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⭐️色褪せることのない絆⭐️ ✨️EMPATHY 大隅綾音と魚住隆也✨️  作者: 詩野忍


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54/59

✨第050季 未来への胎動✨

 挿絵(By みてみん)

 未来は

 突然

  「大きく」

 なる

 それは

 拍手みたいに

 派手ではなく

 むしろ紙を

 一枚足しただけの

 静けさで

 二人の生活の

 重さを変える

 三つ子ちゃん

 しかも三人とも女の子

 あの日

 診察室で聞いた

 三つ子ちゃんの鼓動は

 私の内側に

  「数」

 という現実

 数は好き

 数は嘘をつかない

 けれど数は

 時々

 抱える私の背中を

 急に大きくするの

 私は法務の世界で

 予測と備えを

 仕事にしてきた

 だから本能的に

 リスクを数え

 条項を立て

 最悪を想定し

 誤解の余地を閉じにいく

 栄養・体重管理・合併症のリスク

 多胎であることの現実

 そして私達は

  “三絨毛膜性”

 で

 三人それぞれの居場所がある

 医師は丁寧に説明してくださった


   「膜性(絨毛膜性)は

    大事な情報です

    定期的に確認して

    方針を一緒に整えましょう」

 挿絵(By みてみん)

 その“整えましょう”が

 私には救いだった

 私だけが背負うのではなく

 主治医様のお力を頂きながら

 私、綾音とりゅう君

 二人で

 そして医療と一緒に歩く

 それでも私は

 怖い

 怖いのに

 嬉しい

 この矛盾は

 私の弱さではなく

 愛の容量が増えた証拠

 りゅう君が

 言ってくれる


   「怖いの

    いいよ

    怖いを

    一人にしない」


 だから

 私は今日から

  “頑張る”

 の意味を変える

 根性で

 押し切るのではなく

 整えて

 頼って

 守って

 眠って

 食べて

 呼吸して……

 私とりゅう君との

 三つの未来が

 私の中で

 小さく動き始める

 胎動はまだ

 気配の手前

 けれど確かに

 未来はもう

 二人の生活を押している

 静かに

 でも確実に……

  挿絵(By みてみん)

 ✨第050季 未来への胎動✨

 — Stirring Toward Tomorrow / Motus ad Crastinum —

  (Motus Futuri — Tria Corda, Una Domus)


 病院を出た帰り道

 りゅう君は

 いつもより少しだけ

 言葉が少なかった

 少ないのに

 薄くない

 むしろ

 言葉の代わりに

  「歩幅」

 が私に合わせられている

 その歩幅が

 私を安心させる

 自宅に着くと

 リビングには

 いつもの黒い艶が

 迎えてくれる

 ヤマハのグランドピアノCFX

 あの夜

  「ここで生きよう」

 を音で置いた場所

 今日はその場所に

 もう一つの言葉が重なる

  ここで生きよう!

 三つの小さな命と一緒に

 私はソファに座って

 手をお腹に当てた

 まだ平らに近い

 でも平らだからこそ怖い

 見えないからこそ

 慎重になる

 慎重さは愛の顔をして


   「……あや様」


 りゅう君が

 コートを脱ぎながら呼ぶ


   「ん?」

   「今日から

    我が家の

    “運用”

    変える?」


 運用……

 その単語を

 あなたが

 自然に使うのが

 可笑しくて

 でも愛しくて

 私は思わずくすっ!


   「変える

    ううん

    変えるっていうより

    編み直す!」

   「うん

    編み直そう!」


 その夜

 私達はテーブルに

 ノートを広げ

 法務担当の癖で

 私は見出しをつけてしまう


  「第1条 母体の安全を最優先とする」

  「第2条 無理をしない」

  「第3条 迷ったら主治医に相談する」

 

 書きながら

 私は自分の硬さに気づく

 守りたいから

 条文になる

 すると

 りゅう君は

 微笑みながら言う


   「第4条

    “あや様を責めない”

    も入れる!」


 私はペンを止めた

 言葉が

 胸の奥に落ちる


   「……うん

    入れる」


 私は書く

 

  「第4条 自分を責めない」

 挿絵(By みてみん)

 自分を責めない

 それは私にとって

 いちばん難しい条項

 翌週

 私達は

 主治医の外来に再び

 多胎妊娠であること

 三絨毛膜性であること

 今後の検査や

 通院頻度のこと

 私は説明を聞きながら

 必要以上に

  「ちゃんと」

 を拾い集めそうに

 体重・栄養・血圧 etc……

 さまざまな合併症の可能性……

  “可能性”

 という言葉は

 私の仕事では

 扱い慣れているはずなのに

 今日は引っかかる

 診察室を出たあと

 廊下の椅子に座った

 私の指先は冷たく

 りゅう君が

 私の手の甲に

 そっと触れる

 握らない

 押さない

 ただ

 そこに置く


   「……怖くなった?」


 私は頷く


   「うん

    急に

    現実が増えた!」


 りゅう君が息を吸って

 ゆっくり言う


   「現実が増えたなら

    味方も増やそう!」

 挿絵(By みてみん)

 味方

 その言葉で

 私ははっとする

 私達は

 二人だけで

 背負おうとしてしまう

 愛があるほど

 閉じたくなる。

 でも

 閉じることが

 必ずしも

 強さではない

 守るためには

 開くことも必要だ


 その週末

 私の実家で

 りゅう君も同席

 家族会議

 母は台所から

 いつもの手際で

 お茶を運んでくれる

 父は

 妙に背筋が伸びていて

 何度も咳払いをする

 姉は

 私の顔色を見て

 すぐに

 空気を柔らかくする

 挿絵(By みてみん)

   「綾音

    無理してない?」

 

 私は

  “無理してない!”

 と言いたくなる。

 でも今日は

 条文より音

 私は正直に言う


   「……無理しないようにしてる

    でも

    怖い……」

 

 姉は頷く


   「うん

    怖いの

    まともよ

    だって三人だもん」


  “まとも”

 という評価が

 私を救う

 怖さを

 欠陥にしない

 そして母が

 湯呑みを

 置きながら言った。

 

   「栄養とか体重とか

    先生の言う通りでいいのよ

    分からない時は

    聞けばいい……

    あやさんは

    いつも一人で

    全部解決しようと

    する癖があるから」

 挿絵(By みてみん)

 母の言葉は

 優しい叱責

 父は小さく頷き

 りゅう君の方を

 見て言ってくれた


   「魚住くん

    頼むぞ!

    そして頼りにしてくれ!」


 りゅう君は

 少しだけ照れて

 でも逃げずに答え


   「はい

    よろしくお願いいたします

    私

    頼ります

    皆様にも」


 “頼ります”

 その言葉が嬉しかった

 守る側の人が

 助けを

 言葉にできるのは強い

 私は胸の奥で

 ひとつ結び目が

 ほどけるのを感じた

 数日後

 りゅう君の従姉妹様が

 ベビー用品のリストを

 作って送ってくれた


   「多胎は準備が

    早めの方が安心!

    買うもの

    借りられるもの

    分けよう!」


 私は画面を見ながら

 また

  “べき”

 が列を作りそうになる

 すると

 りゅう君が

 私の隣で言う

 

    「“べき”が来た?」

    「……来た!」

    「じゃあ

     私が受け取る

     べきは

     私が一回預かる」

 

 預かる

 その言葉も

 あなたらしい

 背負わせない

 私の心の重さを

 いったん

 棚に置いてくれる

 そして

 二人の生活は

 少しずつ

 組み替わっていった

 冷蔵庫に

 貼られるメモが増える

 検診日・採血・膜性の確認・体調の記録

 でも

 メモの横に

 りゅう君が書き足していく

  「休む!」

  「食べる!」

  「にこっ!」

 私はその三つを見て

 少し泣きそうに

 なってしまう

 法律の条文にはない

 二人の生活の条項

 挿絵(By みてみん)

 ある夜

 私は食欲が落ちて

 スープだけを……

 胸の奥が気持ち悪く

 香りが少しだけ鋭い


   「ごめんね

    あんまり食べられないの」


 私は反射で謝ってしまう

 りゅう君が

 すぐに首を横に振る

 

   「謝らない

    食べられない日は

    そういう日

    今日の最優先は

    あや様が楽になること」


 楽なこと

 それを

 最優先にしていい

 りゅう君の言葉

 私は小さく頷く


   「……うん」


 その後

 私は

 ピアノの前に座った

 弾くというより

 呼吸を整えるために

 鍵盤に指を置くと

 冷たいのに

 音は温かい

 りゅう君が背後から

 ブランケットを肩にかける


   「今日のあや様

    すごく頑張った」

   「頑張ってない」

   「ううん

    頑張った

    だって

     “休む”

    を選べたから」


 私は息を止めた

 休むことが

 努力として認められる

 それは

 私の世界では

 まだ新しい価値観だった

 そして

 ある朝

 私は目を覚まして

 しばらく動けなかった

 お腹の奥で

 泡が弾けたような感覚

 痛みではなく

 くすぐったさに近い

 気配

 胎動の

 手前

 私は手を当てて

 もう一度確かめる


  ……また

  小さく

  ふわり……


 私は思わず

 くすっ!

 怖いのに

 嬉しい

 嬉しいのに

 泣きたい……

 

  「……りゅう君……」

 挿絵(By みてみん)

 私は

 寝室のドアを

 少し開けて呼ぶ

 りゅう君は

 すぐに来る

 その速度が

 もうパパの速度!


   「どうした?」

 

 私は

 お腹に

 手を当てたまま言う


   「今

    ……たぶん……

    未来が

    動いた……」


 りゅう君は

 息を呑んで

 それから

 慎重に

 私の隣に座る

 触れ方はいつも通り

 握らない

 押さない。

 ただ

 そこに置く


   「……どこ?」

   「ここ」


 私が示すと

 りゅう君の目が

 真剣になる

 しばらく

 二人で黙る

 沈黙は不安ではなく

 聴くための……

 ……ふわり

 りゅう君の眉が

 ほんの少し上がる


   「今?」

   「今」


 りゅう君は

 声を出さずににこり

 そして

 涙が混じった息


   「……すごいね」


 私は頷く


   「すごい

    私の中で

    三つの未来が

    ちゃんと

     “生きてる”!」


 その日

 私達は

 改めて

 主治医の予約を確認し

 膜性の定期的なチェックも

 忘れないように

 カレンダーに入れ

 医師の言葉を

 ただの

 注意事項にしない

 怖さを

 増やす材料ではなく

 守るための地図に

 私は

  “べき”

 の代わりに

  “整える”

 を選ぶ

 りゅう君は

  “頑張れ”

 の代わりに

  “一緒にやろう”

 を置く

 そうして生活が

 少しずつ

 二人の家族の

 形になっていく

 挿絵(By みてみん)

 夜の自宅

 リビングの

 ピアノの黒い艶が

 灯りを受けて

 静かに呼吸している

 私は椅子に座って

 短いフレーズを弾いた

 音は

 明るすぎず

 暗すぎず

 まるで

  「準備」

 という季節の色

 りゅう君が

 キッチンから言う


   「今日の音、いい」


 私は微笑む


   「未来の音、かな」

   「うん

    未来への胎動」


 あなたが

 その言葉を言うと

 怖さが少しだけ

 温度に変わる


  胎動は

  命の合図


 同時に

 私たちが

  “ママとパパになる”

 という合図

 私は思う

 覚悟って

 完成品じゃない

 日々

 編み直される布

 ほどけてもいい

 そのたびに

 二人で結び直せばいい

 挿絵(By みてみん)

 Epilogue & Next Preview

 未来は

 静かに動き始める

 ピアノの艶の奥で

 三つの鼓動が

  “こちら側”

 へ近づく

 準備をしている

 私の課題は

 強くなる

 ことではなく

 丁寧になること

 栄養や体重管理

 合併症などのリスク

 三絨毛膜性という情報

 定期的な膜性の確認

 それらは

 恐怖の材料ではなく

 守るための地図であり

 主治医様の

 お力を頂きながら

 私たちが

  「整える」

 ための手すりだ。

 りゅう君は

 私の両親と姉

 そして従姉妹様の

 力も借りながら

 未来の準備を進めている

 誰かを頼ることは

 弱さではないよね

 守るものが

 増えた者にとっての

 自然な強さだと

 私はようやく

 思えるようになった……


 三つ子ちゃんは女の子

 その事実を口にすると

 現実がまた

 一段明るくなる

 でも明るさは

 時々眠りを浅くする

 夜

 私はふと目を覚まし

 静けさの中で

 不安と向き合う


  “ちゃんとできる?”

  “守れる?”

  “もしも”


 言葉が

 勝手に増えてしまう……

 けれど

 そのたびに

 私は思い出す

 怖いのは

 誠実の端っこ

 そして怖さは

 私とりゅう君

 二人で持てる


 次回

 ✨第051季 眠れぬ夜の祈り✨

 そこでは私は

 眠りの浅い夜に

 言葉より先に

 胸を震わせる

 不安を抱えながら

 祈る!

 という形で

 愛を学び直す

 りゅう君の

  “うん”

 という言葉の中で

 私は静けさの中に

 三つの未来を

 迎える場所を

 作っていく

 眠れない夜が

 怖さの証拠ではなく

 守りたい

 気持ちの証明だと

 綾音は

 信じられるように……

 挿絵(By みてみん)

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