✨️第005季 白い息が触れた朝✨️
私、綾音の心の入口で
隆也の心に追いつく速度
朝の姿は
日中とは違う
静けさをまとう
吐く息が白くなる時は
空気の密度だけじゃなく
心の輪郭も
少しだけ濃くする気がする
私の心の鼓動は
あの日からずっと激しく高鳴る
けれど
その速度は決して一定じゃない
時には
心が空回りするみたいに焦ってしまうし
時には
心落ち着かせ立ち止まりたい
日もある
隆也は
変わらず隣にいてくれて
同じ朝に乗り
同じ講義を受け
同じノートの余白に
二人の
“違い”
を少しずつ書き足していく
私が正解を急ぎすぎて
言葉を固くしてしまうとき
隆也は冗談まじりに
その硬さをほどいてくれる
逆に
彼の集中が切れそうな午後には
私の一言が小さなスイッチになることもあった
私はそれが嬉しい
自分ひとりで完璧になろうとしていた頃には
見えなかった景色
けれど
だからこそ怖さも生まれる
私と隆也の
二人だからこそ見える景色は
二人だからこそ生まれるズレも伴う
歩幅がわずかにずれたり
避けられない揺れが
きっとこれから何度も来る
それでも
私は信じる
私と隆也は
ゆっくりと
未来は未定のままで
絆の厚みになるのなら
私は一つずつ
丁寧に過ごしていきたい
私と隆也
白い息が触れた朝
その淡い白さは
冷たさの印ではなく
心が同じ温度に近づいていく
合図
その合図を確かめる
私と隆也
冷たい朝の海岸通りは
海は静か
波は穏やかにたち
遠くには船舶の駆動の共鳴
そして
私と隆也
息が白くほどける
その静けさが
今日一日のはじまり
「おはよう」
隆也の声は
寒さを割るほど
大きくないのに
私の胸の奥まで届く
白い息が
隆也の言葉のあとに
ふわりと浮かんで消え
私はそれを
指先で触れる
並んで歩く距離
肩の影
同じ改札を抜ける足音
私が測るより先に
私と隆也の身体のほうが
“ちょうどよさ”
を覚えていく
列車に乗り込むとき
彼はいつも
窓側の席を私に譲る
当たり前のようで
当たり前じゃない
その小さな優しさが
冬の空気のなかで
いっそう明るく見える
車窓に流れる街は
まだ眠っている
ビルの輪郭は青く
空は薄く
私の心は
その青さに似て
澄みすぎて
冷えそうになる
「ねえ、綾音」
隆也が
私のノートを覗き込み
「ここ、ちょっと違う視点でも書けるかも」
そう言って微笑む
指先が
紙の端を軽く押さえる
その瞬間
私の“正しさ”が
少しほどける
私は前に
誰かと勉強することが怖かった
理解できない自分を
見せるのが怖かった
誰かの考えに乱されるのが
怖かった
けれど今
乱されることは
壊れることじゃないと
少しずつ知っていく
隆也のおかげで
「ふたりの違い」
ノートの片隅に
書いたその言葉は
心の分岐のようで
同時に
合流の地点でもあり
違うからこそ
同じ方向へ進める
そんな逆説が
冬の朝に
淡く光る
けれど
違いはときどき
私を立ちすくませる
私が言葉を急いだとき
隆也の返事が少し遠いと
胸の中で
心が急ブレーキを踏む
沈黙が長くなる
鼓動の音だけが
規則正しく響く
でも
私は不安になる
この沈黙は
私と隆也
心が移りかけた合図なの?かと
でも
隆也は違う
「考えてるだけだよ」
そう言って
曖昧な空気を
さらりと抱き直してくれる
その不器用な優しさが
今の私に
いちばん必要な温度
白い息が触れる朝
私たちは
話しすぎず
黙りすぎず
互いの心の速度を
確かめ合う
心が追いつく速度を
無理に上げないまま
放課後
喫茶店の席
机の上に並ぶ
二つのカップ
二つのペン
二つの視点
私の言葉が
隆也の言葉に
少しだけ影を落とし
隆也の言葉が
私の言葉を
ほんの少し柔らかくする
「綾音、すごいよ」
そう言われるたび
私は
すこしだけ照れて
すこしだけ怖くなる
すごくない?
私を
見せる日が来たら
隆也はどうするだろう?
そんな未来予想を
私はまだ
知らない
でも
知らないままで
いいのかもしれない
未来“の行き先は
不安の雑音ではなく
未来に共に向かう静かな道
そこに
私と隆也が
脇見脇道せず
これから歩む
帰り道
夜の寒さが
指先にしみる
私が手袋を探していると
隆也が
「ほら、こっち」
隆也のジャケットのポケットに
私の手を
入れる
言葉より短い温度で
言葉より長い優しさ
私はその暖かさを
感じ取りながら
“絆”って
たぶん
こういうことの
積み重ねなんだと
派手な約束じゃなく
小さな選択の反復
私と隆也
一緒に
隣に座る
ドアから降りる
心のホームに立つ
それを
何度も何度も
選び直すこと
白い息が
私と隆也
二人の間に浮かぶ
その白は
冷たさじゃない
私と隆也の言葉が
まだ完全に形にならない
その途中の
やわらかなみちしるべ
私と隆也
ゆっくり進む
窓の外の景色は
急には変わらない
それでも
私のノートには
少しずつ
新しい章が
増えていく
隆也と並んで歩む
数だけ
身体の芯で受け取り始め
早さよりも
互いに隣にいること
正しさよりも
一緒に迷うこと
私にとって
隆也の存在は
理解の補助線ではなく
心の温度を測り直すための
新しい基準になっていく
けれど
私たちの
“違い”
もまた
いっそうはっきり見えてくる?
で小さなズレは
時に黙って通過できる?
時に立ち止まり
別々の道へ
その
“避けられない瞬間”
が、より現実的なかたちで訪れる?
✨️第006季 遠回りの帰り道✨️
私と隆也
二人の歩幅がわずかに乱れる日?
誤解の種
言いそびれた言葉
互いの優しさの方向違い
そんな些細な出来事の積み重ねが
私、綾音と隆也の道を
少し遠回りに変えてしまう?
けれど
遠回りだからこそ見える景色もある
と私は信じ
遠回りの道の先で
私と隆也
また戻れる?
「待ってる」
と言った約束は
づっとづっと残る?
私と隆也
白い息が触れ合った
朝の温度は
きっと消えない標に
その標を胸に
私は次へ向かいます




