表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
⭐️色褪せることのない絆⭐️ ✨️EMPATHY 大隅綾音と魚住隆也✨️  作者: 詩野忍


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/59

✨ 第047季 あなたに伝えたい言葉✨

 挿絵(By みてみん)

 — Words I Want to Tell You / Verba Tibi Dicenda —


 言葉は

 私にとってずっと

  「責任」

 だった

 条文や運用の世界で

 言葉は

 人の生活を動かす

 だから私は

 一つの語を

 置くたびに

 角度と重さを

 測ってきた

 誤解されないか

 傷つけないか

 揺れないか

 そうして私は

 正しさを

 丁寧に生きる術を

 身につけた

 けれど

 りゅう君

 あなたの隣では

 少しずつ

 ほどけていく

 ほどけるのが

 怖いのに

 ほどけた

 先にだけ見える

 景色があると

 あなたが

 教えてくれるから

 昨夜の食卓は

 まだ私の胸の中で

 鳴っている

 白ワインの

 淡い麦わら色

 ジャズの

 息の長い間奏

 フォークが

 皿に触れる小さな音符

 そして今夜

 あなたがしたことは

 もっと

 大きいはずなのに

 あなたらしい

  “静けさ”

 で私の世界を書き換えた

 リビングに

 二人の結婚記念日

 &私の誕生日

 に

 りゅう君からの

 ヤマハのグランドピアノCFX(2022年発売)

 のプレゼント

 私のために

 私は

 最初それを

  「重い贈り物」

 だと思ってしまった

 私の中の

  「べき?」

 がすぐに反射する

 でも

 あなたは背負わせない

 あなたはいつも

 贈り物を

  “義務”

 にしない

 贈ることで

 私を縛らない

 むしろ

 私の言葉の結び目を

 ほどくために

 音を差し出す

 今宵は

 私があなたに

 言葉を差し出す番

 選ぶのではなく

 私のありのまま

 言葉

 怖いまま

 でも

 怖さは敵じゃない

 誠実さの端っこだと

 あなたが

 教えてくれたから……

 挿絵(By みてみん)

 ✨第047季 あなたに伝えたい言葉 ✨

 — Words I Want to Tell You / Verba Tibi Dicenda —


 リビングの中央に

 黒い艶が

 静かに座っている

 ヤマハの

 グランドピアノCFXは

 存在感があるのに

 静かに佇み

 夜の照明を受けて

 天板の曲線が

 やわらかく

 息をして見える

 私は

 玄関で

 靴を脱いだまま

 しばらくそこから

 動けなかった

 私の演奏を

  まだ?

 と待ってる楽器が

 こんなに大きな

  “二人の未来”

 に見えるなんて


   「……あや様」


 りゅう君が

 いつもの声量で

 私の背中に

 言葉を置く


   「驚いた?」


 私は

 驚きすぎると

 声が出ない

 だから

 頷いた

 頷き方がきっと

 少し幼かったかな?


   「ここには以前から

    ……二人にとっての結婚記念日

    &あや様のHappy Birthdayに……」


 隆也は

 グランドピアノを指し


   「あや様と私の

    “音”

    が置ける場所が

    ほしいって思って」


  “音が置ける場所”

 私は胸の奥が

 じわっと

 温かくなるのを感じた


   「でも

    ……隆也

    これ……」

 挿絵(By みてみん)

 私は言いかけ

 飲み込む

 私の

  “条件”

 が列を作り始めたから

 すると隆也が

 先に言う


   「べき?

    って顔してる!」

 

 私は

 思わず目を瞬いた


   「してない!」

   「してる

    あや様

    してる時

    眉のここが

    ちょっとだけ……」


 隆也は

 自身の眉間を指して微笑む

 その微笑み方

 私を責めない

 微笑み方だと分かる

 だから私は

 反論の鎧を

 着ないでいられた


   「……だって

    アップライトで……

    ……私ちゃんと……」

   「ちゃんと

    じゃなくていい」


 りゅう君は

 私の言葉を奪わずに

 すっと間に置き


   「大丈夫!

    あや様の実力は学生時代に

    実証済み

    あや様が

    弾きたい時に弾ければ

    それでいい!」


 私はその瞬間

 気づく

 あなたは

 私に

  “音”

 を二人で奏でよ!

 上手く弾くべき

 ではなく

 二人で音を自由に

 それは

 私がずっと

 欲しかった……

 

 私はそっと

 鍵盤の前へ

 チェアに

 静かに座る

 指輪が

 黒い天板の光を

 拾って小さく瞬く

 私は

 静かに息を吸う

 ピアノの前で

 息の位置が変わり

 胸の奥の

 好奇心の扉が

 開き始める

 挿絵(By みてみん)

 久方の

 懐かしいナンバー

 りゅう君と学生時代

 よくセッションをした曲


  Art Blakey & Jazz Messengers の Moanin`


 りゅう君は

 グランドピアノの隣りに

 セットしてある

 ドラムスに

  “ここにいる”

 という事実が

 私の演奏の

 入口を照らす

 澄んだ音が

 部屋を真っ直ぐに

 歩いていく

 思っていたよりも

 音は優しく

 丸めるみたいに


   「……いい音……」


 りゅう君が

 小さく言う

 私はうふふ……

 でも

 いい音なのは

 ピアノで

 私の腕前ではないのに

 でも

 隆也はきっと

 分かっていて

 あえてそう言うのだ。

 私が自身を責めないように

 音を肯定する

 私はフレーズを弾き

 ジャズのコードのかけら

 それは

 昨夜の食卓で

 流れていた曲の断片

 鍵盤は冷たくも

 でも音は温かい

 私は不思議な

 安心を覚え

 音は

 正解を要求せず

 音は

 途中で迷っても

 次の一音で戻る

 それは

 私の人生にも

 欲しかった一瞬


   「……あや様」


 隆也が言う


   「私のドラムス

    いくよ!」


 私は振り返る


   「いいわよ

    ついてこれる?」

   「久方の

    セッションだね」

 

 りゅう君の

 ふわっと軽い返事

 私はその軽さに救われる

 重大なものを

 重大に扱いすぎないし

 でも雑にしない

 この絶妙な温度が

 りゅう君の流儀

 私を驚かせないように

 段取りを整えて

 でも押し付けなく

 でもでも

 りゅう君の

 スティックを持った手が

 少しだけ震えている

 挿絵(By みてみん) 

 私はそれを見て

 胸が締まる

 あなたも

 本当は怖いのだ

 音を出すのも

 言葉を出すのも

 それでも出す

 私の隣で


   「いくよ」


 隆也が言う

 ハイハットが

 チッ、チッ、

 と小さな星のように鳴り

 バスドラが

 心臓の下に

  “床”を

 作り

 スネアが

 会話の句読点みたいに入る

 私は

 久方の

 鍵盤の上で

 指が迷いそう

 でも迷っていい

 迷っても

 りゅう君の

 ドラムが

 拍を守ってくれるし

 私が拍子を外しても

 戻れる場所がある

 その瞬間

 私は理解する

 食卓の音楽も

 いま目の前のセッションも

 同じ構造

 隆也は

 私の言葉が詰まる時

 拍を保って待ってくれる

 私が

 沈黙で宙吊りになる時

 床を作ってくれる

 正しさで裁かない

 温度で受け止める

 私は

 ふと

 言葉が出てしまった

 音に押されて

 言葉がこぼれた


   「……隆也……」


 ドラムスが

 一瞬だけ弱くなる

 隆也が

 私を見つめ

 目が真剣で

 でも優しい。


   「うん」

 

 私は息を吸う

 言葉の前に

 音がある

 音が

 私をゆるめ

 だから今夜は

 言葉を

  “選ぶ”

 のではなく

 私なりの

 言葉のまま

 差し出せる気が……


   「私ね

    ……あなたに

    伝えたい言葉があるの」

 挿絵(By みてみん)

 りゅう君は

 スティックを

 止めないまま

 ほんの少しだけ

 音量を落とし

  聞くための

  音に変える

 その器用さに

 私は

 また泣きそうになる


   「うん

    聞かせて」


 私は

 鍵盤から

 手を離さず

 手を離すと

 逃げそうだから

 音の上で

 合わせ言葉を置く


   「ありがとう」


 たった五文字で

 胸が最高潮

 私は今まで

 ありがとうを

  “仕事の礼儀”

 としては言えたのに

 人生の中心へ

 向けて言うのは……

 でも今夜

 私は思う

 お返しする形が

  “言葉”

 でしかないから

 言うのね


   「あなたが

    ……私の怖さを

    責めないで

    いてくれて

    ありがとう」

   「うん」

 

 隆也が頷く

 ドラムのリズムが

 やさしく揺れる


   「私ね

    結婚してから……

    “失敗してもいい”

    って思えるようになった」

 

 言いながら

 涙がにじむ


   「失敗したら

    一人で直さなきゃ

    って思ってた

    ずっと

    でも今は

    ……一緒に整えていけばいい

    って思える」


 隆也は演奏を中断して

 スティックを置き

 私のそばに来る

 握るのではなく

 触れる

 指先に

 それは

 いつもと同じ

 私の意思を

 尊重した触れ方


   「……あや様」

   「うん」

   「その言葉

    嬉しい」

   「嬉しい?」

   「うん

    怖い

    って言ってくれるのも

    嬉しい

    信じて

    くれてるってことだから」

 

 私は

 目頭が熱くなる

 怖いと言えることが

 信頼

 隆也は

 怖さを

 差し出すことを

  「一緒に持つ」

 形に変える

 私は

 今宵の言葉を

 言う前に

 少しにけり

 涙の手前の

 変な変な微笑

 隆也は

 それも受け止める


   「りゅう君

    ……大好き」


 言った途端に

 世界が静かになる

 でも

 もう取り消さなくてもいい

 私は今夜

 りゅう君の妻としての言葉を

 置けたから

 隆也は

 少し目を潤ませて

 微笑みながら


   「私も

    あや様が大好き」


 その返事が

 正しさではなく

 温度で返してくれる

 私は

 鍵盤に指を戻し

 今度は

  Top Of The World

 隆也は

 小さく合わて

 歌ってくれる

 出来栄えは……

 まあまあかな?

 でも

 戻れる

 戻してくれる

 拍を外しても

 また一緒に戻れる

 それが

 私の欲しかった

  “二人並んでの家族”

 の形なのだと

 今夜

 また改めて

 実感したのです……

 挿絵(By みてみん)

 言葉は残る

 残るから怖い。

 でも私は

 今夜

 残ることが

 怖いのではなく

 残した言葉を

 一人で抱えることが

 怖かったのだと知った。

 りゅう君は

 言葉を抱える手を

 私の隣に

 増やしてくれた

 私が間違えても

 私が泣いても

 私が拍を外しても

 戻れる場所を

 音で作ってくれる

 ドラムスの響き

 ジャズの間奏

 沈黙の優しさ

 そして

 ヤマハの

 グランドピアノCFXは

 私のための贈り物

 であると同時に

  「ここで一緒に生きよう」

 という言葉の

 代わりだった

 言葉にできないものを

 音で言ってくれた

 私は

 その音に

 ありがとう

 と

 大好きと

 を重ねた

 それは

 条文では

 測れない

 けれど確かな

 私、綾音と隆也の契約

 私達の生活の契約だったのだと思う

 次回

 ✨第048季 今日はあなたのために✨

 今度は

 私が

 隆也へ

  “返す”

 のではなく

  “贈る”

 番

 等価交換のためではなく

 義務を埋めるためでもない

 ただ

 あなたが

 私にくれた心へ

 私も

 音や温度を

 そっと置いてみたい

 そう

 あなたの

 疲れをほどく一皿

 あなたの

 背中を軽くする一言

 あなたの

 にこっ!

 を引き出す小さな仕掛け

 今日という一日を

 あなたのために

 丁寧に扱う

 そのことが

 私にとって

 新しい愛の

 レッスンになる


  隆也


 私が

 あなたに

 伝えた言葉は

 まだ足りない

 でも

 足りないままでもいい

 足りない分は

 これからの

 日々で

 少しずつ書き足して

 いけばいいのだから……

 挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ