第4話 出掛ける前に下準備をしましょう
夜明け前、目が覚めたフルールは調理場で手早く朝食と昼食の下ごしらえを済ませる。
その後、昨日の買い出しで買ったものをズラリと並べた。
「まずは、お手軽なところからいこうかな」
市場で買ったものは、オリーブ油、酢、塩、といった調味料。
とうもろこし、じゃがいも、豆、小麦粉などの芋、穀物類。
塩漬け肉、ベーコン、チーズなどのタンパク類。
最後に、目についた乾燥ハーブを少しと、キャベツやニンジン、玉ねぎの野菜類だ。
「調味料が、町でも手に入るのはありがたかったわね」
使わない物はどんどんと片付けていき、保存用の瓶を三つ用意する。
一つ目、酢とハーブを入れる。
簡易リンスの素になる予定だ。
二つ目、塩とハーブを砕いたものを入れる。
スクラブとしても、調味料としても使えるようにハーブの香りを選んだ。
三つ目、乾燥とうもろこしと水を入れる。
浸けることで発酵させて、こちらもスクラブとして使うつもりだ。
出来上がった瓶は、それぞれ邪魔にならないように角に置いた。
「これで下準備は良いわね」
あらかじめ小麦粉と水、塩で練って寝かせた薄焼き生地を取り出す。
等分に分けた生地を、フルールは一つ一つ手で薄く伸ばして形を整えていく。
「着火、と」
パチンと指を鳴らして、フルールはコンロに火をつけた。
異世界ファンタジーらしく、この世界にも魔法が存在している。
飲み水、コンロの火つけ、手元を照らすライトといった小さな魔法は、平民にも広く使われている。
――それが、科学が発達しなかった理由だろうなぁ。
残念ながら浄化魔法といった便利なものはない。清潔感を保つには、前世同様、身を清めるしかない。
幸いなのは皆が魔法を使える分、衛生文化が根づいていることだろう。
――まぁ、ほとんどが水かお湯で洗い流すだけだけどね。
石鹸など貴族でも無ければ、時々使う程度なのだ。だからこそ、フルールが手作りする意味がある。
「この世界の石鹸、まだ油脂で臭いのよね。なんで貴族用までオリーブ油を使わないのかしら」
朝食と昼食用に生地を焼いていくと、香ばしい匂いが調理場に広がった。
「……フルール様、おはよう。早いですね」
少し眠たげなカームが、二階から降りてきた。
二階に部屋が三つ、カームは一番手前の部屋を選んだ。
一階には物置と小部屋、調理場とダイニング、地下に貯蔵庫だ。
ガルドは二階では護衛として問題だと、一階の小部屋を選んでいた。
そして今は、外で鍛練だと素振りをしている。
夜明け前のフルールの起床に合わせ起きてきた辺り、かなり優秀な護衛だろう。
「おはよう、カーム。早くに目が覚めただけよ、気にしないで」
慣れない生活なのだから、早朝に起きただけ立派だ。むしろ、もう少し寝てても良いくらいだった。
フルールが、張り切りすぎなだけで。
ガルドも、何も言わなかったが、顔が物言いたげだった。
――仕方ないわよね、やっとやりたいことが出来るんだし。
焼いた薄焼きパンに、千切りキャベツ、玉ねぎスライス、炒めたベーコンを挟む。
「フルール様、手慣れてますね。美味しそう」
「ふふ、ありがとう」
次々と生地を焼いていき、朝食用と昼食用に分けた。温かいうちに具を挟んで馴染ませる。
その隣でカームが、食器やコップなどを用意してくれる。
「今日は、町の外に散策に行こうと思っていて、二人はどうする?」
三人でテーブルを囲み、朝食を食べる。今日の予定と、フルールは二人に話を持ちかけた。
「でしたら、夕飯はお任せください。フルール様より上手くありませんが……」
「外出なら護衛として同行、する」
カームが任せて欲しいと、張りきっていた。
ガルドは、サンドイッチを食べながら答えてくれる。
「ありがとう。じゃあお願いね」
朝食も気に入ったらしい。遠慮がなくなった分、食べるペースが早い。
――一日の始まりを、誰かと食卓を囲むって良いわね。
生家では事故後、ギスギスとしていて誰かと食べる環境には無かった。
夫であるルゼルヴェとは初日に別れたので、言わずもがなだ。
その後、フルールはリュックを背負い、ガルドと共に町を出発する。
「今日は、何が目的で?」
「花や草、あと土とか、この辺りに何があるのかを、まず調べることが目的かな」
それらと前世の植物を比較、検証して使えるものを、地道にリストアップしていくしかない。
今世、フルールには伝が全くなく手探りなのだ。
実は、朝に浸けた酢とハーブを水で薄めれば、簡易のリンスとして使える。
明日は、固形石鹸も作るつもりだ。
売るわけではないから品質向上は二の次で、最初は作れるものから作って、最低限の清潔を保ちたい。
――焦らず、すぐに手をつけれるものから。
固形石鹸は乾燥させるため、完成まで日数がかかる。
一つ一つ、取り組んでいこう。フルールはぐっと拳をつきだして、そう意気込んだ。
「えいえいおー!」
「?」
ガルドが不思議そうに軽く眉を寄せている。
けれど、だんだんと慣れてきたのか、フルールを訝しげに見ることは減ってきていた。




