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第1話 雷をまとう剣士


 東京湾岸地区。

 昼夜を問わず人と車が行き交う高層ビル群の地下深くに、

 一般人には存在すら知られていない施設がある。


 探索者ギルド。


 十年前、世界各地で突如として現れた

「ゲート」と呼ばれる異空間への裂け目。

 そこから溢れ出した魔物によって、

 人類は新たな脅威と向き合うことになった。


 銃や戦車では歯が立たない魔物に対抗するため、

 一部の人間に覚醒した特殊能力。

 剣士、魔法使い、回復師といった

 かつては物語の中だけの存在だった職業が、

 現実のものとなった。


 探索者とは、

 その力を持ち、国に登録し、

 魔物討伐を生業とする者たちの総称だ。


 ギルド地下三階、訓練用ホール。


 金属がぶつかる乾いた音が、

 規則正しく響いていた。


「はぁっ!」


 鋭い踏み込みと同時に、

 青年が木製の模擬剣を振り抜く。


 目の前に立つ自動人形型の訓練装置が、

 真っ二つに割れた。


「相変わらず、無駄がないな」


 壁際から声が飛ぶ。


 振り返ると、

 赤い短髪の青年が腕を組んでいた。


 久我颯真。

 Aランクパーティ《雷光衆》の魔法剣士。


「まだ重い。

 踏み込みが半拍遅れてる」


 そう答えたのは、

 剣を握る黒髪の青年――佐倉忠臣だ。


 年齢は二十歳。

 探索者ランクはA。


 若くして上位ランクに到達した実力者だが、

 本人に慢心はない。


「お前がそれ言うと、

 他の連中が泣くぞ」


 颯真は肩をすくめる。


 忠臣は剣を下ろし、

 静かに息を整えた。


(……まただ)


 ここ最近、

 同じ夢を何度も見る。


 燃え盛る城。

 血の匂い。

 仲間の叫び声。


 そして――


 白いローブをまとった、

 金色の髪の少女。


(フィオナ……)


 胸の奥が、

 きゅっと締めつけられる。


 佐倉忠臣は、

 かつて異世界で勇者だった。


 名を、カイト。


 魔王と戦い、

 仲間と共に旅をし、

 そして――命を落とした。


 気がつけば、

 この世界で赤ん坊として生まれ変わっていた。


 前世の記憶を持ったまま。


 だがその事実を、

 誰にも話したことはない。


 話したところで、

 信じてもらえるはずがない。


 そして何より――


(勇者は、もう死んだ)


 自分は英雄ではない。

 ただの探索者だ。


「忠臣」


 低い声に呼ばれ、顔を上げる。


 そこに立っていたのは、

 雷光衆のリーダー、真壁恒一。


 鋭い目つきだが、

 仲間想いの男だ。


「次の任務が入った」


 恒一は携帯端末を操作し、

 空中投影された資料を表示する。


「三日後、

 大規模討伐作戦」


 ホール内の空気が、

 一瞬で引き締まる。


「Aランク二パーティと、

 Bランク一パーティの合同だ」


「相手は?」


 颯真が尋ねる。


「地下迷宮型ダンジョン。

 推定出現魔物数、

 五百以上」


 ざわり、と声が漏れる。


 五百体。

 数字だけ見れば、

 小規模な戦争だ。


「白銀の誓いも参加する」


 その名前を聞いた瞬間、

 忠臣の心臓が跳ねた。


 理由は分からない。


 だが、

 胸の奥がざわつく。


(……何だ、この感じ)


 会ったこともないはずなのに。


 なのに、

 どこか懐かしい。


「どうした?」


 颯真が不思議そうに覗き込む。


「いや、何でもない」


 忠臣は首を振った。


(考えるな)


 過去に囚われるな。


 今の自分は佐倉忠臣だ。


 そう自分に言い聞かせる。


 だが――


 その夜。


 忠臣は再び夢を見る。


 暗闇の中、

 血まみれの自分が倒れている。


「カイト……!」


 涙を浮かべて

 駆け寄ってくる少女。


 フィオナ。


「生きて……お願い……」


 彼女に手を伸ばそうとした瞬間、

 視界が白に染まった。


 忠臣は、

 息を荒げて目を覚ます。


 胸に残るのは、

 言いようのない喪失感。


「……次は、守る」


 誰にともなく呟く。


 それが誰なのか、

 まだ分からないまま。


 だが確かに、

 運命は動き始めていた。


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