第12話 手作りラメの出来映えと、不穏な影
パリパリパリ。
軽く割れる音が室内に響く。ガラス板に貼っていた卵白を、フルールは丁寧に木べらでこそぎ取っていた。荒く削り取るのがコツだ。
光に反射して、キラキラと光るそれを容器に入れる。
「手作りラメの出来上がり!」
前世では、子どもの頃にクリアファイルや下敷きに卵白を指で塗って乾かした。
出来上がったラメで、おしゃれをしたことがある。
確か、元はテレビでたまたま見た雑学だった。
失敗すれば生臭くなるし、湿気に弱く保存料もないため、使いきりに等しい。
長期保管に向かないデメリットはあるのだが……。
「自分使いには良いわよね」
そういってフルールは、目元と胸元にパラパラと卵白ラメをつけた。
窓ガラスに映る姿で軽く確認をした後、家を出た。久しぶりに買い出しだ。
「あら、フルールちゃんが一人、珍しいね?」
「たまには私だって、一人で出掛けるわよ」
ガルドがいた頃は、ずっと護衛としてそばにいた。
いや、最近では荷物持ちや助手といった意味合いが大きいかもしれない。
ご近所さんと別れて、市場の方へと歩いていく。
「フルールちゃん。今日、いつもより肌が綺麗ね?」
「そう? あ、アンジュさん。干し肉一包み貰える?」
太陽に照らされて、ラメがいい感じで仕事をしているようだ。買い物の間に、フルールを見て振り返る人がちらほらといた。
――特別な日とか、ちょっと使いに良さそうかも。
「おう、フルールちゃん。最近は物騒だから一人で歩いちゃいかんぞ」
声を潜めて隣の店主が、フルールにアドバイスしてくる。
「まぁ確かに、見慣れない人は増えたけど。自意識過剰じゃないかしら」
フルールのお手製が町に浸透し、女性に限らず男性も身綺麗になった。
隣町から噂を聞きつけて、物々交換を願い出る人が訪れたと、フルールもカームから教えてもらっていた。
「いやいや、果物屋のラピッドちゃんも絡まれてたからよぉ、気をつけろよ?」
「え、絡まれたの? 彼女、大丈夫だった?」
ラピッドは既婚者だった、そんな人に絡みに行くなど非常識ではないか。
「ああ、あれかい。夫がナンパ男を返り討ちにして。まぁ、アタシしゃ惚気を聞いたんだけどさ」
アンジュも話に混じって、フルールに干し肉の包みをくれる。
ラピッドの夫は林業をしていて、腕っぷしが強いらしい。怪我もなく惚気話として、町では回っているそうだ。
大事にならなくて良かったが、原因の一端であるフルールは、申し訳ない気持ちになる。
「ごめんなさいね、私のせいで……」
「いやいや、フルールちゃんのやつはとっても助かってるよ。見てよ、この手! 荒れが引いてすべすべよぉ。
それにさ、手ぇ出すやつが悪いの」
しゅんとしてフルールが謝ると、アンジュはカラリと笑って手を見せてくれた。
以前はぱっくりと割れてあかぎれだらけの手が、美意識に目覚めた今、綺麗になりつつある。
――手の傷はそこから、感染リスクもあるし、取り扱う商品への衛生面の問題もあるからね。
町の女性には、オイルを多めにして正解だったらしい。
「まぁ、そういうこった。あの怖い兄ちゃんと一緒なら安心だって、ひっついときな」
「ガルドは別に怖くないわよ?」
店主の言いぐさに、フルールは思わず笑みがこぼれた。
ガルドの鍛練以外での実力をフルールは知らないが、今ではすっかりその辺にいそうな気のいい無口なお兄さんの印象だった。
それくらいガルドの見た目も、フルール製を使って変わっている。
市場を離れて帰路に着くと、家の前に粗暴そうな男が二人いる。
明らかに町の人間ではない。彼らはじろじろと家の周りをうろついている。
そのうちの一人が、躊躇いなく扉を蹴破った。
フルールの家の中へと、ズカズカと入っていく。
「……物盗り?」
とっさに隠れて、フルールは口を手で覆う。こっそりと家を見ると、一人は見張りらしく表に立っていた。
男と視線が合う前に、再び身を引っ込める。
「どうしよう」
前世なら迷わず警察だろう、今世ではどうするべきか。
小さな町には、自警団や警備隊もいない。
事を荒げても、良いことは一つもないだろう。
フルールのためならと、町民は協力してくれそうなのがまた怖いところだ。
――誰かに何かあっても困るし。
見上げた空は、高々と太陽が真上に昇っていた。
フルールは一つ頷いて、ゆっくりと歩き出した。




