星はいくつでしたか――人生は、死んだあとに採点されるらしい。
死後レビュー制度が始まったとき、多くの人は安心した。
人生が評価される。
それも、星五つまでの分かりやすい形式で。
努力は報われる。
誠実さは評価される。
善良な人間は高得点を得る。
そう信じられていた。
私も、そう思った一人だ。
だから私は、生き方を変えた。
危険な挑戦はしない。
失敗しそうな選択は避ける。
誰かと衝突しそうになったら、先に引く。
正義感は胸にしまい、波風を立てない。
職場では、空気を読む。
意見は多数派に合わせる。
間違っていると分かっていても、黙る。
誰も傷つけない。
誰にも嫌われない。
それが、星を落とさない生き方だった。
周囲からの評価は悪くなかった。
「いい人だよね」
「真面目だし」
「問題を起こさない」
私は、その言葉を信じた。
人生は採点される。
ならば、減点されないことが最優先だ。
恋愛でも同じだった。
本気になりそうな相手とは距離を置いた。
別れが揉めそうなら、最初から始めない。
誰も傷つけなければ、星は落ちない。
そうして、私は無事に人生を終えた。
事故でもなく、事件でもなく、老衰でもない。
平均的な死だった。
目を開けると、白い空間にいた。
目の前に、表示板が浮かぶ。
レビュー結果を表示します。
私は、少しだけ緊張した。
星はいくつだろう。
四か。
もしかしたら五か。
表示が切り替わる。
星二つ。
思ったより、低かった。
理由が表示される。
「大きな過失はありません」
「致命的な失敗もありません」
私は、ほっとした。
やはりそうだ。
無難に生きた結果だ。
だが、その下に、最後の一文が表示された。
「しかし、この人生には、評価すべき点もありませんでした」
私は、言葉を理解するのに時間がかかった。
評価すべき点が、ない。
善行はあった。
迷惑もかけなかった。
責任も果たした。
だが、評価すべき点はない。
係員らしき存在が、淡々と説明した。
「あなたの人生は、減点が少ないだけでした」
「加点要素が存在しません」
私は反論しようとした。
努力した。
我慢した。
耐えた。
だが、それらはすべて、失敗を避けるための行動だった。
何かを選び、何かを賭け、何かを失う。
そういう瞬間が、私の人生には一度もなかった。
「安全運転でしたね」
「ただし、目的地には向かっていません」
係員はそう言って、次の画面を出した。
公開レビュー欄。
「良くも悪くも、印象に残らない人生」
「誰の記憶にも残らない」
「再視聴する価値なし」
私は、ようやく理解した。
人生は、間違えなければ評価されるわけではない。
無難であることは、価値ではない。
星一つの人生は、失敗した人生だ。
だが、星二つの人生は、挑戦しなかった人生だ。
そして、それは、最も評価しづらい。
係員が最後に言った。
「次回は、もう少し何かを選んでください」
次回。
その言葉が、最も残酷だった。
私は、生き直すことを許されなかった。
ただ、低評価の人生として保存されるだけだった。
星二つ。
それは、失敗よりも恥ずかしい点数だった。
誰も怒らせず、
誰も愛さず、
何も壊さなかった人生。
その結末は、
誰にも必要とされなかった。
人生は、採点される。
だが、安全運転だけでは、
決して高得点にはならない。
それを知ったときには、
もう、生きる時間は残っていなかった。




