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⭐️色褪せることのない絆⭐️ ✨️EMPATHY 大隅綾音と魚住隆也✨️  作者: 詩野忍


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57/62

✨第053季 名前の候補✨

 挿絵(By みてみん)

 名前は

 まだ見えない

 私とりゅうさん

 三人の子らの

 未来に

 新たな

 生命の息吹を……

 産声のあと

 三つの子らは

 静かに眠り

 私とりゅうさんは

 その寝息を数え

 一つ

 二つ

 三つ

 数は確かで

 やさしい

 けれど

 数だけでは

 抱きしめ切れない

 ものがある

 泣き方の癖

 眉の寄り方

 指の探し方

 それぞれ違う

 小さな子らが

 同じ日に

 同じ家へ

 降り立ってくれた奇跡

 その奇跡を

 呼びかけの

 音にして渡したい

 私は法務の癖で

 言葉を

  「定義」

 したくなる

 誤解の余地を閉じ

 境界を整え

 誰のものかを

 明確にする

 けれど名前は

 呼ぶたびに

 私とりゅうさん

 の心が整い

 子らの輪郭が温まる

 命名は

 契約ではなく

 新たな生命の息吹

 この子らを

 この世界で

 あなたと一緒に

 守るからね

 言葉にすると

 硬くなる誓いを

 音にして

 柔らかくしたい

 夜

 授乳の間隔で

 区切られる

 時間の中で

 私達は

 ノートを開く

 条文ではなく

 二人の候補

 議事録ではなく

 二人の願い

 りゅうさんが

 小声で言う


   「音で

    呼んであげよう

    これから毎日

    一番多く言う

    言葉だから」


 その言葉に

 私は頷き

 今宵の私達は

 三つの人生に

 最初の灯りを点す……

 挿絵(By みてみん)

 ✨第053季 名前の候補✨

  — Names to Hold the Light / Nomina ad Lumen Tenendum —

  (Tria Nomina, Una Promissio — Vox quae Domum Facit)


 退院後の自宅は

 静けさが

 増えたのに

 世界が

 賑やかになった

 ような……

 泣き声は

 音量ではなく

 方向を持ち

 どの部屋の

 どの角の

 どの温度の

 揺れが

 誰の不安か

 つい

 私は

 耳が

 法律のように

 働いてしまう

 原因

 要件

 効果

 けれど

 赤ちゃんの世界は

 原因より先に

 「現実の今」

 が来るの

 泣いて

 飲んで

 眠ってくれる

 ただ

 それだけの

 繰り返しは

 私達の生活を

 編み直していく


 長女は

 泣く前に眉がほんの少し寄り

 まるで

 泣く理由を整えてから

 声を出すみたいに

 私は

 その表情を見るたび

 胸がきゅっとなる

  「分かってるよ」

 って言ってあげたくなる

 けれど

 彼女はまだ

 言葉を持たない。

 代わりに

 眉が語ってくれる

 その慎重さは

 私の中の

  “ちゃんと”

 と似ていて

 だから

 守って

 あげたくなるの


 次女は

 泣き声が

 いちばん大きい

 大きいというより

 まっすぐに

 声が空気を割ると

 私の迷いが

 一瞬で整理される

  「今ここ」

 それだけを

 教えてくれる声

 私は時々

 その勇ましさに

 救われる

 怖さが

 怖さのまま

 動ける力に変わる 


 三女は

 泣くより

 先に手が動く

 指が空を探って

 布を掴んで

 私の指に触れると

 ふっと力が抜ける

 触れることが

 彼女の

 安心の言語なのだと

 私は

 その小さな掌に

 何度も教えられる

 言葉がなくても

 伝わる

 伝え合える

 挿絵(By みてみん)

 私は

 ママになって

 世界の基本単位が

 変わった気がする

 時間は分ではなく

 触れる回数に分かれる

 そんな日々の中で

 名前の話は

 遅れて

 やってきたのではなく

 静かに

 最前列に座り続けていた

 出生届の期限

 家族への報告

 小さなベッドに

 貼るラベル

 哺乳瓶に書く印……

 でも本当は

 事務のためじゃなく

 呼びかけるため

  “あなた”

 を

  “あなた”

 として迎えるため


 今宵も

 三人が

 同じタイミングで

 眠ってくれた

 奇跡みたいな沈黙?

 私はソファに

 沈み込み

 身体はふわふわ

 心だけが

 起きている

 りゅうさんが

 私の肩に

 ブランケットをかける

 そして

 あの言い方で言う

 押さない

 握らない

 ただ

 隣に置く声


   「……名前

    決めてあげようよ」


 私は頷く

 怖さが

 少しだけ

 温度を落とす

 怖さは

 敵じゃない

 大切に

 思っている証拠

 だから

 怖いまま

 決めよう!

 ノートを開くと

 私は反射で

 見出しを書いてみた


  第1項 呼びやすいこと

  第2項 音がやわらかいこと

  第3項 三人それぞれに似合うこと


 私自身でも

 可笑しくなる

 りゅうさんは

 小さく笑って

 私のペン先を

 見ながら言う


   「条文じゃなくて……

    今日は詩で……」

   「……うん

    今日は詩にする」


 私達は

 候補を並べてみた

 ひらがな

 漢字

 読み

 響き……

 声に出してみると

 同じ二文字でも

 息の出方が変わる

 挿絵(By みてみん)

 「し」

 から始まる音は

 私の胸の奥に

 静かな水面を作る

 私の名前の最初の音と

 どこかで

 呼応しているから

 かもしれない

 りゅうさんが言う


   「“し”

    は息の入口がやさしい

    呼びかけるたびに

    落ち着く……」 


 私は

 三人の寝顔を見

 長女の

 眉の寄り方

 次女の

 まだ眠っていても

 残る強い気配

 三女の

 指先だけが

 起きている

 みたいな落ち着き


 それぞれの

  “旅”

 に似合う音を

 手渡してあげたい


 長女の

 候補を読む時

 私は

 自然と声を小さくし

 その子の世界は

 いつも整えられてから

 始まるから

  『しずく』

 口にすると

 舌の先に

 冷たく

 透明なものが

 落ちる

 派手じゃないのに

 確かに

 輪郭を変える一滴

 夜の静けさを

 怖さではなく

 潤いに

 変えてくれる音

 りゅうさんが頷く

   「長女は

    涙のしずくじゃなくて

    朝のしずくの気持ちから……」

   「うん

    ……朝の……しずく……すべての始まり……」

 私は

 その言葉に救われる


 泣くことを

 悲しみにしない

 泣くことを

 始まりにする

 次女を思うと

 胸の奥が

 少し上がる

 泣き声で

 空気を割る勇ましさ

 でも

 その奥には

 繊細な可憐なお花が心に宿す

  『しほか』

 音が広がる

  “ほ”

 の丸さが

 彼女の

 まっすぐさを

 抱きしめる

  “か”

 で終わる

 最後に華やかな

 舞いを……

 まるで

 世界へ

 一歩踏み出す合図

 りゅうさんが

 小さく繰り返す

   「しほか……

    素敵な響き……背中が伸びる……」

 私はにこり

   「背中が

    伸びる名前って……?」

 でも分かる

 この子は

 私達の家に

 勇気の音を

 持ってきてくれたから


 三女は

 手で探して

 触れて

 落ち着く

 だから私は

 静けさの中に

 芯がある音がいいと……

  『しのぶ』

  “の”

 は優しく包み込む

  “ぶ”

 は自己の犠牲を

 厭わなく守る

  忍ぶ

 という字が持つ意味が

 先に立ちそうで

 私は一瞬ためらいそう……

  “我慢”

 を背負わせたくないから……

 けれど

 りゅうさんが言う

   「“しのぶ”

    って耐えるじゃなくて

    優しく思いを

    包み込む……

    そして守ってあげるのね」

 優しく包み込む

 私は

 その言葉を

 胸の中で反芻する

 素敵な響き

 確かに

 この子の

 触れる力は

 ママに

 優しく包み込む

 力に似ているよう

 確かめ

 確かめて

 安心する

 その慎重さは

 私が

 学び直している

  “整える”

 と同じかもね!

 挿絵(By みてみん)

 私は三人の名前を

 改めて声に……


  『しずく』

  『しほか』

  『しのぶ』

 

 空間が少し澄む

 まるで

 三つの生命の灯りが

 一斉に一緒に燈され……

 りゅうさんは

 何も付け足さずに頷き

 ただ手を

 私の手の近くに

 置いた

 握らない

 押さない

 でも

 離れない距離

 私は

 思わず泣きそうに

 三つの新しい生命の

 命名は

 私の中の

 不安に勝つための

 儀式じゃなく

 不安と一緒に

 歩くための儀式

 怖さを否定せず

 愛を誇張せず

 ただ隣にいる

 それが

 私達の流儀

 そして

 今日の記念すべき

 命名はずっと

 毎日思い出させてくれる……


 翌日

 私は三人を

 抱き上げながら

 それぞれの

 耳元で小さく呼んでみた……

 ……まだ……

 ……言葉は返ってこないよね……

 でも

 まぶたが震え

 指が握り返し

 呼吸が少し整い

 反応……

 返事は

 音ではなく

 温度だった


  『しずく』

   眉が

   いつものように

   小さく寄り

   ふっとほどけた

   気がした……


  『しほか』

   胸の上下が力強く

   空気が

   一段明るくなった

   気がした……


  『しのぶ』

   指が私の

   服の袖を掴んで

   離すまい!

   とするみたいに

   そして静かに

   落ち着いてくれる


 私は思う

 この子たちの旅は

 もう始まっている

 遠くへ行く

 旅じゃなく

 私達とともに

 同じ部屋で

 同じ夜を越え

 同じ朝を迎える

 旅

 命名は

 その旅のPrologue

 私とりゅうさんは

 今日も声にして

 呼び掛ける

 心を愛を込めて……

 呼び掛けるたびに

 心が整う

 呼び掛けるたびに

 愛が現実になる

 今宵も

 三人が眠ってくれたあと

 りゅうさんがささやく


   「ねえ

    あや様

    家族になったね

    ちゃんと」 


 私は首を振る


   「“ちゃんと”

    じゃなくて……

    “なった”

    でいいの!」


 りゅうさんは微笑み

 目を潤ませ


   「そうだった!

    “なった”

    だよね」


 私は

 胸の奥で祈る

 どうか今日も

 息が続いていきますように

 どうか明日も

 体が温かいまま

 朝を迎えられますように

 そして

 私が

  “ちゃんと”

 に溺れそうになったら

 あなたが

 隣にいてくれますように

 りゅうさんが

 小さく言う


   「もちろん

    ここにいるよ!」


 その一言で

 祈りが完成する

 名前の候補は

 もう候補ではなく

 命名

 三人の子らへの人生へ

 私とりゅうさんからの

 最初の贈り物に

 挿絵(By みてみん)

 命名を

 無事終えた今宵は

 家の静けさが

 少し変わり

 でもいつもの

 同じ壁

 同じ照明

 同じソファ

 その空間の中に

 呼びかけの

 通り道が増えた


  『しずく』

   と言えば

   透明な朝の始まり気配が……


  『しほか』

   と言えば

   背中がまっすぐになり……


  『しのぶ』

   と言えば

   掌の温度が思い出され……


 音は不思議……

 見えないのに

 生活の輪郭を変える

 未来の重さを変える

 私はまだ怖い

 でも怖さは

 もう敵ではない

 怖さは

 私が彼女たちを

 大切に思っている証拠

 そして私は

 りゅうさんと一緒に

 その証拠を

 抱きしめられるようになった

  “責めない”

 という第4条は

 私の中で

 祈りから習慣へ

 移り始めている

 完璧じゃなくていい

 整え直せばいい

 呼びかけて

 確かめて

 息を合わせて

 次の季節は

 私たちが

  「今」

 を形に残そうとする季

 写真は

 止めるためのものではなく

 香りを保つためのもの

 抱き上げた時の重さ

 ミルクの甘い香り

 ブランケットの柔らかさ

 りゅうさんの小さな声

 その全部が

 いつか思い出になる前に

 次回

 ✨第054季 家族写真の香り✨

 そこでは

 私とりゅうさんと

 『しずく』

 『しほか』

 『しのぶ』

 五人の呼吸が

 同じフレームに 

 収まる瞬間

  “写る”

 ではなく

  “香る”

 記憶を

 私達は

 初めて手に入れる

 未来の私達へ

 渡すための

 最初の

 アルバムの

 1ページ……

 挿絵(By みてみん)

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