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⭐️色褪せることのない絆⭐️ ✨️EMPATHY 大隅綾音と魚住隆也✨️  作者: 詩野忍


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✨第057季 優しさの引力✨

 挿絵(By みてみん)

 離れて暮らすほど

 優しさは

  「引力」

 になるもの

 目には

 見えないのに

 確かに動き

 心を元の軌道へ

 戻してくれる

 それは

  「元気?」

 という問いより

 先に届く沈黙で

 スタンプひとつで

 返信の間の息づかいで

 あるいは

 電話口の

 少しだけ崩れた文面で

 娘たちが小さかった頃

 私は

  「中心」

 を守るために

 灯りを置き

 息を数え

 手順を整えた

 けれど今

 中心は固定されない

 むしろ

 動いて

 薄く広がって

 遠い東京へも

 蒲郡の夜へも

 静かに伸びている


 長女しずく

 次女しほか

 忙しさのなかで

  「ちゃんと」

 整えた文章ほど

 言えない疲れを

 隠してしまう


 三女しのぶ。

 近くにいる子ほど

 逆に

 礼儀をわきまえとして

 距離を測り

 けれど

 温度だけは

 必ず持ち帰る


 そして

 りゅうさん

 あなたはいつも

 押さない

 握らない

 ただ

 崩れないように

 さりげなく支えてくれる

 私が

 定義しそうな瞬間に

 境界線を

 溶かしてしまう

 今季は

 その

  「見えない力」

 を記す

 姉妹の誰かが

 弱音を口にした夜

 遠いはずの距離が

 一番近くなる

 理由を……

 挿絵(By みてみん)

 ✨第057季 優しさの引力✨

  — Gravity of Kindness / Gravitatis Humanitatis —

  (Benignitas non videtur: tamen trahit. ― 優しさは見えない、けれど確かに引き寄せる)


 初雪の

 夜が過ぎても

 雪の気配だけは

 しばらく残り

 窓の外の

 白さではなく

 家の中の呼吸の

 深さとして

 東京の

 長女しずく

 次女しほか

 二人は

 相変わらず忙しいそう

 忙しいという

 言葉は

 便利だけれど

 その中で

 一番気を付けてほしい

  「疲れ」

 が薄く隠れている気がして

 私はそれを

 母として

 雰囲気の香りで

 嗅ぎ分ける


 娘たちから

 私へ送付される

 文章が

  “ちゃんと”

 整っている日は

 たいてい

 心がほどけていない

 挿絵(By みてみん)

 その夜

 りゅうさんは

 少し遅い時間に

 珈琲を淹れてくれた

 眠気を

 追い払うためではなく

 家の中心を

  「戻れる形」

 に整えるための

 儀式みたいに

 香り立つと

 部屋の輪郭が

 柔らかくなる

 私は

 その柔らかさに

 絆の強さを垣間見る


 スマホが震え

 次女

 しほか

 珍しく

 冒頭が

 丁寧じゃなかった

 挿絵(By みてみん)

   「お母さん

    起きてる? 

    ………ごめん

    今

    泣きそう……」


 私は

 息を一つ整え

 一つ

 二つ

 三つ

 数える癖は

 今も祈りから

 抜け切れていない

 でも

 今の私は知っている

 数は

 心を責めないための

 おまじない


 りゅうさんは

 私のスマホの画面を

 覗かないまま

 カップをそっと置く

 押さない

 握らない

 ただ

  「ここにいる」

 を……


   「……しほかから……」


 私が言うと

 りゅうさんは頷くだけ

 頷きは

 答えではなく床。

 言葉が落ちても

 割れない床

 私は返信した

 長く書かない。

 長く書くと

 条件と理由が混ざり

 しほかの

  “今”

 を薄めてしまうから

 挿絵(By みてみん)

   「うん

    起きてるよ

    いまは泣いていい

    声が出なくてもいい

    母はここにいるよ」


 すぐに既読がついた

 それだけで

 私は少しだけ

 安心を……

  「届いた」

 という事実は

 引力だ


 しほか

 から電話が来たのは

 その数分後……

 しほかの

 電話口の向こうでは

 東京の

 ざわめきの音が

 部署内の

 打ち合わせや指示出しの声

 キーボードへの打鍵の音

 申請や付随の資料をたばねる……

 それらの

 複合音の中の

 スマホのスピーカーから

 しほかの

 呼吸だけが少し乱れて


   「……お母さん……

    あのね……」

   「うん」

   「今日

    上司に言われたの

    『数字は嘘をつかない』

    って」

   「…うん」

   「分かってる

    分かってるけど

    数字の中に

    人がいるでしょ?

    その人の暮らしが

    その人の切実な呼吸が……」

 挿絵(By みてみん)

 私は胸が熱くなる

 しほかは

 数字に追われる子だった

 でも

 数字の奥の温度を

 守る子でもある


   「私ね

    …最近

    結婚が決まり

    私の将来はどうあるべき?

    とか

    ずっとこの地にいるべき?

    考えること増えた」

   「うん」

   「……私がそれで……

    “帰り方”

    徐々にを忘れそうなの」


 帰り方

 その言葉は

 私の胸の奥を

 動かす

 家とは

 単なる場所ではなく

 娘たちが

 きがねなく

 帰ってこられる先のこと

 そして

 娘たちが帰る

 とは戻るだけじゃなく

 今までの想いを

 更新すること

 挿絵(By みてみん)

   「ねぇ

    しほか

    帰り方を

    ふと忘れそうな夜は

    “帰ろう”

    って思わなくていいの」

   「え?」

   「ただ

    息を一つだけ

    整えて

    『今しんどい』

    ってそれだけ言って!

    帰り道は

    母と父が見つけるから」


 しほかが

 短くくすくす

 涙と一緒に出ているような

 息遣い


   「それ……

    お母さん

    ずるい」

   「ずるいでいいの

    優しさは

    ずるいくらいで

    ちょうどいい」


 私は

 そう言いながら

 自身自でも驚き

 昔の私なら

  “ちょうどいい”

 を条文にしたがった

 でも今は

 条文より温度。

 温度は

 相手の呼吸に

 合わせて変わる

 それが

 生きた中心の形

 電話を切る前

 しほかが

 小さく言う


   「……お父さんにも

    言っといて

    珈琲の香り

    恋しいって……」

 挿絵(By みてみん)

 私は思わずうふ!

 香りは

 距離を越え

 家の中心は

 目に見えなくても

 引力で

 ひきつけられ

 互いに届く

 通話が終わると

 すぐに

 通知が来た


 今度は

 長女

 しずく

 

 文章が

 崩れていた

 崩れているのに

 私にはそこが美しい

  “ちゃんと”

 がほどけて

 素直が顔を出している


   「お母さん

    ごめん

    今日は

    “ちゃんと”

    書けない

    私

    業務上のミスを

    したわけじゃないのに

    心がずっと緊張してるの

    官舎に帰っても

    スーツから普段着に着替えても

    息が戻らなくて」

 挿絵(By みてみん)

 私は

 その文面の行間に

 長女の眉の

 寄り方を見ていた記憶

 泣く前に

 理由を整える子

 だからこそ

 整えられない夜は

 いちばん苦しくつらいはず


 私は返信する


   「整えなくていい

    いまは

    “戻らない”

    しずくを責めないで

    息が戻らない夜は

    しずくの

    ゆっくりと最適な

    息を探してる夜にしたら……

    探してるのは

    弱さじゃなくて

    しずくの誠実さよ!」 


 そして

 短く付け足し


   「そして明日

    朝起きたら

    顔を洗って

    窓をぱーっと開けてみて

    蒲郡の母の空気は

    届けられないけれど

    しずくなりの呼吸の場所は

    きっと作れているはずだから……」 

 挿絵(By みてみん)

 送信したあと

 私はりゅうさんを見た

 あなたは

 何も聞かずに

 少しだけ肩を近づける

 押さない

 握らない。

 ただ

 支えの半径を広げる


   「二人とも

    弱音を

    言ってくれたね」 


 りゅうさんが言う


   「本当ね

    ……言ってくれた!」


 私が答えると

 りゅうさんは

 珈琲のカップを

 持ち上げ

 ほんの少しだけ

 息を吐く

 その息が

 私の胸の中の

  “ちゃんと”

 をほどいていく

 そこへ


 三女

 しのぶ

 からも連絡が来た

 挿絵(By みてみん)

 近くにいる子の

 メッセージは

 いつも簡潔

 簡潔なのに

 言葉の内容が濃い! 


   「お母さん

    今夜のお姉ちゃん

    東京の二人

    疲れてそう?

    私

    仕事帰りに

    アピタによるから

    お母さんの好きな

    お惣菜持って帰るね

    それと

    ……二人に

    “蒲郡の潮風”

    送れないけど

    三人の写真を送ってあげようよ」


 私は

 胸がいっぱいになる

 中心は

 親が守るものだと

 思っていた頃の私は

 もう古く

 成長してくれた

 娘たちが

 自然に次の中心を

 作ってくれている

 それが家族の継承


   「しのぶ

    ありがとね

    あなたが側にいてくれて

    私は……

    嬉しく胸がきゅっとする……」


 送信すると

 すぐ返ってきた


   「きゅっとしていいよ

    えへへ!

    お父さんみたいに言ってみた」


 私は可笑しくて

 声を出してうふふ!

 優しさは

 真似できる

 そして

 真似されるほど

 家族の引力は

 強くなる

 

 今宵も

 窓の外では

 雪がまた少し舞い

 白さは

 冷たさじゃなく

 知らせの残り香……

 しずく

 しほか

 東京の二人が

 それぞれの場所で

 ひとつ息を整え

 がんばっている 

 挿絵(By みてみん)

 蒲郡でがんばってくれている

 しのぶが

 姉の帰り道を

 柔らかくしてくれている

 そして

 私とりゅうさんが

 戻ってこれる先を

 季節に合わせて

 その仕様に整える

 離れて暮らすほどに

 優しさは引力になる

 見えないけれど

 確かに引き寄せている

 もし

 娘たちが

  “帰り方が分からなくなる”

 夜になるのならば

 私は静かに思う

 私達が娘たちのもとへ

 すぐにでも駆けつけてあげる

 その場所こそが中心

 いつもここにあると

 同じ場所ではなく

 私達と娘たちとの

 同じ温度として……

 挿絵(By みてみん)

 挿絵(By みてみん)

 優しさは

 説明より先に届く。

  「元気?」

 という問いより先に

 沈黙が届く

  「頑張れ」

 という言葉より先に

 香りが立つ

 その小さな先回りが

 離れてくらしている

 娘たちの胸の奥を

 ふっと温める

 そして

 今宵

 東京の

 娘たち二人は

 初めて

  “ちゃんと”

 を崩してくれた

 崩れた文面は

 乱れではなく

 信頼の形だった

  「ここへ帰っていい」

 と言わなくても

 帰り道が

 残っていることを

 知っているから

 弱音は出せる

 挿絵(By みてみん)

 しのぶ

 は蒲郡の風を

 髪に乗せて

 幼き日々より

 相変わらず

 帰ってきてくれる

 そして

 帰ってきてくれた温度を

 姉たちに

 元気を

 勇気を

 届け始めている

 挿絵(By みてみん)

 中心は

 動く

 動くからこそ

 支え直され

 更新され

 壊れない形に

 あり続ける

 なっていく

 初雪の夜に

 届いた知らせは

 冷たさではなく

 未来の便り

 遠距離で

 結婚かも

 これからの人生かも

 でも

 どんな形でも

 帰れる先は消えない

 香り

 呼吸

 手のぬくもり

 目に見えないものが

 私達の家族をつないでいる

 次季

 ✨第058季 明日を信じる理由✨

 忙しさの中で

 「明日なんて考えられない」

 と言いそうになる夜

 それでも

 一歩を踏み出せるのは

 理由があるからではなく

 誰かの

  “引力”

 が働くから

 私、綾音は

 りゅうさんと共に

 明日を信じる

 その静かな根拠を

 家族の言葉で

 探していく……

 挿絵(By みてみん)

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