第15話 その再会は突然で意味不明です、旦那様
リアクション、ブクマ等々、いつもありがとうございます。
今作のリアクション傾向から、今日、明日わりと好まれる展開だといいなぁと思いながら、改稿重ねていきました。
すれ違い、まだ始まってすらない夫婦の再会回です( *´艸`)
ホウホウと、ふくろうのような鳴き声が辺りに木霊する。月明かりもなく辺りは真っ暗だった。
ざあざあと風が木々を揺らし、まるでフルールを嘲笑うかのようだ。
「やっぱりちょっと、寒いなぁ」
一昨日は確かに、帰ろうと思っていた。でも、やはりどこかで躊躇してしまった。
家にいた男たちと、はち会わせたらどうしようと思うと、フルールは意味もなく右往左往していた。
山は日が落ちるのが早い。麓の森で悩むうちに、辺りは暗くなった。
見通しの悪くなった視界で、フルールは小さな崖へと足を滑らせ落ちてしまった。
――本当に間が悪いんだから。
採取用の装備ではなかったこともあり、落ちた際に足を挫いて腫れてしまった。
我ながら、何をしているのだと呆れたくもなる。
幸い手元には買ったばかりの干し肉や果物があり、飲み水は魔法で出せる。
急いで帰ることもないかと、フルールは都合のいい言い訳を見つけてしまった。
崖を背もたれに座り込んで、ただぼうっとしていた。マイナスイオンというのか、森林浴というのか、不思議ととても穏やかに過ごしていた。
雨が降るなら引きずってでも移動をと思うけれど、幸いなことに晴れていて動く必要が全くなかった。
日中は過ごしやすくて良いのだけど、夜になると少し肌寒く感じることが難点だった。
一昨日は、疲れていて案外すぐに寝れたから、まだいい。昨日は、普段は気に留めない星を、眺め数えている間に寝ていた。今日はもう、することがない。
――ほとぼりが、冷めるまで……。
いつかは飽きて無人になるだろう。男が住み着いていたら、それこそ新居を探そうとこの二日で考えることが出来た。
――怖くない、怖くない。
夜はダメだ。一度滅入ると、どうしようもなく人を弱くする。膝を抱えて、フルールは背中を丸めた。
前世を思い出したフルールが目が覚ますと、今世の両親はすでに居なかった。対面した弟には恨み言を言われた。
「うぅ……」
家から出るために、療養が終わってから実は夜会にも数回行った。
マナーは身体が覚えていたが、噂好きの貴族の相手に辟易して、フルールは次第に行かなくなった。
「ばかぁ」
誰とも知れず、フルールはそう弱音を吐いていた。ずるずるとした考えが、芋づる式に浮かんでは消えていく。
ルゼルヴェとの結婚が決まって、心機一転と思ったのにうまくいかなかった。
飛び出した先、気まずいことも多かった。
やっと新生活を手にして、フルールとして笑えるようになった。
町民からも受け入れられて、カームとガルドを手放す決意を、ようやく固めたというのに……。
――何も噂を聞いて、すぐに物盗りに遭遇しなくても良いじゃないの!
グリグリと膝に目元を擦りつけ、フルールはきゅっと唇を引き結ぶ。
こんなところで泣いてしまっては、きっともっとダメになる。
「――っ!」
バサバサと物音がして、びくりと身体を硬直させる。心臓が、バクバクと嫌な音をたて始めた。
身を固くしたフルールは、じっとりと汗をかき孤独を耐えた。
今さら慌てて逃げたところで、もうどうしようもないのだと言い聞かせる。
――チカチカする?
ふと、明かりを感じてフルールは顔を上げた。
真っ暗な空に、ヒラヒラと飛ぶ輝く鳥を見つけた。
「え、と……?」
音もなくフルールの元へと降り立った鳥たちは、体を休め寛いでいる。
フルールはとっさのことに目を丸くして、別の意味で固まった。
――これは、なに?
再びガサガサと音がして、フルールがビクッと身を竦ませる。今度の音は、かなり近かった。
「フルール!」
「……がるどぉ」
崖の上から、ガルドが飛び降りてきた。
そのまま、フルールの側に膝を折って屈む。
久しぶりに会う見知った顔に、安堵からフルールは涙声になっていた。
「探した。こんなところで何を……足、怪我してるのか?」
「……ちょっと、捻っちゃって」
輝く鳥に照らされて、腫れた足首が露になっている。
バツが悪そうに、フルールは力なく笑う。
転んで汚れて、みっともない姿を晒しているが、許してほしい。
「無茶をする。じっとしてて」
「ガルド、それは私の妻だ」
フルールを抱えようと手を伸ばしたガルドに、固い制止の声がかかる。
「……あれ。旦那様、ですか?」
ガルドの後ろを見ると、いつからいたのか渋面のルゼルヴェが、上着を脱ぎながらこちらへと歩いてきた。
――今、妻って言った?
フルールに集まっていた鳥が、ルゼルヴェの近くに集まっては消えていく。それを見て、彼の魔法だとフルールは気づいた。
「……君の、夫ルゼルヴェだ。忘れたとは言わせないぞ」
「忘れてはいませんけど……?」
ルゼルヴェは、フルールの肩へと上着を掛けた。そのまま背中とひざ裏に手を入れ、造作なく抱え上げる。
その彼の行動に、フルールは戸惑うばかりだ。
「あの、汚れてますから。私はガルドの手を借りますので……。
旦那様のお手を、煩わせるつもりはありませんわ」
「動くな。落としたらどうする」
抵抗するフルールに、ルゼルヴェはキッパリと言い放つ。その声はいささか不機嫌そうだ。
――突然出てきて、なに?
フルールは訝しげに眉を寄せる。夫とは言え、ほぼ見ず知らずの男に抱かれても、こちらは落ち着けない。
フルールとルゼルヴェの間に、戸籍上の接点以外何もなかった。
そう考えて、ガルドとルゼルヴェが二人で現れたことに、フルールは答えを見いだした。
「ああ! わざわざ、アレの使用感について感想でも言いに来られたのですか?
それとも、まとまった数の追加がほしいと言うことでしょうか?」
ドライシャンプーや簡易リンスは簡単なので、カームが作り方を知っている。
けれど、石鹸は少し特殊だ。欲しがるのであれば直接来てもなんら不思議ではない。
「はぁ?」
意外なほど素だろう声を、ルゼルヴェが上げた。その表情は初対面のキツいものではなく、年相応の青年だった。
――旦那様もそんな顔をするのね。
フルールは予想が外れたと、ルゼルヴェを見て首を傾げる。
何しに来たのだろう、そう思いながら。




