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⭐️色褪せることのない絆⭐️ ✨️EMPATHY 大隅綾音と魚住隆也✨️  作者: 詩野忍


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60/63

✨第056季 初雪の知らせ✨

 挿絵(By みてみん)

 初雪の前には

 いつも

  「音のない予兆」

 がある

 窓の外が

 静かになる

 わけでもないのに

 家の中の

 呼吸だけが

 少し深くなる

 珈琲の香りが

 同じ濃さのまま

 輪郭を持ち

 灯りが

 柔らかくなる

 私はその変化に

 先に気づく

 形のないものが

 先に帰ってくるから


 長女と次女は

 大学を卒業した

 と当時に

 国家公務員の

 専門職として

 東京へ赴任し

 忙しい毎日を

 過ごしている

 

 国税専門官としての

 長女は

 季節よりも

 締切に追われ


 財務専門官としての

 次女は

 文字よりも数字に追われて

 短い連絡の文面は

 いつも整っていて

 丁寧で

 間違いがない

 でも

 私は知っている

  “ちゃんと”

 している文章ほど

 その奥に

 言えない疲れが

 隠れていることを

 母として


 三女は

 蒲郡に残り

 蒲郡市職員として

 頑張ってくれて

 地元の風の香りを

 髪に乗せて

 幼き日々から

 変わらず

 帰ってきてくれる

 多忙の中

  「今日もやりきったよ」

 の香りをのせて

 家の中心は

 また少し

 形を変えて

 東京の二人の不在が

 中心を空洞にする

 のではなく

 蒲郡に残る

 一人の温度が

 中心を

  “支え直す”

 ようになっている


 そして

 りゅうさん

 あなたは変わらず

 押さない

 握らない

 ただ

 中心が

 壊れないように

 隣で

 さりげなく

 支えてくれている

 私が

 仕事の癖で

  「定義」

 しそうになる瞬間

 あなたは微笑むだけで

 境界線を溶かしてしまう


 初雪の知らせは

 たぶん

 その溶ける

 瞬間に届く

 私達が

 息を

 整えながらに……

 挿絵(By みてみん)

 ✨第056季 初雪のしらせ✨

 — First Snow’s Letter / Nuntius Nivis Primae —

 (Nix prima non frigus fert: nuntium fert. ― 初雪は冷たさではなく、知らせを運ぶ)


 その夜

 リビングの灯りは

 いつもより

 少し低くく

 明るさを

 落とした

 わけじゃなく

 冬の入口の

 空気が

 光をやわらかく

 包み込んだだけ

 私は

 ソファに腰を下ろし

 膝の上に

 アルバムを置く

 昔の中心の

 軌跡……

 ……重い……

 でも重いのは

 紙じゃなく

 戻ってきた記憶の

 温度のほう

 テーブルには

 マグカップが二つ

 挿絵(By みてみん)

 昔は

 五つだったのに

 その数が……

 寂しさではなく

 時間の

 正しさに見えた

 五つから二つは

 いつでも

 きがねなく

 戻ってきて

 くれるための

 一時的なAction


 りゅうさんが

 キッチンで

 湯気を

 立てている

 あなたの

 淹れてくれる

 珈琲は

 いつも

 同じ香りなのに

 季節で味が

 変わるような

 コーヒー豆の

 せいじゃなく

 家の空気が

 受け取る側の

 形を変えるからかな?


   「寒くなってきたね」


 私は

 窓のほうを見て

 りゅうさんは

 カップを

 運びながら頷く

 挿絵(By みてみん)

   「うん

    ……あや様

    今夜は

    “来る”

    気がする」


  “来る”

 その言い方が

 あなたらしい

 降る

 じゃなくて

 来る

 雪を

 ただの

 現象じゃなく

 便りの

 配達人として

 扱っている

 私は

 その言葉が好き


 スマホが

  ぽん

 と震えた

 画面には短い通知


 三女

 しのぶからだ

 挿絵(By みてみん)

 (蒲郡に残る

  と決めた子は

  いまも近くにいるのに

  あの子は

  “近い距離の礼儀”

  として

  まず連絡をくれる)


 「お母さん

  今

  外の香りが変わったよ

  初雪来るかも」


 私は

 くすっ!

 と……

 香りの言語を

 最初に覚えたのは

 しのぶかもしれない

 触れる前に

 気づく子

 言う前に

 手が伸びる子


 その時

 また震えた


 今度は

 長女

 しずく

 挿絵(By みてみん)

  「お母さんへ

   今日も遅い

   国税の繁忙

   ほんとに

   “季節がない”

   でも

   なぜか今日は

   蒲郡の空気を

   思い出した」


 私は

 画面を見ながら

 胸の奥で

 息を数えた

 一つ

 二つ

 三つ

 数える癖は

 まだ残っている

 けれど

 今の私は知っている

 数は祈りの形で

 同時に

 帰り道の道標


 次女

 しほか

 からも来た

 挿絵(By みてみん)

 短い

 きちんと


  「財務の締切

   やばい!

   でも

   お父さんの珈琲の

   香りが急に

   恋しくなったよ

   変だね

   香りって

   距離を越える」


 私は

 スマホを伏せ

 りゅうさんを見た

 あなたは

 気づいたのか

 少しだけ眉を上げ


   「二人から?」

   「うん

    ……香りが恋しいって」


 りゅうさんは

 照れたように微笑む


   「しほかに

    に届くといいね

    この香り」


 その言葉の直後

 外がすうっと

 静かになる

 降雪の予感

 車の音はあるのに

 遠くの犬の声もあるのに

 でも

 世界の静寂が

 喧騒を掻き消し

 しんしんと

 雪の

 音と音の間に広がる

 私は立ち上がり

 カーテンを

 少しだけ

 開けてみた

 街灯の光が

 薄い霧のようなものを

 照らす

 それが雪かな?

 ただ

 空気の粒子が

 いつもより

 丁寧に落ちてくる

 挿絵(By みてみん)

  「来たかな?」


 私が言うより先に

 りゅうさんが言う

 そして

 ほんの一舞

 次にも

 一舞

 白い

 天からの贈り物が

 空から

 次々舞い始め

 静けさの中に

 しんしんと 

 音はないのに

 私胸の奥にも

  「今だよ」

 とささやく

 これが

 ひさかたの

 蒲郡の初雪の知らせ


 その瞬間

 スマホがまた震え

 今度は

 長女と次女の

 グループチャットではなく


 長女

 しずくからの

 個別メッセージ

 短く

 崩れた文

  “ちゃんと”

 が少しほどけて

 挿絵(By みてみん)

   「お母さんへ

    ねえ

    変な話していい?

    私

    東京で結婚するかもしれない

    まだ確定じゃないけれども

    でも

    ……言いたくなったの

    今夜……」


 私は

 すぐに返せなかった

 嬉しい

 心配

 驚き

 寂しさ

 全部が混ざって

 言葉が

 一つに決まらない

 それでも

 呼吸だけは

 がんばって

 整えてみた

 一つ

 二つ

 三つ

 りゅうさんが

 何も言わずに

 隣に来た

 押さない

 握らない

 でも

 私の肩の近くに

 あなたの存在の

 温度が来る

 それだけで

 私は

 言葉を

 選べるようになる


  「…便り?」


 あなたが

 小さく聞いた

 私は頷いて

 画面を見せ

 りゅうさんは

 読み終えたあと

 少しだけ

 目を伏せた

 その伏せ方は

 感情を隠す

 ためじゃなく

 丁寧に

 扱うための所作

 それから

 あなたは言う


   「……雪って

    こういう時に降るんだね」


 私は息をのむ

  “こういう時”

 それは

 人生の節目のこと

 初雪みたいに

 静かで

 触れた指先が

 先に気づく


 私は

 しずくへ

 返信した

 長く書かず

 長く書くと

 条件や理由が

 混ざってしまうから

 今宵は

 温度だけを渡し

 挿絵(By みてみん)

   「しずくへ

    教えてくれてありがとね

    決まっても

    あなたの

    “帰れる先”

    はここにあるから

    体を冷やさないでよ

    雪が降ってるよ

    蒲郡も」


 送信して

 私は窓を見た

 雪は少しずつ

 世界を白くしている

 銀世界という名の

 静寂

 未来を書き直す空間


 しのぶからも

 すぐに来た

 挿絵(By みてみん)

   「お母さん

    外

    ほんとに雪

    私

    明日も仕事だよ

    でも

    なにかしら

    ……今日は

    “中心”

    が動いた感じがするわ」


 私は思わず

 微笑む

 その表現が

 私達の物語の言葉

 中心は

 動く

 動くから

 壊れない

 りゅうさんが

  珈琲を

 淹れ直してくれて

 カップを

 私の前に置く

 その手つきが

 いつもの

 儀式みたいで

 私は安心する


   「ねえ

    りゅうさん」


 私は呼び掛け


   「二人が

    東京で

    結婚するかも

    しれないって

    ……私

    嬉しいのに

    胸がきゅっとする」

  「きゅっとしていいよ

   嬉しいは

   伸びる

   寂しいは

   縮む

   同じ心の中で

   同時に起きる」


 私は

 その言葉に救われた

  “ちゃんと”

 しようとすると

 感情を一つに

 まとめてしまうから

 でも家族は

 混ざったままでいい

 混ざったまま温かい

 が一番強い


 私は

 またスマホを見た

 

 次女

 しほかから

 も来ていた

 挿絵(By みてみん)

 短いけれど

 最後だけ

 いつもの

 整い方じゃない


   「お母さんへ

    私も

    ……結婚とか

    考えること増えた

    でも怖いのは

    結婚して

    離れてしまう事じゃなくて

    “帰り方が分からなくなる”

    ことなの」


 私は

 すぐに返した

 今度は迷わない

 中心の言葉は

 いつも同じでいい


   「しほかへ

    帰り方が

    分からなくなったら

    心配しないで

    お父さんの

    コーヒーの香りに

    いつでも

    戻っておいで

    ほかにも

    私の愛用の石鹸

    しのぶの香水

    蒲郡の潮風

    あなたの中には  

    ずっと道はあるのよ」


 送信すると

 りゅうさんが


   「…あや様

    すごく

    “家の人”

    になったいるね」


 私は照れて

 くすっ!

 挿絵(By みてみん)

   「以前は

    “法務の人”

    だったかしら?」

   「うん

    今も法務の人だけど

    今のは

    ……あったかい」

 

 窓の外の雪は

 少し強くなっていた

 でも

 寒さが怖くない

 なぜなら

 初雪は知らせで

 知らせは

  “続いていく”

 の合図なのだから

 しずく

 しほか

 二人は

 遠くへ行っても

 中心は消えない

 三女の

 しのぶが

 蒲郡で

 がんばって

 いてくれていることで

 中心は

 私達のいる蒲郡

 今もここにも

 生まれている

 そして私達は

 しずく

 しほか

 しのぶ

 が気軽に

 戻ってこれるように

 仕様に整えるように

 中心は

 動く

 初雪と一緒に……

 挿絵(By みてみん)

 初雪は

 冷たさではなく

 手紙を

 運んでくれた

 紙に書かれた

 文字ではなく

 窓の外の白さと

 一緒に届く

 私達の大切な

 娘たちの

 短い知らせ


 多忙にしている

 しずく

 しほか

 東京の二人

 忙しいからこそ

 丁寧な文面の奥で

 疲れがこぼれる

 母としての気付き

 だからこそ

 そのこぼれた分を

 私は

 拾い上げてあげたい

 拾い上げてあげるのに

 必要なのは

 説明ではなく温度

  “帰ってきていいよ”

 という

 言葉より先の肯定


 蒲郡に残った

 三女

 しのぶは

 幼き日々からの

 変わらない

 素敵な笑顔を

 欠かさず

 家へ持ち帰ってくれる

 あの子の頑張りが

 家の中心を

 支え直してくれている

 中心は

 私達

 親だけのもの

 ではなく

 育った子ども達が

 次の中心を作る

 それが

 家族の継承……

 そして

 りゅうさん

 あなたは

 今日も

 押さない

 握らない

 ただ隣で

 ささやかに

 しなやかに

 支える

 その仕草が

 私の

  “ちゃんと”

 をほどき

 ほどけた私が

 娘たちの

 帰り道を

 柔らかく

 してあげられる


 初雪は

 静か

 静かなまま

 未来が動くことを

 知らせてくれる

 しずく

 しほか

 東京で

 結婚するかもしれない……

 その言葉が

 雪のように

 胸に落ち

 溶けて

 温度だけが残す

 私はその温度を

 抱いて

 次の季節へ進む

 次季予告

 ✨第057季 優しさの引力✨

 離れて暮らすほど

 優しさは

  「引力」

 になる

 見えないのに

 確かに引き寄せる

 たとえば

 電話の一言

 短いスタンプ

  「元気?」

 より先に届く沈黙

 東京の二人が

 初めて

 弱音を言う夜……


 蒲郡の

 三女

 しのぶが

 誰かを

 支える側に

 回る日々

 そして

 私とりゅうさんが

  “戻ってこられる先”

 を守りながら

 優しさが人を救う

 その引力を

 もう一度

 家族の言葉で

 解き明かしていけたら……

 挿絵(By みてみん)

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