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⭐️色褪せることのない絆⭐️ ✨️EMPATHY 大隅綾音と魚住隆也✨️  作者: 詩野忍


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58/60

✨第054季 家族写真の香り✨

 挿絵(By みてみん)

 写真は

 光より先に香る

 私達は三人の

 成長記録の

 写真を撮ってきた

 赤ちゃんのころの

 眠りの重さ

 幼稚園のころの

 いっぱい遊んだ靴の土の香り

 小学校のころの

 いっぱいのお友達とはしゃいだ香り

 中等のころの

 勉学と合気道の汗と

 背がぐんぐん伸び

 高等のころの

 厳しい受験にもまれた

 制服の襟に残る風

 大学のころの

 娘達のお気に入りの

 香水の微かな主張と

 独り立ちの気配


 その全部が

 アルバムの中に

 ぎっしり並んでいる

 ページを

 めくるだけで

 音が戻ってくる

 私は

 いつもまず

 香りを思い出す

 シャッターは

 光を留めるけれど

 私の胸に

 戻ってきてくれるのは

 光より先に

 香り……


 ソファに座る

 私の膝の上に

 分厚いアルバムがある

 向かいには

 二十歳になった三人が

 同じように

 並んで座っていてくれる


 しずく

 しほか

 しのぶ

  挿絵(By みてみん)

 もう

  「三つ子ちゃん」

 ではなく

 三人の大人

 それでも

 しずく……

 ページの端を

 指ではさむ仕草や

 しほか……

 微笑む瞬間の

 眉の寄り方に

 そして

 しのぶ……

 私の存在を

 必死に探し

 手に取れば落ち着いて

 穏やかな優しい

 お顔をしてくる

 

 私は

 ふいに

 あの頃の

 寝息の数を

 思い出してしまう

 安心するために

 一つ

 二つ

 三つ

 私の隣で

 りゅうさんが

 黙ってアルバムの

 角を支えてくれる

 いつもそう

 押さない

 握らない

 ただ

 隣で

  「支えてくれる」

 

 私達は

 今宵

 写真を眺めながら

 家族の時間を

 改めて

 香る

 思い出は

 過ぎ去るものではなく

 ページの奥で

 今も香っている

 そして

 香りは

 いつだって

 家の中心へ

 帰ってきてくれる……

 挿絵(By みてみん)

 ✨第054季 家族写真の香り✨

  — Scent of a Family Portrait / Aroma Imaginis Familialis —

  (Memoria non imago est: odor est. ― 記憶は像ではなく、香りである)


 二十歳の三人と

 私とりゅうさんの

  「ページをめくる会話」


   「これ

    覚えてる?」


 しほかが

 ページの左上を指差した……


 そこには

 幼稚園の発表会の写真

 三人は同じ衣装で

 でも表情は三人三様


 しずくは

 口をきゅっと結んで

 目だけが真剣


 しほかは

 口が今にも

 歌い出しそう


 しのぶは

 少しだけ私達の横を見て

 手を探すような目

 私はくすっ!と


   「覚えてるっていうより

    ……香りで戻ってくる

    あなた達の学校での……

    そして

    あなた達の髪の香り」


 しずくが

 少し驚いた顔を……


   「お母さん

    香りで覚えてるの

    ほんとだね」


 私はうなずく


   「私の仕事上の法務

    の癖なの

    形にできるものを

    無意識に探してしまう

    でもね

    私達の家族の記憶って

    書面にできないから

    私は香りに逃げる

    逃げるんじゃなくて

    帰るのかな……」


 りゅうさんが

 小さく微笑む


   「帰る

    だね……」


 その一言が

 静かに

 私の背中を温める

 挿絵(By みてみん)

 アルバムは

 まだまだ続く

 小学校の入学式のページ

 三人は

 ランドセルを

 背負っている

 写真の中の

 私は

 髪を少しきれいに巻いて

 りゅうさんは

 シャツスーツの襟を整え

 どちらも

  「ちゃんと」

 写ろうとしている


 しのぶが言う


   「これ

    私

    入学式の日の時

    靴ずれして

    泣いていたの覚えてる」


 私はその瞬間

 胸がきゅっとなる


   「覚えてる

    あなた

    泣く前に足を動かしてた

    言葉より先に

    手と足で

     “困ってる”

    って言う子だったのよ」


 しのぶはうふふ!

 照れて

 視線を落とし


   「……今も

    そうかも……」

 挿絵(By みてみん)

 しほかが

 次のページを

 めくってくれる

 それは

 中学校の運動会

 砂ぼこりの写真

 しずくは

 リレーで

 ダントツの全力疾走

 しほかは

 リレーのアンカーで

 トップでデッドヒート

 しのぶは

 騎馬戦の大将で

 競り合って

 走り回っている


   「ねえ

    お父さん……」


 しほかが

 りゅうさんを見た


   「この時

    私が転びそうになった瞬間じゃない?

    カメラ落としそうになったよね?」


 りゅうさんは

 困ったように


   「……落としそうになった

    というより

    落としちゃったなあ……」


 三人が同時にくすくす!

 しずくが言う


   「え?

    落としたの!?

    だからブレてるの?」


 りゅうさんは

 少しだけ肩をすくめ


   「君たちが

    怪我しないかの方が

    大事だったからさ……」

 挿絵(By みてみん)

 私は

 言葉が……

 相変わらず

 この人はそういう人だ

 記録より先に

 命を守る

 証拠より先に

 心を支える

 私は

 そっと言う


   「でも

    私はそのブレが好きだったよ

    家族って

    いつも完全に写らないから」


 しずくが

 静かにうなずいた


   「……分かるわ

    完璧な写真って

    なんか嘘っぽい

    ブレてる方が

    本当っぽい」


 私は心の中で

 そっと拍手した

 この子は

 いつも言葉を

 整えてから声にする

 泣く前に眉が寄った

 あの慎重さが

 今は

  「考える力」

 になっている

 挿絵(By みてみん)

 ページは高校へ

 制服

 文化祭

 放課後の廊下

 夏の夕方

 写真の中の三人は

 もう私の肩の高さを

 越え始めている


   「この頃

    私達

    あまり

    お母さんと

    おしゃべりを

    していなかったね」


 しのぶが言う

 指がページの端を

 なぞりながら

 私は

 息を一つ整える

 

   「そうね

    部活に

    1年から特進コースで

    大変だったもんね

    だからね

    写真のあの頃の

    香りが濃くなるのよね

    おしゃべりが

    出来ない日が増えるほど

    残された香りが

    必要になったわ」


 しほかが

 少しだけしんみりと


    「お母さん

     寂しかった?」


 私は正直に


   「もちろん寂しかったわよ

    でも

    それは

    悲しい寂しさじゃないく

    いずれ

    あなたたちが

    遠くへ行くのかもね

    っていう

    嬉しさと混ざった

    寂しさかな」


 しずくが言った


    「お母さん

     ……それ

     法務っぽい表現」


 私は

 あら?


   「そう

    私はすぐ

   定義したがっちゃう

    境界を整えたがちゃう 

    だけどね

    あなた達がいることで

    境界が溶け始め

    あなた達が成長して

    空間が広がるほど

    私の中の

     “家族”

    は逆に増えるの」


 りゅうさんが

 アルバムの背表紙を

 そっと押さえ


   「それ

    いい言い方!」

 挿絵(By みてみん)

 私は

 その手を見る

 押さえるのは

 アルバム

 私の心ではない

 でも

 心が落ちないように

 結果的に支えられている


 ページは大学へ

 成人式の写真

 三人の振袖

 と

 私は和装

 あなたはスーツ

 そして

 その三人をはさんで

 照れている

 私とりゅうさん


 しほかが

 目を細め


   「この日

    三人で夜遅くまで

    喋ってて

    結局寝られなかったよね」


 私は思わず言う


   「……私も寝られなかったわよ」


 三人が

 同時にこちらを見る

 

   「え?

    なぜ?」


 しのぶが聞く

 私は

 言葉を探し

 あの頃と

 同じように

 慎重に


   「あなた達が

    生まれる前の夜を

    思い出してたの

    眠れなかった夜

    お腹に手を当てて

    どうか

    無事に!

    って祈って

    息を数えて……」


 しずくの眉が

 ほんの少し寄る


   「あの……

    一つ

    二つ

    三つ

    って数えてたこと?」


 私はうなずく


   「そう

    あの数はね

    確かでやさしい

    でも

    数だけでは

    抱きしめきれない

    ものがあるって

    あなた達が教えてくれたの」


 しほかが

 少しだけ声を落とした


   「……生まれてきてよかった?」


 私は迷わず言う


   「生まれてきてくれて

    ありがとう

    あなたたちがいたから

    私は

     “ちゃんと”

    から少し自由になれた」


 しのぶがにこり!

 手を伸ばして

 私の指に触れた

 触れることが安心の言語

 それは今も変わらない

 その瞬間

 りゅうさんが小さく言う


   「……ね

    家族になったね」

 挿絵(By みてみん)

 私は、首を振る

 昔と同じように


   「“ちゃんと”

     じゃなくて……

    “なった”

     でいいの」


 三人が

 声を揃えて


   「それ

    うちの名言!」


 私は微笑み

 目が少し潤む

 アルバムの中の香りが

 今の部屋へ

 溶け出してくる

 ミルクはもう無い

 でも

 代わりにある

 りゅうさんが淹れる珈琲と

 私と三人で選んだ

 それぞれの香水と

 洗い立てのシャツと

 変わらない三つの笑顔

 それでも

 中心に残るのは

 あの夜の

 祈りの香り香り

 眠れぬ夜に

 私は祈った

 どうか母子ともに健康に

 と

 どうか

 この子たちが

 息をする世界が

 優しいままで

 ありますように

 どうか

 私が

  “ちゃんと”

 に沈みそうになったら

 いつ

 いかなる時も

 りゅうさんが

 隣にいてくれていますように

 そして今

 二十歳の三人と

 私とりゅうさんは

 写真の前で

 同じように息をする

 一つ

 二つ

 三つ

 五つ

 数は確かでやさしい

 でも

 今日の私は

 知っている

 数の外側にあるもの――

 笑い方の癖

 眉の寄り方

 指の探し方

 三人のそれぞれの

 その全部が

 家族の香りに

 なるのだと……

 挿絵(By みてみん)

 家の中心は

 形ではなく

 戻ってくる先

 アルバムを閉じると

 部屋が少し

 静かになった

 かな?

 けれど

 その静けさは

 寂しさではなく

 香りが

 落ち着いた後の

 暖かな余韻

 三人は

 二十歳になっても

 私達には

 時々

 子どもに

 もどってくれて

 微笑んでくれる

 そして

 でも

 すぐに

 大人の顔に

 もどってしまう

 その変化を

 はっ!

 としながらも

 私は嬉しく

 見守りながら

 ふと思う

  家の中心は?

  テーブル?

  ソファ?

  写真立て?

  それとも

  今日のアルバム?

 きっと違う

 中心とは

 物の場所ではなく

 五人の

 心が一緒に

 戻ってくる先

 あなた達が

 外の世界へ

 旅立っても

 それぞれの夢へ

 走っても

 迷った夜に

 泣きたくなった夜に

 いつでも

 ふっと

 戻って来られる

 ところ

 それを守るのが

 私とりゅうさんの

 役目なのだと思う

 挿絵(By みてみん)

 りゅうさんが

 空になったマグカップを

 片付けながら言った


   「次の季節書く?」


 私はうなずく


   「うん

    次はね……家の中心の話」


 三人が興味深そうに

 身を乗り出す

 私は言う


   「ほら!

    私がピアノを弾きながら

    あなた達と一緒に

    歌を歌った事

    また一緒に

    セッションしながら

    歌おうよ!」


 ページは終わっても

 香りは終わらず

 写真は止まっても

 呼吸は続き

 願いは続き

 だから私は

 次の季節へ進む

 次季予告

✨第055季 二人の家の中心には✨

 家族が増え

 子どもが育ち

 そして巣立っていく

 その途中で

 家の中心は

 何度も変わり

 ベビーベッドの隣だった日

 ランドセルの置き場所だった日

 試験前の机の灯りだった日

 そして今

 アルバムを囲むソファの上

 二人の家の中心には

 いつも

  「戻ってくる先」

 が置かれている

 次の季節、

 その中心の正体を

 私

 魚住綾音が

 あなた

 りゅうさんと一緒に

 もう一度

 丁寧に

 言葉にしていく……

 挿絵(By みてみん)

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