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第6話 炎迅撃


 オーガの巨体が、

 ゆっくりと崩れ落ちた。


 重い音が、

 通路に響く。


 一瞬、

 戦場が静まり返る。


「……今の、

 何だ?」


 蒼天の翼の斥候、

 風見蓮が呟く。


 忠臣は、

 剣を握り締めたまま、

 答えられずにいた。


(使うなって、

 決めてたのに)


 炎迅撃。


 異世界で勇者カイトとして

 幾度となく振るった剣技。


 この世界では、

 使わないと誓った力。


 だが、

 体が勝手に動いた。


 目の前にいたのが、

 八雲しずくだったから。


「佐倉!」


 真壁が駆け寄る。


「無事か?」


「はい……」


 忠臣は短く答える。


 その視線の先で、

 しずくが立ち尽くしていた。


 蒼い瞳が、

 揺れている。


「八雲さん、

 怪我は?」


 忠臣が声をかける。


「あ……いえ。

 大丈夫です」


 だが、

 様子がおかしい。


 顔色が、

 少し青い。


「しずく、

 座れ」


 八神剛が肩を支える。


「無理してる」


「大丈夫です……

 少し、

 びっくりしただけで」


 しずくはそう言いながらも、

 忠臣から目を逸らした。


(あの動き……)


 頭の中で、

 何度も再生される。


 燃える剣。


 一瞬で距離を詰める踏み込み。


 間違いない。


(カイトの、

 炎迅撃)


 ありえない。


 勇者カイトは、

 もうこの世にいない。


 異世界でも、

 現代でも。


(でも……

 似すぎてる)


 胸の奥が、

 ざわつく。


 だが、

 しずくは首を振った。


(考えすぎ)


 そう思い込もうとする。


「まだ終わりじゃない」


 真壁の声が、

 全員を現実に引き戻す。


「通路奥から、

 反応あり」


 忠臣は、

 深く息を吸った。


「行きます」


 そう言って、

 前へ出る。


 しずくは、

 その背中を見つめていた。


(どうして……

 懐かしいの)


 分からない。


 けれど。


(守りたい)


 その気持ちだけは、

 確かだった。


 通路奥。


 再び、

 魔物の群れ。


 スケルトン。

 ゾンビ。

 低級アンデッド。


「前列、

 押さえろ!」


 忠臣と天城竜司が、

 並ぶ。


 剣と剣が、

 同時に振るわれる。


 骨が砕け、

 腐肉が飛ぶ。


「後列、

 回復頼む!」


「はい!」


 しずくは杖を構える。


「ヒール」


 白い光が、

 仲間を包む。


 忠臣の肩の痛みが、

 消える。


(やっぱり……

 フィオナに似てる)


 回復の感覚。


 温かさ。


 勇者時代、

 何度も救われた。


 だが、

 その名は口にしない。


 言えるはずがない。


 戦闘は、

 十分ほどで終わった。


 通路には、

 魔物の死骸が転がる。


「ここで小休止だ」


 真壁が言う。


 忠臣は、

 しずくの方へ歩いた。


「さっきは、

 ありがとうございました」


「……こちらこそ」


 短い会話。


 沈黙。


 それでも、

 離れがたい。


「さっきの技……」


 しずくが、

 言いかけて止まる。


「すごかったです」


 忠臣は、

 微笑んだ。


「偶然です」


 嘘だった。


 だが、

 真実を言うことはできない。


 しずくも、

 それ以上は聞かなかった。


 互いに、

 踏み込めない一歩。


 その距離が、

 もどかしかった。


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