1. 転生特典は、チートな頭脳で!
神様が言った。
「あなたには、まだ寿命が残っていました。不運な事故に見舞われましたが、善良で善行を行うあなたには、異世界に転生して、残りの人生を送ってもらおうと思います。
まもなく、異世界にいる14歳の女の子が亡くなります。その子の魂が外れた体に、あなたの魂を入れます。その子のそれまでの記憶と、転生特典として、その世界で崇められている聖女の能力を授けます。
なお、一度死んでしまった魂は、同じ世界に存在することは出来ませんので、転生を受け入れなければそのまま魂は成仏することになります。
異世界転生を受け入れますか?」
「……聖女ですか…… その世界で聖女とはどういった事をして崇められてるのですか?その世界は今の世界と比べてどこがどのように違いますか?その世界に別人の私がその女の子として生きる上で大変なことはないですか?その世界は今の世界と同じくらい暮らしやすいですか?」
「えぇ…っと、……聖女は治癒の能力で人々を治療出来るので崇められています。治癒魔法が使えるのは聖女と神官のみで、その魔法が使える人は極一部なので貴重な存在なのです。医療は発達していないので神殿が病院の役割となっていて、そこで聖女や神官が治療をしています。今の世界と違って魔法が使える世界なので不自由さはないと思います。あなたと似たような家族構成の似たような性格の女の子に転生するので、その子の人生を受け継いでもさほど問題はないと思いますが……
交通や通信事情は今ほど発達はしていないですが、魔法があるので暮らしやすさは変わらないかと…
どうしますか?転生しますか?」
「う〜ん…… そうですね…… 異世界転生については、小説や漫画をたくさん読んできたので、それなりにイメージ出来るので受け入れることは出来るんですが……
聖女はちょっと…… 人々を治癒出来るのは素晴らしいことだし、崇められるのもすごい事ではあるんですが……
私、医療系の進路は考えてなかったんですよね…… 将来は外交官になっていろんな国に行って、その国のことを学んで自国に還元させたいなって思ってたんですよ……
なので、他の特典でお願い出来ますか?異世界でもいろんな国を訪れたいですし、その世界で外交官となれるようなチート能力が出来ればいいです。
他国語が理解できる能力とか?普通にすごい頭脳とか?ですかね?」
15歳の里奈は、受験を控えて猛勉強中であった。
学校から塾に向かって歩いてる時に横の路地から急に男の子が走り出てきた。向かいから走行してきたトラックにぶつかりそうだったので、咄嗟に走って男の子を突き飛ばした…… そこで記憶は途切れている。
トラックに轢かれて死んでしまったのだろうと推察し、善行の見返りの転生ということなのだろうと理解した。
神様が言う。
「わかりました…
では転生特典は、異世界の言語を理解できる能力含めたチートな頭脳でいいですか?使える魔法は風属性でいいでしょうか?」
「うわぁ〜…… なんかすごい女の子になりそうですね……
せっかくいただく特典なので、チートな頭脳を活かして国をよくするよう頑張りますねっ!」
「では、幸せな人生を送ってくださいね」
ぼんやりとした人型の白い影である神様が穏やかに言って消えた。
そして脳内に侯爵令嬢であるリナリアの記憶がもたらさせる。里奈と同じく、4歳上の兄と父母の4人家族だった。
目を覚ますと、
「リナッ!! あぁ!神様!!ありがとうございます!!」と母が泣き崩れ、
「良かった…… もう目が覚めないのかと焦ったよ…神殿に連れて行くタイミングを逃したと自分を赦さないところだった…」
と父が大きく息を吐いて呟いた。
「僕もですよ。父上。
本当に良かった……」
兄が安堵の表情を浮かべた。
昨日の朝、庭を散歩中に足を滑らせてしこたま後頭部を打った。そのままずっと眠っていたようだ。
――リナリアは、実は脳出血を起こしていたのかな?本来ならそのまま亡くなっていたと。だけど、神様によってそれが覆されたのね?よし、状況は理解した――
「ご迷惑をおかけしました…… もう大丈夫ですわ」
と微笑んだ。頭も痛くない。
転生を受け入れてリナリアとして生きようと思ったのだが、安心してリナリアを見つめる家族の顔をみたら、日本の家族の顔がよぎった。
男の子を救えた行動には後悔はないが、突然事故死してしまった里奈の事を家族は受け止めているだろうか?相当悲しんでるはず……と思ったら涙が止まらなかった。
急に号泣しだしたリナリアに家族は焦った。
「どこか痛いの?! だ、大丈夫?リナ!?」
「やはり、今から神殿に連れて行こう!」
「そうですね!そうしましょう!」
とそれぞれ叫ぶ。
「だ、大丈夫ですわ。どこも痛くありません。目が覚めてよかったと私も安心しただけです。もう動けますし、本当に大丈夫です!」
と、必死で笑顔を作った。
体を起こしてみると、ようやく家族は安心して
「よかった…お食事はいただけそう?1日以上眠っていたから、もうすぐ夕食の時間なのだけれど。食欲はあるかしら?」
「はい。いただけそうですわ。ですが、その前に出来れば湯浴みがしたいです」
「そうね。少しゆっくりしてから、夕食としましょう。ミアお願いね」
侍女のミアがすかさず返事する。
「お任せください。お嬢様になるべく負担のないようお手伝いさせていただきます」
他のメイド達も頷いた。
里奈の家庭は、日本では富裕層に入る。なので、この世界の侯爵家とそう変わりないといえる。小中高一貫の私立に通っていたが、外交官を目指すため今の学校より上のランクの高校を受験をするために塾に通っていた。
目鼻立ちが整ってスタイルも良かった里奈は、塾ではすでに数人から告白されていた。
ハニーブラウンの髪と藍色の瞳を持つリナリアも、侯爵令嬢らしく容姿端麗だったが、里奈は鏡をみても、なんかコスプレしてるみたい…との感想だった。
里奈は東大を目指す程度の能力があったため、この世界で頭脳明晰となっても、あまり大きな問題はないように感じていた。
――リナリアは、もうすぐ貴族学院に通うのよね。3年間通った後、それぞれ希望の職に就くわけだけど…
貴族の令嬢は、王宮の官吏や侍女となったり、そのまま婚約者の家に入って花嫁修行したり……
で、リナリアは特に進路を決めてなかったと。
……うん。今までの家庭教師の評価も高いし、学院でチートな頭脳を発揮しても大丈夫ね。そして、首席で卒業して外交官となってしまいましょう。婚約者を作るのは働いてからでいいわっ!この世界では20代前半が適齢期だけど、24.25歳くらいならギリ行き遅れではないし、このスペックならなんとか相手も見つかるでしょうし。ひとまず勉強ね。チートで知識を詰め込むことにしましょう――
湯槽に浸かりながら、今後のことを考えたのだった。