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「好きにして良い」と言われ喜んで家を出た妻は、美容でスローライフを満喫します~関係修復しろと追い出された旦那様お気の毒に~  作者: 松平 ちこ


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14/20

第14話 旦那様、魔法使えたんですか

 フルールの住む家は、町の奥まったところにあるらしい。

 ガルドの後を追いかけるルゼルヴェが、町並みを見ながら訝しげに眉を潜めた。


 ――こんなところに、貴族が住めるのか?


 建物がまばらになった町の外れ、入り口の扉が壊れている家が目に入った。

 穏やかではない様子に、緊張が増す。ガルドが足音を消して家へと近寄り、窓から中を覗いていた。


「一人は生かしておけ」


 ルゼルヴェも身を屈めて、小声で指示を出す。それに頷き返したガルドは鞘ごと剣を抜き取り、中へと素早く身を滑り込ませた。


「ぐあ!」


 激しい物音ともに、男の悲鳴が聞こえる。

 交戦の音がしばらく響き、やがて音が小さくなっていった。

 周囲を警戒していたルゼルヴェは、立ち上がって中へと入った。


 家の造りは狭く単純だった。

 見渡せるだけの広さしかない一階と、地下、二階があるだけだ。

 一階は全体的に荒らされており、テーブルには男たちの飲み食いの跡がある。


 ルゼルヴェについていた護衛が床に昏倒させられた男を、近くにあった縄で縛り上げる。

 ガルドは斬り伏せることをせず、打撃のみを与えたらしい。


「彼女は?」


「いません」


 二階から降りてきたガルドに、ルゼルヴェが問えば短い返答が返ってきた。

 縛り上げたうちの一人を、ルゼルヴェは頭から魔法で冷水を浴びせて起こす。


「ここに住んでいた者は?」


「――っ! 知るか! 俺らだって用があったてぇのに、居ねぇんだよ」


「へぇ?」


 虫けらを見るように一瞥すると、ルゼルヴェは護衛へと命令を下す。


「ただの物盗りかそうでないか、吐かせておけ。ガルド、彼女の部屋は?」


「二階の真ん中ですが」


 疑問に思うガルドをおいて、ルゼルヴェはそのまま二階へと上がる。

 手前の部屋はカームだろうか。持ち物が少ないから、あまり荒らされた様子はない。

 真ん中、こちらも意外に物が無く、荒らされていない。貴婦人の部屋とは思えないほどさっぱりしている。


「――《探せ》」


 部屋に残るフルールの魔力残滓を元に、ルゼルヴェは術式を構築する。

 部屋を埋め尽くす光が、無数の鳥となって外へと羽ばたいていった。その方角を、窓から確認する。


 階下へ行く前に奥の部屋も、チラリと見た。倉庫になっているようだが、荒らされた形跡は無かった。


 ――単なる物盗りではないな。


「家の異変に気づいたのは、昨日だそうです。フルール様は一昨日、市場に出掛けられたのを目撃されています」


 ルゼルヴェが一階へ降りると、残した護衛とともにカームが家に着いていた。

 町民から聞き取った情報を報告してくれる。

 

「彼女が家を空けることは、よくあるのか?」


「カームが留守番をする分には。フルール様は普段から採取など、ご自分でなさる方ですので。

 それでも、野宿されたことはありません」


 険しい顔のままガルドが簡潔に答えた。家の惨状だけでなく、行方不明というのが気がかりだ。


「……見つけた」


 壁をすり抜け、ルゼルヴェの放った鳥が戻ってくる。鳥は、ルゼルヴェの真上を旋回していた。


「それは……?」


「探知魔法だ。カームは万が一のためにここで待機、護衛も一人残れ」


 メイドのカームが、ルゼルヴェの魔法の実力を知らず不思議そうにしている。

 生活レベルの魔法は平民でも扱える。貴族の一部は、それ以上の規模の魔法を扱える者もいる。ルゼルヴェもそうだ。


「ガルド、お前はついてこい。フルールと……顔見知りだからな」


 ルゼルヴェは家を出ると、鳥を再び空へと放つ。

 日が落ちて辺りはすっかり暗い、輝く鳥は一点を目指し遠くへと飛び立った。

 見失うことはないだろう、ルゼルヴェは見上げて追いかける。


 必要な言葉しか交わさず、一日会ったっきりの妻。

 予測が出来ない彼女に悪態をつけるほど、ルゼルヴェ自身も立派な夫ではなかった。

 理由はどうあれ、妻を危険にさらしたのだから。


 ――せめて、夫の顔くらい覚えていてほしいがな。


 そのことにルゼルヴェはただ、自嘲気味に笑うのだった。

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