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⭐️色褪せることのない絆⭐️ ✨️EMPATHY 大隅綾音と魚住隆也✨️  作者: 詩野忍


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62/63

✨第058季 明日を信じる理由✨

 挿絵(By みてみん)

 明日を

 信じる理由は

  「明日が良い日になる」

 と確信できる

 からではなく

 むしろ

 確信など

 持てない夜にこそ

 理由は必要になる

 時に人は

 痛みを抱える時

 未来を失う

 未来とは

 予定のことではない

  「私自身は

   もう大丈夫なのかもしれない」

 という内側の

 微かな見通し

 それが

 突然消える

 夜がある

 私は長い間

 明日を信じる理由を

  “整える”

 ことで作ろうとしてきた

 計画

 手順

 説明

 定義

 境界線を引けば

 心は転ばない

 と信じてきた

 けれど

 三女

 しのぶ

 が人生で初めて

  「信じていたもの」

 を失った夜

 私は知った

 明日を信じる理由は

 論理の外側にある

 それは

 泣ける場所

 息が乱れても

 責められない場所

 言葉が崩れても

 受け止めて

 もらえる場所

 そして

 そこへ引き寄せる力

 見えないのに

 確かに動く

 家族という名の引力

  「元気?」

 より先に届く沈黙

  「頑張れ」

 より先に立つ香り

  “ちゃんと”

 を崩して

 しまった文面を

 乱れではなく

 信頼として抱く手

 今季は

 その夜から始まる

 しのぶ

 が私の胸で

 泣き明かし

 挿絵(By みてみん)

 しずく

 しほか

 東京の二人が

 理由を聞かず

 しのぶ

 のために

 蒲郡へ

 戻ってきてくれて

 りゅうさんが

  「押さない」

  「握らない」

 ままさりげなく

 家の中心を

 支え直していく夜

 明日を信じる理由は

 たぶん

 明日そのものではなく

  **何かがあった時に

    理由など必要なく

    家族のために

    “戻ってこられる先”**

    そして

    柔らかく

    優しさに包まれ

    ほっこりできるから……

 私は静かに

 言葉にしていく……

 挿絵(By みてみん)

 ✨第058季 明日を信じる理由✨

  — Reasons to Trust Tomorrow / Ratio Spei Crastinae —

  (Cras non promittitur: tamen credimus. ― 明日は約束されない。それでも私たちは信じる。)


 その知らせは

 雪より静かだった 


   「家の事情で

    別の方と

    結婚することになった」


 三女

 しのぶが

 三十五歳になった

 ある季

 大学時代から

 ずっと一緒に

 歩いてきた人

 助け

 助けられ

 互いに

 信頼しあい

 疑う理由が

 一つもなかった人

 その人の声は

 丁寧で

 整っていて

 だからこそ

 心が置き去りに

 される音がした

 挿絵(By みてみん)

 しのぶは

 スマホの電源を切り

 玄関で靴を脱ぎ

 コートのまま

 リビングへ来た

 私が

  「おかえり!」

 と言う前に

 しのぶは

 私の胸に

 額を押し当て

 泣き声は

 出なかった

 けれど

 身体が

 小刻みに

 震えていた

 そして

 その震えが

 しばらくして

 涙という形に

 本当の心の内の

 姿に……


 私は

 何も聞かなかった

 理由も

 過程も

 正しさも

 尋ねれば

 しのぶは

  「説明」

 しようとするから

 説明を始めた瞬間から

 しのぶへの

 痛みは

  “事務”

 になってしまうから

 この子の痛みは

 今は

 事務にしてはいけない

 挿絵(By みてみん)

 りゅうさんは

 私達の背後で

 リビングの照明の

 明るさを

 一段だけ落とし

 落とした

 というより

 しのぶの

 壊れた心の中を

 柔らかく

 優しく

 さりげなく

 部屋の中心に

 招き入れた

 しのぶに

 ブランケットを

 そっとかけてあけげ

 テーブルの上の

 私達の

 マグカップを

 片付け

 代わりに

 温かい白湯を

 しのぶの

 前に

 置いた

 押さない

 握らない

 ただ

 壊れないよう

 さりげなく

 しのぶに

 寄り添う

 配置を整える

 それが

 あなたの流儀

 挿絵(By みてみん)

 しのぶは

 私の胸の中で

 泣き続けた

 夜が深くなっても

 泣き続け

 静けさの

 リビングの空間は

 しのぶの

 悲しみが

 響き続けた……

 私は

 しのぶの

 髪を撫でながら

 息を

 数えないように

 数え始めると

 私の

  “ちゃんと”

 が起き上がって

 しまうから

 今夜は

 ちゃんとにはしない

 今夜は

 しのぶと私

 深い帷の中に

 ただ

 一緒に沈む

 沈みながら

 沈みきらないように

 私は

 しのぶを

 ささえ

 隣で呼吸を保つ


   「……ごめんね……

    ……お母さん……」


 しのぶが

 やっと

 声を出してくれた

 私は首を振った


   「謝る言葉じゃないからね

    それ

    今の

    あなたの

    “誠実”

    の形だから」 


 しのぶは

 また涙を……

 泣きながら

 震えた声で


   「……明日が

    分からない……かも……」


 その言葉が

 私の胸に落ちた

  明日が分からない

 それは

 未来を

 疑いもなく

 信じ続けた

 しのぶの

 正直な心の内

 私は

 すぐに

  “励まし”

 を出さなかった

 励ます言葉は

 時々

 軽く

 安直に

 なりかねない

 しのぶの心の痛みを

 置き去りに

 してしまう

 きらいが……

 今

 私は

 しのぶの

 痛みの

 隣に座っていてあげたい


   「分からないね」


 ただ

 それだけを伝え

 すると

 しのぶは

 少し息を吸い

  “分からない”

 を否定されないと

 呼吸を取り戻せる


 その時

 スマホが震えた

 長女しずく

 だ

 挿絵(By みてみん)

 文章は短く

 整っていない


   「お母さん

    今から蒲郡に帰るからね

    理由は聞かなくていい

    ただ

    行く!」


 次女しほか

 も続いた

 挿絵(By みてみん)

   「私もすぐ行く!

    仕事? 

    あとでどうにかする

    いまは

    とにかく行くから」


 私は

 画面を見ながら

 胸の奥がほどけ

  “理由を聞かない”

 娘たちの

 しのぶ

 への配慮が

 こんなに

 救いになるとは……

 これが

 私達の絆の

 引力なのでしょう

 見えないけれど

 確かに

 娘たちを

 さりげなく

 優しく

 柔らかく

 自然に

 動かす力

 挿絵(By みてみん)

 未明に

 しずく

 しほか

 二人は

 ほとんど同時に

 帰って来てくれて

 コートのまま

 公務用のスーツのまま

 髪に東京の風を残したまま


 しずく

 しほか

 二人は

 しのぶ

 の顔を見て

 何も言わず

 幼き頃と

 同じ

 しのぶ

 の両脇に座り

 それだけで

 しのぶ

 の震えが

 少し弱くなる

 言葉がないのに

 常に

 三姉妹は

 固い絆に繋がっている


 しほか

 が手を伸ばして

 しのぶ

 の指先を包む

 しずく

 は抱き寄せて


   「泣いていいよ

    今日は

    泣く係が

    しのぶ

    なだけ」


 しのぶ

 は少しにこっ!

 でもでも

 感極まって

 また涙……

 私は思った

 私達の家族は

 いつの間にか

 泣く

 ことを心の中に

 閉じ込める事を

 しない

 になっていた 

 挿絵(By みてみん)

 一夜明けても

 しのぶ

 の目は真っ赤に

 まぶたははれて……

 けれど

 しのぶ

 の呼吸は

 少しづつ

 整ってきた

 整った

 というより

 乱れの中に

 平常心に

  “戻る場所”

 が生まれたのかな?


   「……私

    ずっとずっと

    信じてきたんだよ!」


 しのぶが言う


   「うん」


 私が答えると

 彼女は続け


   「信じてたから

    疑う練習をしていなかった」


 私は

 胸が痛んだ

 疑う

 練習なんて

 本当は

 誰もしたくないはず

 けれど

 人生は時々

  “素直に純粋に

   信じたままの人”

 を一番傷つける


 しずく

 が少し声を

 落として言った


   「ねぇ

    しのぶ

    あなたの

    信じた事自体は

    間違いじゃなかったわ」


 しほか

 も頷く


   「そうよ

    しのぶ

    信じた

    あなたが

    悪いんじゃない」

 挿絵(By みてみん)

 しのぶは

 また大粒の涙

 でも

 今度の涙は

 さっきより

 少し違った気がする

  “責める涙”

 ではなく

  “流していい涙”

 だったのかも

 母はそう気がする 


 りゅうさんが

 とびっきりの

 コーヒーを用意し

 厚切りの

 あんトースト

 ベーコンエッグも

 香りが

 五人揃ったリビング

 の輪郭を作り直す

 私は久方の

 その空間を見て思う

 明日を信じる理由は

 こういうものかもしれない

  「大切な

   誰かと一緒に

   楽しく

   きがねなく

   おしゃべりをして

   いつもの空間を囲む」

 という事実

 食後

 しのぶ

 がぽつりと言い


   「それでもまだ

    ……私

    まだ明日が怖い……」


 私は頷く


   「うん

    そうよね怖いよね」


 りゅうさんが

 そこで言葉を足す


   「でも

    怖いって言えたなら

    しのぶは

    すでに

    明日へのかけはしに

    進んでいると思う」


 しのぶ

 は涙を拭き

 ようように

 少しだけ微笑み

 その

 とびっきりの

 かわいい

 しのぶ 

 の微笑みは

 明日へ向かうために

 いつもの

 挑戦を忘れない

 しのぶ

 の顔に目に……

 いつもの負けん気に

  “戻った”

 という合図

 少しづつ

 しのぶ

 の呼吸が戻った合図

 挿絵(By みてみん)

 今宵も

 しのぶ

 は私の胸で眠り

 幼き子どもの

 頃のように

 私は

 しのぶ

 のその成長を

 抱えながら

 私自身の中で

 そっと呟く

 明日を信じる理由は

 明日が良い日になる

 からじゃなくて

 明日が

 怖い夜になってしまった時

 泣いて戻ってこられる

 場所があり

 支えてくれる家族があること

 そして

 しのぶ

 のために

 しずく

 しほか

 東京の二人が

 なにがなんでも

 すぐに

 蒲郡へ

 駆けつけたことは

  “距離は引き離すもの”

 ではないと

 教えてくれた

 距離があるから

 引力が生まれる

 引力があるから

 戻ってこられる

 戻ってこられるから

 娘たちはまた

 安心して

 外へ行ける

 中心は

 動く

 動きながら

 壊れない形へ

 よりよく

 更新される

 私は

 その更新の音を

 娘たちのおかげで

 確かに聴くことができました……

 挿絵(By みてみん)

 明日を信じる理由は

 かしこまった

 勇気ではなく

 自然に

 きがねなくの

 帰り道

 しのぶ

 が泣いた夜

 私は

  “正しい言葉”

 を捨て

 代わりに

 温度を置いて

 しずく

 と

 しほか

 は理由を聞かず

 戻ってきてくれた

 りゅうさんは

 答えを出さず

 静かに

 さりげなく

 支え続けた

 その総和が

 しのぶ

 の胸の奥に

 大丈夫!の空間を作ったみたい

  「怖い」

 と言える心の空間

  「分からない」

 と言っても

 心配のいらない空間

  「もう信じられない」

 と言っても

 それでも 

 私達

 姉たちがいる空間

 明日を信じる理由は

 説明できない

 けれど

 確かに

 娘たちや私達

 を奮い起こし

 一日を

 迎えさせてくれる

 そして

 人生は時々

  “明日を信じる理由”

 そのものを

 試すように

 静かに

 次の季節を

 連れてくる

 挿絵(By みてみん)

 次季

 ✨第059季 病院の待合室の静けさ✨

 三女

  しのぶ

 の結婚の日取りが決まり

 りゅうさん

 あなたは

 定年退職を

 一週間後に控えた朝

 いつものように

 任地の高校の門で

 生徒様に

 おはよう!

 声をかけていた

 その瞬間

 脇見運転のトラックが

 生徒様へ向かって突っ込み

 あなたは

 身を投げ出してかばい

 三人の生徒様は無傷だった

 けれど

 あなたは巻き込まれ

 意識不明の重体……

 病院の待合室には

 言葉より

 重い静けさがある

 祈りとも

 恐れとも

 つかない沈黙が

 家族の呼吸を試す

 私は

 あの夜

 しのぶ

 に渡した

  「帰り道」

 を今度は

 家族全員のために

 握り直さず

 押さえつけず

 ただ

  “戻れる形”

 に整えながら

 その静けさの中で

 明日を信じる理由を

 もう一度

 探すことになる……

 中心は

 動く

 動くからこそ

 壊れないように

 母として

 妻として……

 挿絵(By みてみん)

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