鎮守の森
百人一首にも歌われているけれど
そんな面影を感じることはもう無くて
けれどそんな昔に思いをはせながら
その川沿いの道を歩いて行く
氏神様のお社へと続く道だ
山から吹き付ける強い向かい風に
吹き飛ばされそうになる帽子を
手で押さえながら
川向こうに見えるこんもりとした森を目指す
人気の無い社殿の前で手を合わせた
つつがなく過ごせますようにと
ほんの少しだけ
私の祈りを聞き届けて貰えなかった愚痴を心の片隅にやって
帰路は鳥居をくぐって本殿に向かう参道ではなくて
境内を横へとそれるゆるやかな坂道
いつものルートなのにふと気が付いた
さっきまでの冷たい強風を忘れてしまうくらい
境内は静かで穏やかなことに
坂道の両脇にまっすぐ空へと伸びる木々の幹をたどり見上げた
はるか上空で木々の枝葉は激しく揺れている
やはり風はおさまってはいない
なのに自分のいる境内は
まるで透明のカプセルに包まれているように
どこまでも静かなのだ
ああ 守られている
だから鎮守の森なのだ
そして坂道を覆う木々は
互いに思いやり遠慮し合うように
頂上の枝葉は決して重なることなく
互いの輪郭に沿って微妙な隙間をあけ
雲に覆われた灰色の空を背景に不思議な模様を描いている
そうか鎮守の森なのだ




