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⭐️色褪せることのない絆⭐️ ✨️EMPATHY 大隅綾音と魚住隆也✨️  作者: 詩野忍


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52/59

✨第048季 今日はあなたのために✨

 挿絵(By みてみん)

 ✨第048季 今日はあなたのために✨

 — Today, For You / Hodie Pro Te —

  (Hodie Tibi — Pro Te Tantum)

 【Preface】

 言葉は

 私達の背中を押す

 でも時々

 予想以上に

 押してしまう事も

 だから私は

 言葉を

  「道具」

 ではなく

  「責任」

 として持ってきた

 正しい語を選び

 誤解の余地を閉じ

 誰かの痛みを

 増やさないように

 私の仕事と人生を

 丁寧に折り畳んできた

 けれど

 りゅう君

 あなたの前では

 私は

 折り畳み過ぎていた

 心の内を

 広げてみたいと

 あなたが

 私にプレゼントしてくれたピアノは

 贈り物である以上に

 私の中の

  「べき」

 をほどくための

 静かな鍵

 挿絵(By みてみん)

 今宵は私が

 あなたのために

 ただ

 あなたが私に

 注いでくれた温度を

 私の手のひらからも

 そっと置いてみたい

 あなたはいつも

 私の疲れを

  “見つける”

 のが上手

 言葉の隙間にある

 一瞬のため息に

  「大丈夫?」

 の後ろにある

 私にとっての重さ

 それを責めず

 軽くしようと

 してくれる

 だから

 私は今夜

 お料理のお皿と

 何気ない一つの

 言葉と

 仕掛けで

 あなたの肩を

 少しでも

 下ろしてあげたい

 私にとって

 それは

 引き続きね

 愛の練習

 そして

 最近

 もうひとつ

 私の身体の奥で

 静かに始まった

 新しい季節のための

 予習でもあるのです

 挿絵(By みてみん)

  「あや様

   お疲れ様!」


 二人で

 買い出しの夕方

 スーパーの

 レジ袋が少しだけ重く

 重いのは

 食材の分だけではなく

 実は私

 歩きながら時々

 私自身の身体の中心に

  「もうひとつの重心」

 があるのを感じる

 それは怖さではなく

 慎重さに似て

 私の内側は

 真新しく

 更新されていく

 りゅう君が

 玄関の鍵を開け

 すぐに気づく

 二人の空間の

 おかえり

 ただいま

 声が

 いつもの温度が

 それだけで私は

 背中の肩の

 力が抜ける

 リビングには

 黒い艶の

 ヤマハのグランドピアノCFX

 夜の照明の下で

 天板が柔らかく

 息をしている

  “ここで生きよう”

 という二人言葉を

 音で置いた

 

   「……りゅう君

    今日は座ってて」


 私はそう言って

 キッチンへ逃げる

 逃げる

 というより

 心を整える

 言葉より先に

 鍋とフライパンの

 順番を整えると

 なせか心も整うから

 今日は

 あなたの

 疲れをほどく一皿を

 鮭のムニエルに

 レモンとバター

 ほうれん草

 にんにくを

 ほんの少し

 それに

 あなたが好きな

 きのこのスープ

 今日の私の意思

 りゅう君は

 私の背中越しに


   「あや様が

    “座ってて”

    って言ってくれるの

    珍しい」   

   「珍しいから

    今日なの」  

   「……今日

    何の日だっけ?」   

   「ふふ内緒!」

 挿絵(By みてみん)

 内緒

 と言ってしまった瞬間

 私の胸の鼓動が

 少し速くなる

 本当は

 すぐにでも言いたいの!

 でも

 言葉や

 サプライズは

 驚きと喜び

 にもなるけれど

 私は今夜

 あなたを

 驚かせたい

 のではなく

 優しく柔らかく

 包みたい

 スープの

 湯気が立ち

 言葉に似ている

 形が

 定まらないのに

 でも

 確かに温かい

 りゅう君は

 テーブルに座り

 腕時計を外して

 手首を揉む。

 その仕草で

 今日が

 大変だったかが分かる

 私は

 言葉の代わりに

 お料理のお皿を置く

 お皿は

 説明しない。

 ただ

 そこにある


   「……あや様の

    十八番だ!」


 りゅう君が

 子どもみたいに微笑む

 私は

 屈託のない微笑に

 胸の奥の固いところが

 ほどけるのを感じる


   「召し上がれ

    今日は、あなたのために」  

   「いただきます」


  “いただきます”

 がこんなに

 優しい宣言だと

 私は

 最近になって知った

 生きることは

 受け取ること

 受け取ることは

 信じること

 食卓の音は小さい

 フォークが

 皿に触れる音

 スープスプーンが

 器に当たる音

 それらは

 昨日のジャズの

 間奏より短いのに

 同じくらい深い

 間が

 あるから

 間を

 あなたが怖がらないから


   「今日

    あや様

    顔色いいね」


 りゅう君は

 さらりと言う

 私は一瞬

 息を止める


   「……そう?」  

   「うん

    なにか柔らかい」


 柔らかい

 私はその語を

 胸の中で反芻する

 柔らかい

 は私にとって

 ずっと努力の結果

 でも最近は

 努力というより

 守るものがある人の

 自然な変化に近い

 食後

 私は小さな箱を

 テーブルに置く

 箱は

 指先ほどの大きさ

 あなたが

 ピアノをプレゼントしてくれたのに

 私はこんな小さなもの

 釣り合わない

 そう思う癖が

 まだいる

 でも今日は

 その癖に言う

   「黙ってて」

 と

 挿絵(By みてみん)

   「なにそれ?」  

   「りゅう君への仕掛け」   

   「仕掛け?」   

   「うん

    あなたの

    “にこっ!”

    を引き出す仕掛け」

 表には

 細い字でこう書く

 “One Free Rest.”

 裏には

 もっと小さく

 “Non est Officium, sed Amor.”

 (義務ではない。愛である)

 りゅう君が

 しばらく黙る。

 その黙りは

 言葉を探す黙り

 私はその間に

 ピアノの前へ行き

 椅子を少し引く

 今日の私は

 言葉で押さない。

 音で

 隣に座る


  「……あや様」   

  「ん?」  

  「ずるい!

   かわいい!」


 私は思わず

 微笑む

  かわいい

 を

  “ずるい”

 と言う人が

 私の夫なのだ。

 私は

 鍵盤に指を置き

 フレーズを弾く

 HIDAMARI

 なんとなくの

 二人の合図

 りゅう君は

 ドラムスの方を見ても

 でも今日は叩かない

 叩かない

 という選択も

 あなたの優しさだと

 私は知っている

 私は

 深呼吸をする

 言葉を出す前に

 音を置く

 昨日

 あなたが

 してくれたように


   「りゅう君

    ……今日はね」


 声が少し震え

 私は

 震えを否定しない

 震えは

 誠実の端っこだと

 あなたが

 教えてくれたから


   「うん」

 

 りゅう君は

 椅子の背に

 もたれず

 前のめりにもならず

 私とのちょうどいい

 距離で

 耳をすましてくれる

 その姿勢は

  “逃げない”

 と

  “押さない”

 の両方を持ち

 私は

 その器の中なら

 言葉が溢れても

 大丈夫だと思える


   「私ね

    ……最近

    少しだけ体が変で……」  

   「うん」   

   「疲れやすいとか

    香りが強く感じるとか……」   

   「うん」


  “うん”

 が私を先へ運ぶ

 言葉は歩ける

 私は

 指を鍵盤の上に

 置いたまま言う

 挿絵(By みてみん)

   「りゅう君

    ……私

    お腹にね」  

   「……うん」  

   「あのね

    新しい生命を

    宿しました!」


 言った瞬間

 部屋の空気が変わる

 静かに

 でも確かに

 ピアノの黒い艶が

 少しだけ深く見え

 りゅう君の目が

 ゆっくり潤む

 

   「……あや様……」


 名前の呼び方が

 いつもより柔らかい。

 あなたの中で

 何かが

 大切なものとして

 置かれた音がする

 

   「……ありがとう」   

   「……ありがとう

    って

    私が言うの?」  

   「うん

    だって

    ……あや様が

    身体で守ってくれてる」


 その言い方が

 あなたらしい

  “背負わせない”

 言葉

 喜びを

 あなたは

 私の身体の変化さえ

 二人の出来事に変える

 りゅう君は

 立って

 でも急がない。

 私の横に来て

 握るのではなく

 優しく柔らかく触れる

 指先が

 私の手の甲に

 そっと乗る。

 その触れ方が

  「私はここにいる」

 を言っている。

 

   「怖い?」   

   「……うん少し……」   

   「うん

    怖いのいいよ」

  

  怖いのいいよ

 私は

 その短い語に救われる

  “べき”

 の外に出る許可。

 失敗しても

 戻れる場所

 あなたは

 今宵もそれを作る

  

   「私ね

    りゅう君」  

   「うん」   

   「あなたがいると

    私は

    ……大丈夫になっていく」

 言葉が

 勝手に出る

 でも

 勝手に出る言葉は

 一番正直

 りゅう君は

 私の額に

 短く口づける

 音の代わりの

 静かな合図

 それから

 少しにこり

  

   「一緒に休む」 

   「……もちろん」

   「……うん」


  “一緒に休む”

 その言葉が

 私の胸の奥の固い規則を

 またひとつ溶かしてくれる

 今宵は

 ベッドに入る前

 私は

 リビングのピアノに

 向かって

 小さく

 一礼する

  ありがとう!

 あの黒い艶は

 りゅう君の

 贈り物であり

 二人の誓いの楽器であり

 これから増える家族の

  「居場所」

 でもある

 りゅう君は

 私の肩に

 ブランケットをかけて言う

 挿絵(By みてみん) 

   「今日

    あや様が私に

    “贈る”

    って言ってくれた」  

   「うん」   

   「もう充分過ぎるほど

    受け取ったからね」

 

 私は

 返事の代わりに

 あなたの手を握る

 今宵も

 ギュッと

 言葉より先に

 二人の間の温度がある

 その温度は

 お約束になる

 【Epilogue & Next Preview】

 今日という一日は

 派手な記念日というわけではなく

 けれど私の中では

 季節がひとつ増えた

  “二人”

 の生活の中に

  “もう?人”

 の未来が

 そっと宿り

 私は

 怖い……

 怖いのに

 嬉しい!

 この矛盾を

 抱えたままでも

 りゅう君の

 隣なら

 歩ける気がする

 あなたは

 私の怖さを

 否定しない

 怖さを

 孤独にしない

  「一緒に持つ」

 に変える

 それが

 どれほど

 私の救いかを

 私は今日

 また思い知る

 挿絵(By みてみん)

 ピアノの黒い艶は

 今宵の

 灯りを受けて

 静かに呼吸をし

 まるで

  “これからの未来”

 を待つ楽器のよう

 私が弾く音も

 あなたが支える拍も

 そして

 まだ見ぬ

 私のお腹の

 小さな鼓動も

 いつか

 私達のリズムが

 同じ部屋で

 重なる日が来る

 次の季節

 私は初めて

 確かめる

 言葉ではなく

 耳で

 条文ではなく

 音で

 私の中で

 始まった

 新しい生命が

 私達の世界に

 向けて鳴らす

 最初の合図を

 次回

 ✨第049季 初めて聞いた命の音✨

 そこでは

 私は

 あなたの手を借りながら、

  “聞く”

 という愛の形を

 もう一段深く

 学ぶことになる

 あの小さな音が

 私たちの未来を

 どんな風に

 書き換えていくのか

 私は

 怖いまま

 でも確かに

 楽しみにしています。

 まだ聞こえないはずの音を

 私は確かに聴いた

 それは

 鼓動……

 これからの

 人生を導く

 最初の合図だった

 のだと思う

 その音を

 私、綾音と

 りゅう君あなたと

 そして

 この小さな存在と

 一緒に

 丁寧に聴いていきたい

  綾音は……

 挿絵(By みてみん)

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