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「好きにして良い」と言われ喜んで家を出た妻は、美容でスローライフを満喫します~関係修復しろと追い出された旦那様お気の毒に~  作者: 松平 ちこ


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第3話 第一印象が最悪だったので再評価は難しい

 コト、コト、とフルールはテーブルに料理を並べた。

 掃除を協力して行ったため、余裕をもって買い出しをすることが出来た。

 今日は買ったパンとチーズ、フルールが作ったスープだ。


「貴女たち、このままここに居るのなら、自己紹介をしましょうか。

 私、堅苦しいのは嫌なの。改めてフルールよ」


 買い出しを思い出して、フルールは提案した。この小さな町は、露店が密集していて買い物がしやすかった。


 けれど護衛とメイド連れでは目立つ。よそ者としてフルールは注目を浴び、店主らの前で自己紹介する羽目になった。


 このまま二人と距離があると、フルールは町に馴染めないだろう。

 せっかく貴族と縁が薄そうな町を選んだのだ。もっと気楽に過ごしたい。


「カームです。奥様は、本当に貴族らしくないですね」


「ガルドです。私は平民の上がりなので、お気遣い無用です」


 微笑んだメイドがカームで、真面目そうな護衛がガルド。

 フルールは二人の名前を呟き、パンを千切って頬張った。

 あれからフルールが何度口にしても、二人は帰らなかったのだ。


「まさか、奥様が料理をなさるとは……」


「美味しい、です」


 カームがスープを眺めて呟いた。ガルドはスープに口をつけると、驚きの声をあげる。


 二人にそれぞれ指示を出していたら、フルールの手が空いた。だから野菜を刻み、スープを作ったのだ。  

 フルールとして料理をするのは初めてだったが、前世では当たり前に調理をしていたので難なく出来た。


 ――貴族だから出来ない、なんてデバフがなくて良かったわ。


 この世界の料理は悪くはないが、旨味が今ひとつで、素朴で物足りない味付けが多いのだ。

 フルールは素材をしっかり煮込み、スパイスを加えることで旨味を引き出していた。


「私も、まさか貴女たちが帰らないで、一緒に食卓を囲むとは思わなかったわ。簡単な物で申し訳ないけれど」


 フルールが、前世の記憶を思い出したのは一年前。

 両親と領地へ戻る時に、馬車が横転した時だった。両親は死に、フルールは重症を負った。


 生死をさ迷うなかで、フルールが見たものは前世の記憶だった。

 科学が発展した前世と違う、ファンタジー要素のある今世。

 郷に入らずんば郷に従え、そう思って貴族としてのフルールを、第二の生として受け入れた。


「……旦那様から、どう聞いたのか知らないけれど、私は貴族としては訳ありなのよ。

 お飾りの妻なの。貴女たちの将来を考えると、すぐにでも帰った方がいいわ」


 爵位は、学生のために王都に残っていた弟が継ぐことになった。

 馬車事故での傷跡が残るフルールは、まともな結婚が望めない。


 ――きっと、都合の良い令嬢だと思ったでしょうね。


 そんな時に舞い込んだのが、ルゼルヴェとの結婚だった。

 前世の記憶が戻る前のフルールは、両親に愛された大人しい令嬢だった。

 今のフルールは、前世の社畜としての根性が表に出ている。


「旦那様とは利害の一致の上に合意したわ。三年後に離縁する方向なの。

 そうなったら私は平民として、ここで生計を営むつもりよ。だから、貴女たちが私に仕える必要もないの」


 ――すんなりと受け入れる、切り替えの良さも考えものよね。


 ラノベ好きとしては、仕方ないだろう。社畜に比べれば、貴族として生まれたのは幸いかも知れないのだから。


「……お言葉ですが、離縁されるまでは貴女様はサントゥール侯爵夫人です。

 私はルゼルヴェ様より、夫人を護衛するように仰せつかっておりますので。

 それに先程も言いましたが、私は平民上がりです。ここでの生活に、なんら問題ございません」


「それは道中の護衛でしょう? 別邸に着いた時点で、その役目は終わっているわ」


「いいえ、夫人が王都の屋敷に腰入れされる前には、護衛の任が決まっていました。

 そして屋敷を発つ前に、改めて命を受けています」


 フルールは軽く目を見張った。ガルドは食事の手を止め、まっすぐにフルールを見ている。その言葉に嘘はなさそうだ。


 ――旦那様が、そんな気遣いを?


 ルゼルヴェの初夜の放棄と宣言に、とてもじゃないが、そんな風には見えなかった。


「私も、ガルドと概ね同じ境遇です。旦那様に拾っていただきました。

 奥様を放って、一人帰るなど出来ません。

 その……ちょっと、奥様の行動力にビックリはしましたけれど」


 カームも申し訳なさそうにしつつも、まっすぐにフルールを見つめてきた。

 確かに、この家に来た時のカームは引いていた。

 けれどその後の掃除では、吹っ切れたのかよく動いてくれていたようにフルールは思う。


 ――侯爵家の人間だからと、あまり邪険にするのも良くないかしら。

 旦那様の評価を、上げるつもりはないけど。


「……分かったわ。なら、この町にいる間は私への敬称も言葉遣いも改めて。目立って仕方ないの。

 それから、嫌になったらいつでも帰っていいわ。だから、無理はしないでね」


「……はい。フルール、様」


「気を、つける。フ、ルール様」


 ぎこちない二人に、フルールはくすりと笑みをこぼした。


「様も要らないのに。ま、追い追いね」


 フルール自身から崩すべきだろう。

 そう思って、スープは器を持ち上げて飲み干し、パンはかぶりついた。あっという間に平らげてしまった。


 その様子に、二人はそれぞれに言葉を失ったようだ。

 予想通りのリアクションに、フルールは目尻を下げて笑い、次の話題へと移る。


「さて。これから三人で住むのだから、部屋割りを決めるわよ!

 明日からさっそく、スキンケアを作っていくわ」

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