第7話 胸騒ぎ
迷宮型ダンジョンの中層。
薄暗い通路に、
静かな緊張が漂っている。
雷光衆と白銀の誓いが、
慎重に前進していた。
忠臣は剣を軽く構え、
周囲の異変を探る。
何度も目を凝らしても、
魔物の気配はまだ感じられない。
(……おかしい)
この静けさは、
戦闘前の異様な緊張感に似ている。
胸の奥が、
妙にざわつく。
横にいる颯真も、
同じように辺りを警戒していた。
「忠臣、何か感じるか?」
「うん……
違和感がある」
忠臣は、
ほんのわずかに眉を寄せる。
その時、
後方の白銀の誓いの回復師――
八雲しずくの表情が変わった。
青白い光が、
彼女の手からわずかに漏れる。
(……今、
魔力が震えた?)
忠臣の心臓が跳ねる。
身体が勝手に前に出る。
その瞬間、
通路の奥から鈍い地響き。
小石が転がり、壁の苔が崩れる。
「敵か!」
八神剛が盾を構える。
望月さくらが弓を引く。
だが、現れたのは、
小型のゴブリン数体だけ。
しかも、
こちらを見ても一瞬で逃げ去った。
「何だ……
弱い」
神崎剣悟が眉をひそめる。
忠臣は違和感を消せずにいた。
(ただの弱小魔物じゃない。
違和感の正体は……)
それは、
しずくの存在だった。
回復師としての光。
彼女の魔力の微細な震え。
胸の奥に、
奇妙な感覚が走る。
思い出す。
異世界で共に戦った日々。
剣を交え、魔法を駆使し、
命を預け合った時間。
(……まさか)
だが、
そんなことはありえない。
この世界で会うはずもない。
それでも、
胸騒ぎは消えなかった。
通路を曲がるたび、
彼女が気になる。
一瞬でも視線が合うと、
鼓動が速くなる。
忠臣は無意識に、
手の力を握りしめる。
(守らなければ……)
不思議な使命感。
理由は分からない。
ただ、体が自然に動く。
一方のしずくも、
忠臣に気づくと、
胸がざわついた。
(あの人……
どこかで見たような)
記憶の底に眠る、
見知らぬ感覚。
でも、言葉にできない。
通路の奥。
再び魔物の群れ。
スケルトン、ゾンビ、
低級アンデッド。
「構えろ!」
忠臣が声を上げる。
剣を抜き、踏み込む。
その背後で、
しずくが杖を構える。
光が、
仲間を包み込む。
短い戦闘。
魔物は片付いた。
だが、
二人の胸騒ぎは消えない。
(……やはり、
ただの偶然じゃない)
通路の暗闇に、
何かが潜んでいるような。
忠臣も、しずくも、
互いにその正体を知らずにいた。
ただ、胸の奥で、
確かに感じた――
運命の糸が、
静かに絡み始めていることを。




