第14話 旦那様、魔法使えたんですか
フルールの住む家は、町の奥まったところにあるらしい。
ガルドの後を追いかけるルゼルヴェが、町並みを見ながら訝しげに眉を潜めた。
――こんなところに、貴族が住めるのか?
建物がまばらになった町の外れ、入り口の扉が壊れている家が目に入った。
穏やかではない様子に、緊張が増す。ガルドが足音を消して家へと近寄り、窓から中を覗いていた。
「一人は生かしておけ」
ルゼルヴェも身を屈めて、小声で指示を出す。それに頷き返したガルドは鞘ごと剣を抜き取り、中へと素早く身を滑り込ませた。
「ぐあ!」
激しい物音ともに、男の悲鳴が聞こえる。
交戦の音がしばらく響き、やがて音が小さくなっていった。
周囲を警戒していたルゼルヴェは、立ち上がって中へと入った。
家の造りは狭く単純だった。
見渡せるだけの広さしかない一階と、地下、二階があるだけだ。
一階は全体的に荒らされており、テーブルには男たちの飲み食いの跡がある。
ルゼルヴェについていた護衛が床に昏倒させられた男を、近くにあった縄で縛り上げる。
ガルドは斬り伏せることをせず、打撃のみを与えたらしい。
「彼女は?」
「いません」
二階から降りてきたガルドに、ルゼルヴェが問えば短い返答が返ってきた。
縛り上げたうちの一人を、ルゼルヴェは頭から魔法で冷水を浴びせて起こす。
「ここに住んでいた者は?」
「――っ! 知るか! 俺らだって用があったてぇのに、居ねぇんだよ」
「へぇ?」
虫けらを見るように一瞥すると、ルゼルヴェは護衛へと命令を下す。
「ただの物盗りかそうでないか、吐かせておけ。ガルド、彼女の部屋は?」
「二階の真ん中ですが」
疑問に思うガルドをおいて、ルゼルヴェはそのまま二階へと上がる。
手前の部屋はカームだろうか。持ち物が少ないから、あまり荒らされた様子はない。
真ん中、こちらも意外に物が無く、荒らされていない。貴婦人の部屋とは思えないほどさっぱりしている。
「――《探せ》」
部屋に残るフルールの魔力残滓を元に、ルゼルヴェは術式を構築する。
部屋を埋め尽くす光が、無数の鳥となって外へと羽ばたいていった。その方角を、窓から確認する。
階下へ行く前に奥の部屋も、チラリと見た。倉庫になっているようだが、荒らされた形跡は無かった。
――単なる物盗りではないな。
「家の異変に気づいたのは、昨日だそうです。フルール様は一昨日、市場に出掛けられたのを目撃されています」
ルゼルヴェが一階へ降りると、残した護衛とともにカームが家に着いていた。
町民から聞き取った情報を報告してくれる。
「彼女が家を空けることは、よくあるのか?」
「カームが留守番をする分には。フルール様は普段から採取など、ご自分でなさる方ですので。
それでも、野宿されたことはありません」
険しい顔のままガルドが簡潔に答えた。家の惨状だけでなく、行方不明というのが気がかりだ。
「……見つけた」
壁をすり抜け、ルゼルヴェの放った鳥が戻ってくる。鳥は、ルゼルヴェの真上を旋回していた。
「それは……?」
「探知魔法だ。カームは万が一のためにここで待機、護衛も一人残れ」
メイドのカームが、ルゼルヴェの魔法の実力を知らず不思議そうにしている。
生活レベルの魔法は平民でも扱える。貴族の一部は、それ以上の規模の魔法を扱える者もいる。ルゼルヴェもそうだ。
「ガルド、お前はついてこい。フルールと……顔見知りだからな」
ルゼルヴェは家を出ると、鳥を再び空へと放つ。
日が落ちて辺りはすっかり暗い、輝く鳥は一点を目指し遠くへと飛び立った。
見失うことはないだろう、ルゼルヴェは見上げて追いかける。
必要な言葉しか交わさず、一日会ったっきりの妻。
予測が出来ない彼女に悪態をつけるほど、ルゼルヴェ自身も立派な夫ではなかった。
理由はどうあれ、妻を危険にさらしたのだから。
――せめて、夫の顔くらい覚えていてほしいがな。
そのことにルゼルヴェはただ、自嘲気味に笑うのだった。




