第20話 二人は気心が知れた身内です。旦那様とは違います
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いつも、ありがとうございます。
今日から三話ほど、フルール視点でのルゼルヴェの低評価をお楽しみください。
ガルドに肩を借りて、一階のダイニングテーブルの椅子へとフルールは座る。
見渡した一室は、どこもおかしなところが無かった。
――ええと、見知らぬヤバそうな男が押し入ってたはずよね?
額に手を当てて、フルールは状況を整理しようと考える。少しぼんやりとするものの、思考はハッキリしていた。
目の前にカームがコトリと、ハーブティーを置いてくれた。また、クラッカーやチーズなども添えてくれる。
「……ガルドでも、カームでも良いのだけど、状況を教えてくれない?
どうして、旦那様がここにいるの?」
寝室に、とはあえてフルールは言わなかった。思い出すだけで苛立ちが込み上げてくる。
目の前では、どちらがどう話そうか、椅子にも座らず二人が顔を見合わせていた。
「……旦那様がまだですが、待たないのですか?」
「呼びに行きたいなら、任せるわ。子どもではないのだから、放っておいても、一人で降りてこられるでしょう。
それよりその前に、私は状況把握をしたいのだけど?」
言いづらそうにしつつカームが確認をしてきたので、フルールも事務的に返す。
ガルドとカームには、もう白い結婚も三年後の離縁も含め事情を全て話してあるのだ。
――関係性なんて、最初から無いもの。
最初は冷たいし、酷い人だと思った。それは今も変わらない。淑女の部屋に、無断で入るなど何を考えているのか。
けれど、ガルドやカームを付けてくれたことだけは感謝している。
それも気を配ってくれてのことだと、後から二人に聞いてフルールは知っていた。
「私には、旦那様のことを何も知らないから、どうすることも出来ないわ」
そういって、フルールはハーブティーに口をつける。
ミントに似た物を集め紅茶をベースにブレンドしたハーブティーだ。
目が覚めるような爽やかさと、深みのある緑を感じる味が身体に沁みた。
どろどろとした感情も、押し流されるようだ。
「フルールに言われた通り、本邸に行った。報告を色々としてきた」
「旦那様、元々フルールに会うつもりだったみたいで、一度領地の別邸にも向かったようです。本邸の使用人から聞きました。
旦那様が戻られて少し経った時に、ちょうど私たちがお会い出来た形ですね」
「……え、なんで?」
ガルドが短く切り出し、カームが補足をした。
――旦那様が、あの別邸に?
フルールは、それに疑問を抱く。あのルゼルヴェの母を見れば、誰だってそう思うだろう。
恐らくだが息子にさえ、気を配ることが無いと、あの様子では言いきれる。
用もなく母に会いに行くような血の通った人間には見えない。むしろルゼルヴェは行くことを避けていそうにも感じた。
それに移動時間を考慮すれば、仕事人間の彼が職場である城から離れている。
話を聞く限りでは、かなりの期間に渡って仕事をしていないと思う。
「旦那様の事情は分からないですが、とりあえず一緒に来ることになったんですよねぇ」
「……悪い、フルール。白粉の話をした。それには興味を持たれたようだった」
カームの確信を得ない言葉に、思い出したと決まりが悪そうにガルドが口を開いた。
「ああ、私から話したことだから、気にしなくて良いわよ」
一方的に話したのはフルールだ。それにガルドの雇用主はルゼルヴェだ。報告をするなという方が無理だろう。
「あ、そうそう。旦那様が王都の白粉を買い集めてました!」
カームがガサガサと、どこからか大きな紙袋を持ってくると中身をテーブルに広げていく。
「……集めたって。見た目じゃ、粗悪品なんて分からないわよ、バカなの?」
その白粉の量に、フルールはちょっと呆れた。
手近な一つを取ってその蓋を開け、中身を見る。真っ白な粉は、パッと見たところではフルールにも分からない。
――旦那様ならば、原材料を調べる方が早いだろうに。
王太子の側近で、侯爵家当主なのだ。調べるくらい容易だろう。
その的外れっぷりの行動力に、フルールは思わずくすりと笑った。
物を確かめるために、白粉を指に取ろうと手を伸ばし――。
「――何をしてる!」
いつの間に降りてきたのか、ルゼルヴェがフルールの手を取り、白粉から遠ざけた。
フルールは不快感を隠しもせず睨み返す。不快だとルゼルヴェの手を払った。
「旦那様こそ、なんですの? 粗悪品かどうか、本当に健康を害するのか、私に聞きたくて来たのでしょう?
鉛は、見た目ではまず判別出来ませんわ。塗ってみれば、簡単に分かりますから」
正確には判別出来ないこともない。でも、誰にでも見える形で説明が可能なことでもない。
フルールは人よりもおそらく敏感肌だ。前世の記憶を思い出してから、肌荒れを起こしやすい肌質だと気がついた。
市場のものはどれも刺激が強すぎて、肌に合わなかった。
自然派の化粧品を、フルールが作ろうとした理由の一つでもある。
――だから鉛入りかどうか、私で試せば早いのに。
侯爵家当主からの指示であれば、フルールはそもそも断れない。
「身体に悪いんだろうがっ」
眉間に皺を寄せ険しい顔をするルゼルヴェに、フルールも意固地に返す。
「判別の為の少量でしたら、命に別状はありませんわ」
「……誰も、そんなことをしろとは言っていない」
怒りたいのだろう、ぐっと堪えるように声を抑えルゼルヴェは、フルールの前から白粉を遠ざけた。
「他に何か方法はないのか、君が試す以外で」
普段カームが座る椅子。そのフルールの隣にルゼルヴェは腰掛け、まっすぐに見つめて問いかけた。
ルゼルヴェの屑っぷりにイライラが溜まるかと思います。
明日は、鉛に関する雑学回をいれてますので、気分転換になれば幸いです。




