝にのせて水受けにする。
水を出してカームの手を洗うと、綺麗に水滴をタオルで拭き取った。
まずは片手だけ、違いを見比べて欲しかったからだ。
「次はガルドもするわよ」
「手を洗う要領でいいんだよな、自分でやるからいい」
泥石鹸を手にのせると、スッと洗い場の方へと行ってしまった。
――気にしなくていいのに。
ガルドの見た目はキツい。長身で目つきが鋭く、全体的にシャープな印象が強いからだ。
反対にその性根は真面目だと、フルールはこの短い付き合いで気づいた。
「フルール様! これ良いですね。手がもちもちします。もう片手も、お願いします!」
カームは気に入ったようで、ずっと手を撫でている。
その目はキラキラと輝いて、フルールへとねだっていた。
親しみやすい彼女は、好感が持てて可愛いのだった。




