表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「好きにして良い」と言われ喜んで家を出た妻は、美容でスローライフを満喫します~関係修復しろと追い出された旦那様お気の毒に~  作者: 松平 ちこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/22

第17話 貴族であり、職人気質であり、理解の範疇を超えてる妻、らしい

「……君は、家に押し入った男どもも把握していたわけか。それが、なぜ森にいる。助けを求めるのが、筋だろう!」


 気づいた違和感をルゼルヴェが言葉に出して言えば、フルールはどこ吹く風だった。


「そう言われましても、あのような粗暴者、誰に助力を乞えと言うのですか。

 領民を無闇に危険に晒すなど、それこそ貴族の名折れですわ。

 それに私、サントゥール夫人として住んでませんの。ここでは、ただのフルールです」


 諦めて大人しくルゼルヴェに抱かれてはいるものの、フルールはふうと息を吐いて頬に手を当てている。

 ルゼルヴェとのやり取りを、どう切り抜けようか。そう、貴族としてフルールがあしらおうとしているのがよく分かる。


 ――平民として暮らしながら、貴族を語るのか。


 ルゼルヴェの胸の内が、すうっと冷えるのを感じた。それさえも苛立たしく感じながら、ただ早足に護衛が照らす道を進む。

 虚勢を張れる間はいい。けれど、いつ容態が悪化しないとも限らないからだ。


「それでも君は、名ばかりとはいえサントゥール侯爵夫人だ。そして私は書類上、君の夫だ」


「そうですね。三年後の離縁まで、軽率でした。次はもう少し、うまくしますわ」


 ルゼルヴェに返事をするフルール、その声が少し、柔らかいものへと変わっていた。気を許したからではない。

 視線を下げれば、フルールはうとうとしだしていた。


 腕の中に収まる華奢な存在。女など取るに足らない、忌まわしいだけだったはずだ。

 それがこんなにも、ルゼルヴェの心を乱すのはなぜだろうか。


「違う、そうじゃない。君はもっと、サントゥール家を、私を、利用すべきだ。使うべきなんだ。身を削ることに、一体なんの益がある」


 侯爵夫人として暮らしていれば、こんなことにはならなかったはずだ。

 それはフルール自身だけでなく、ルゼルヴェにも言えたことだった。

 お互いに言い方を変えていれば、本邸で好きに過ごせていたはずなのだから。


「……損得勘定では、ありません。私は人として、誰かが傷つくのも、誰かが悲しむのも嫌なんですの」


「そう思うならば、君はもっと君自身を大事にするべきではないか」


 ――ああ、真っ先に傷つけたのは、俺か。


 言ってから、ルゼルヴェは押し黙る。その過ちに気づいたからだ。

 今回の件でフルールだけを責める権利は、ルゼルヴェには無かった。


 ずんと腕に掛かる力が重くなった気がして、再び彼女を見ると浅く寝息をたてていた。その目元に、うっすらと隈が見える。

 再会した時にキラキラと見えたのは、肌に何か付けていたのだろう。

 目の周りにも光がついている。今はそれが逆に青白さを際立たせていた。


 先ほどの煌々とした姿と一変、疲労の色が濃い今の姿に、ズキリと明確な胸の痛みをルゼルヴェは覚えた。


「ガルド、先行して町の医者を家に呼べ。夜半だろうが叩き起こせ、金は弾むと伝えろ」


「はっ」


 命じた声は驚くほどに低く、温度の感じない感情の読めないものだった。

 ガルドはそれに短く返事をすると、走っていった。




 ◇◆◇◆◇◆◇




「腫れてはいますが、骨に異常はありませんな。捻挫でしょう。しばらく安静にされれば、よろしいかと思います」


「そうか」


 家に着くと、カームと護衛とがあらかた片付けを済ませていた。荒らされた形跡など、どこにも残っていなかった。

 しつらえられたフルールの部屋のベッドに彼女を寝かせ、ガルドが呼んだ医者が診察をする。


「あとはその……」


 部屋にはフルールと医師を除けば、ルゼルヴェとカームだけ。

 医師はチラチラとルゼルヴェを気にかけ、カームへと窺うように視線をさ迷わせている。


 ――どいつもこいつも、露骨すぎる。


 町に着いた時から感じていたが、フルールを始めとした三人は、かなり町に馴染んでいる。

 町民からも、愛されているのだろうことが分かるほどだ。


 反対に、ルゼルヴェは貴族であり部外者だ。快く思えと言う方が無理がある。

 余所者として言って大差はないが、仮にも夫なのだ。メイドよりも、フルールのことで扱いを下にされるのはプライドが傷つく。


「気にせず全て話せ」


「発熱は風邪ですな。それに疲労と栄養失調、過労の傾向がみられます。

 しばらくは、静養された方がよろしいかと……」


 ルゼルヴェは医師の機微を読み、まだ何かあると、さらり鋭利な視線を向ける。

 腕を組んだ上から、苛立ちのまま指をトントンと叩いていた。


「全て話せと言った」


「は、はい。ほとんどの怪我は、擦り傷なので跡にも残りませんが。ただ、その……腕の傷だけは残るかもしれません」


「……腕?」


「ああ、パッチテストの跡ですね。フルール様、またやっちゃいましたか」


 縮こまる医師に、助け船を出したのはカームだ。要領を得ずに、ルゼルヴェが訝しげに呟く。


「どういうことだ?」


「どうもこうも、手作り品を作られてるじゃないですか。フルール様は、その安全性の検証をご自身の腕で全て試しているんです。

 異常を感じたら、すぐに流せば良いのですけど、うっかりそのままにされることも多くて。

 物作りに熱中すると、飲食を疎かにもされますからね」


 ――それは、どこの職人だ。


 瞬時に思った言葉を、ルゼルヴェはなんとか飲み込んだ。

 諦めたようにため息を吐いたカームに、逆にルゼルヴェは予想外過ぎて、それ以上何も言えなかった。


「……皆、ご苦労だった。各自交代で休息を取れ、報告は明日、まとめて聞こう」


 医者を帰した後に、そう言うのがやっとだった。

 医者に見せるまで、やきもきとして気が気ではなかった。

 それが最後はやはりと言うか、やはり妻はどこか枠に収まってはくれないのだと、ルゼルヴェは痛感したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ