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星はいくつでしたか――人生は、死んだあとに採点されるらしい。

掲載日:2025/12/30

 死後レビュー制度が始まったとき、多くの人は安心した。


 人生が評価される。

 それも、星五つまでの分かりやすい形式で。


 努力は報われる。

 誠実さは評価される。

 善良な人間は高得点を得る。


 そう信じられていた。


 私も、そう思った一人だ。


 だから私は、生き方を変えた。


 危険な挑戦はしない。

 失敗しそうな選択は避ける。

 誰かと衝突しそうになったら、先に引く。

 正義感は胸にしまい、波風を立てない。


 職場では、空気を読む。

 意見は多数派に合わせる。

 間違っていると分かっていても、黙る。


 誰も傷つけない。

 誰にも嫌われない。


 それが、星を落とさない生き方だった。


 周囲からの評価は悪くなかった。


「いい人だよね」

「真面目だし」

「問題を起こさない」


 私は、その言葉を信じた。


 人生は採点される。

 ならば、減点されないことが最優先だ。


 恋愛でも同じだった。

 本気になりそうな相手とは距離を置いた。

 別れが揉めそうなら、最初から始めない。


 誰も傷つけなければ、星は落ちない。


 そうして、私は無事に人生を終えた。


 事故でもなく、事件でもなく、老衰でもない。

 平均的な死だった。


 目を開けると、白い空間にいた。


 目の前に、表示板が浮かぶ。


 レビュー結果を表示します。


 私は、少しだけ緊張した。


 星はいくつだろう。

 四か。

 もしかしたら五か。


 表示が切り替わる。


 星二つ。


 思ったより、低かった。


 理由が表示される。


「大きな過失はありません」

「致命的な失敗もありません」


 私は、ほっとした。


 やはりそうだ。

 無難に生きた結果だ。


 だが、その下に、最後の一文が表示された。


「しかし、この人生には、評価すべき点もありませんでした」


 私は、言葉を理解するのに時間がかかった。


 評価すべき点が、ない。


 善行はあった。

 迷惑もかけなかった。

 責任も果たした。


 だが、評価すべき点はない。


 係員らしき存在が、淡々と説明した。


「あなたの人生は、減点が少ないだけでした」

「加点要素が存在しません」


 私は反論しようとした。


 努力した。

 我慢した。

 耐えた。


 だが、それらはすべて、失敗を避けるための行動だった。


 何かを選び、何かを賭け、何かを失う。

 そういう瞬間が、私の人生には一度もなかった。


「安全運転でしたね」

「ただし、目的地には向かっていません」


 係員はそう言って、次の画面を出した。


 公開レビュー欄。


「良くも悪くも、印象に残らない人生」

「誰の記憶にも残らない」

「再視聴する価値なし」


 私は、ようやく理解した。


 人生は、間違えなければ評価されるわけではない。


 無難であることは、価値ではない。


 星一つの人生は、失敗した人生だ。

 だが、星二つの人生は、挑戦しなかった人生だ。


 そして、それは、最も評価しづらい。


 係員が最後に言った。


「次回は、もう少し何かを選んでください」


 次回。


 その言葉が、最も残酷だった。


 私は、生き直すことを許されなかった。

 ただ、低評価の人生として保存されるだけだった。


 星二つ。


 それは、失敗よりも恥ずかしい点数だった。


 誰も怒らせず、

 誰も愛さず、

 何も壊さなかった人生。


 その結末は、

 誰にも必要とされなかった。


 人生は、採点される。


 だが、安全運転だけでは、

 決して高得点にはならない。


 それを知ったときには、

 もう、生きる時間は残っていなかった。

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