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⭐️色褪せることのない絆⭐️ ✨️EMPATHY 大隅綾音と魚住隆也✨️  作者: 詩野忍


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47/59

✨️第043季 家族の話をしよう✨️

 挿絵(By みてみん)  

  

  「女の子がほしいね!」


 その言葉が

 りゅう君の

 口から滑り出た瞬間

 私は一度だけ呼吸を忘れた

 忘れたというより

 息がふわりと宙に浮いた

 蒲郡の夜は

 潮の匂いがやわらかい

 新居の窓を

 少しだけ開けていると

 遠くの波の音が

 まるで

  「うん」

 と頷くように

 一定のリズムで

 届いてくる

 家はまだ

 新しい木の香りを

 まとっていて

 梁も柱も床も

 私とりゅう君の言葉を

 聞く準備をしているみたいで

 今と未来をつなぎ

 私の中の不安と希望を

 同じ光の下に並べてくれる


 私は日々

 手続きの文章を読み

 各種承認を確認し

 運用の正しさを遵守する

 だからこそ

 人生の大きな言葉ほど

 どこかで

  「怖い」

 形にしてしまうと

 失敗したら?

 一人で解決しなければ!

 けれど

 りゅう君は違う

 特別なことほど

 普段の声量で

 真っ向に挑戦し

 まっすぐに向き合う

 その発せられる

 言葉は重いのに

 なぜか軽い

 重さの正体が

  「責任」

 ではなく

  「優しさ」

 だと

 りゅう君の言い方が

 教えてくれる


 女の子

 私は

 三姉妹の末娘

 少し長い響きが

 私の胸に灯る

 私は

 未来を想像するのが

 得意じゃないはずなのに

 今夜は想像が

 勝手に育ってしまう

 未来の私とりゅう君の間に

 小さな手

 小さな靴下

 髪を結ぶ朝の時間

 名前の候補を

 ノートに書いては消して

 消してはくす!っの時間

 そして

 そのすべての前にある

 ひとつの問い

 私達の

  「家族」

 という言葉を

 どう抱いていく?

 りゅう君の隣で

 私は少しずつ成長していく

 背伸びをしない成長

 完璧でいようとしない成長

 分からないことを

  「分からない」

 と言える成長

 挿絵(By みてみん)

 今夜

 家族の話は

 私とりゅうの

 大切な未来の話

 だから

 私は言葉にしてみる

 二人の大切な入口の

  「次の一歩」

 を踏み出そう!


 潮騒は

 祝福ではなく

 合図だった

 生まれた日と

 家族になる日を

 重ねた私達は

 次に

 ともに歩む

 小さな足音を

 夢に聴く

 名前のない願いが

 木の香りにほどけ

 梁の影に座る

  「女の子がほしいね」

 その声は

 未来の扉に向けて

 ただ

 私の隣に

 そっと置かれ

 私は

 息を吸い

 息を吐く

 ろうそくを消す息で

 誓いを交わした息で

  「うん」

 と

 今宵も答える

 家族は

 完成じゃない

 毎日の

「おはよう」

 「ただいま」

 「大丈夫?」

 小さな

 署名の連続で

 生まれ続ける

 静寂の

 空間のリビングの夜

 私たちは

 まだ見ぬ

 誰かのために

 同じ温度を

 つくり始め

 語る……

 挿絵(By みてみん) 

   

   「女の子がほしいね!」


 りゅう君が言ったのは

 一緒に夕飯の

 片付けが終わって

 キッチンの

 照明だけを残して

 リビングの

 灯りを落とした頃

 木の家は夜になると

 昼よりも音が澄む

 柱や梁の床のきしみも

 冷蔵庫の小さな駆動音も

 すべてが

  「生活の輪郭」

 として聞こえてくる

 私はソファの端で

 膝を抱えるように座り

 りゅう君は

 マグカップを

 二つ持って戻り

 ふわりと上がる

 甘い香り

 たぶんカモミール

 りゅう君の

  「眠れるように」

 という配慮が

 いつも

 私の緊張を一段緩める


   「……女の子?」


 私は聞き返した

 確認というより

 味わい直したかった

 口の中で言葉を転がし

 響きの

 温度を確かめたかった


   「うん

    あや様に似た女の子……

    ……そう……

    あや様のやさしさと

    ちょっと強い目を持った子」


 りゅう君は微笑む

 微笑みの中の奥が

 真剣なのが分かる

 りゅう君はいつもそう

 冗談の形を借りて

 ストレートに

 核心を置く

 私は少しだけ

 胸が締め付けられる

 未来の話は

 うれしい

 でも

 うれしさの横に

 怖さが並ぶ

 挿絵(By みてみん)

   「りゅう君……

    それ

    急に言うね」

   「急だった?」

   「ううん

    ……急じゃない

    多分

    ずっと私の心の中にも

    あったの

    私が

    見ないふりしてただけ」


 私自身で言って

 少し驚いた

 私はいつも

 気持ちを

 整えてから

 言葉にしたい

 整理して

 分類して

 運用可能な形にしてから

 でないと口に出せない

 でも

 家族の話は

 運用じゃない

 正しさだけでは扱えない

 りゅう君は

 カップをテーブルに置いて

 私の方へ体を向けた

 正面から

 逃げない姿勢


   「ね!

    家族の話

    しよう!

    怖いなら

    怖いも含めて……」


 その言い方が

 私を救う

 怖いのはだめ

 ではなく

 怖いのは当然

 にしてくれる


 私は息を吸って

 吐いた

 窓の外の海風が

 呼吸に合わせて揺れる


   「……私……

    ちゃんと

    ママになれるかな……?」

 挿絵(By みてみん)

 言ってしまった瞬間

 頬喉が熱くなった

 恥ずかしい答え

 でも

 恥ずかしいことほど

 結婚してからは

 言わなきゃ

 いけない気がして


   「大丈夫!

    なれるよ!」


 りゅう君は

 少しだけ間を

 置いてから

 その間が

 りゅう君の誠実さ


   「心配ないに!

    ……一緒になって

    私がいる!

    あや様の両親がいて下さる 

    あや様の二人のお姉様もいて下さる」


 私の

  「一人で完璧でいようとする」

 を痛いほど知っているから


   「私ね

    仕事で

    いろんな家族を見てる

    書類の向こう側の人生

    支援が必要な方もいるし

    家族って言葉は

    暖かいだけじゃなくて

    難しいって知ってる」

 挿絵(By みてみん)

 私は

 言いながら

 りゅう君に視線を……

 目がやさしく包む


   「名字のことも

    子どものことも……

    正しさだけで整えられないはず

    なのに私は

    正しさで整えようとしてしまう

    そうすると

    心が遅れて……」


 りゅう君は黙って

 耳を傾け

 黙って急がない

 その沈黙は私の味方


    「そうだよね」


 やがてりゅう君が頷く


   「あや様のおっしゃる事

    素敵ないいところ

    丁寧で

    壊さないように

    でも

    家族は……

    壊れないように

    触れるだけじゃ

    育たないときもある

    気がする……」

   「育たない……?」

   「ほら触って

    傷ついて

    直して

    また触る

    あや様と私

    未来の子ども達

    あや様が柱の傷を

     “暮らしの証拠”

    って言ったみたいに」


 私は胸がいっぱいになって

 カップに手を伸ばした

  温かい

 この温かさが

 私とりゅう君の

 これからの

 家族という名の

 レッスンなのね


   「女の子がほしいね

    って言ったのは

    ……私の願いだけじゃなく……」


 りゅう君は少し照れて

 視線を逸らしながら


    「多分

     あや様が

      “欲張りかな?”

     って言った時と同じ

     欲張りじゃなくて

     意味が重なるのが

     綺麗!

     だって思う」

 

 私は

 誕生日と結婚式が

 重なった日を思い出す

 潮騒の中で

  「はい」

 と言ったあの二音

 入口を越えた

 息の継ぎ目

  「意味が重なる……」

 私は繰り返し


   「家族って

    私達の人生の意味を

    さらに重ねる

    ってことなのかな?」

   「重ねる

    でも

    あや様と私

    重ね方は二人で選べる

    たとえば

    いつ頃がいい?

    どんな風に

    準備したい?とか」

 挿絵(By みてみん)

 準備

 その言葉に

 私の心が

 少し落ち着く

 私は準備が好き

 準備は怖さを

  「扱える形」

 にしてくれる


   「……私

    女の子がほしいって

    言われた時

    うれしかった

    すごく」


 私は正直に言う


   「でも同時に

    責任の重さを想像して

    足がすくむ

    私達の子が泣いたら

    私

    どうするのだろう?って」

 

 りゅう君は

 私の指先をそっと握り

 指輪の円の温度。

 誤差を整える手つき


   「大丈夫!」


 りゅう君は優しく


   「泣き

    微笑み

    怒る

    眠らない夜もある

    あや様が最適化して

    うまくいかない日もある

    私も教壇に立ち

    人の道を教えているのに

    家では全然ダメな日もある」


 私は思わず微笑み返し

 りゅう君が自身の

 弱さを先に出してくれると

 私も弱くいていいと思える


   「だからこそ……」


 りゅう君が続けて


   「あや様と私

    二人で

    泣いたら抱っこしよまい

    抱っこしても泣いたら

    抱っこしたまま

    一緒に歌を歌ってあげよう

    微笑んだら

    一緒に写真撮ろまい

    怒ったら

    どうしたん?

    とちゃんときこまい

    ……家族はそういう

     “毎日更新”

    で行こうよ!」


 毎日更新

 その言葉は

 私の仕事の文脈で

 冷たいはずなのに

 りゅう君が言うと温かい。

 契約の更新ではなく

 呼吸の更新。


   「うん……」


 私は頷く


   「その場だけの“はい”で完成させず

    毎日の“うん”で育て

    あや様と私の

    結婚の式と同かな?」


 りゅう君は

 嬉しそうに微笑む


    「そう

     だから

     女の子がほしいね!

     って言うのも

     完成じゃなくて

     あや様と私

     二人の未来を語る始まりの入口」

 挿絵(By みてみん)

 私はその言葉に

 胸の奥の扉が

 少し開くのを感じ

 入口をくぐる準備は

 特別な決断ではなく

 こうして

 二人で言葉を並べること


   「名前

    どうしようね」


 私はふいに言う

 私自身でも驚くほど自然に

 りゅう君は

 目を丸くして

 にこり!


   「もう名前の話?」

   「だって……

    想像しちゃったもん!」

   「実は私も

    あや様が抱っこして

    赤ちゃんが寝落ちし

    あや様の穏やかな目で

    赤ちゃんを見つめるまなざし

    ……それが

    すごく綺麗で素敵だろうなあ……」

   「やめて!

    恥ずかしい!」


 私もにこり!

 でもまた胸が熱くなる

  “綺麗で素敵”

 という言葉が

 また私の中に落ちる

 夜が更ける

 リビングの空間の

 静寂が深まり

 窓の外の潮騒は変わずゆらぐ

 未来の不確かさを

 少し受け止めながら

 私はふいに

 両親の事を思い

 二人の姉の事を思い

 りゅう君の従姉妹様の事を思い

 りゅう君の天国の御両親の事を思い

 家族は輪郭を広げるもの

 でも広げるには

 いっぱい

 話さなきゃいけない

 期待と心配が重なる場所へ

 私達は進む


   「りゅう君!」


 私は名前を呼ぶ

 呼び掛けは

 逃げ道を一本の道にし直す行為

 怖いけれど

 誠実さの端っこ


   「なーに?」


 りゅう君が答える

 普段の声量で

 逃げない声で


   「家族の話

    今日できてよかった!」

   「そうだね

    あや様!」

   「私

    まだ怖いけど……」

   「うん」

   「でも

    怖さごと

    一緒に持っていける気がするの」


 りゅう君は頷き

 私の手を

 もう一度握り直し


    「いつも一緒に

     あや様の怖さは

     私の怖さ

     だから二人でともに

     がんばろまい!」


 二人ともに

 その言葉が

 私の中の

  「孤独な責任」

 を解体していく

 二人家族は

 未来の誰かを迎え

 同時に

 私達が

 互いの弱さを迎えること

 私は

 新居の木の香りを吸い込み

 床は足音を数え

 柱や梁は微笑みを覚え

 まだ見ぬ小さな足音のために

 この家は静かに息を整え

 待ってくれている

 そして私は

 心の中でそっと

  「どうぞよろしく」

 香りが少しだけ深くなり

 私、大隅綾音と魚住隆也

  「どうぞよろしく!」

 挿絵(By みてみん)

 家族の話をした夜

 私は一つだけ確信した

 私たちは

  「未来を決めた」

 のではなく

 「未来について語り始めた」

 のだということ

 語り始めることは

 決めることよりも

 ずっと勇気がいる

 決めるとき

 人は一瞬で飛び越えられる

 けれど

 語り始めるとき

 人は自分の弱さと

 並んで歩かなければならない

 私は

 その並び方を

 りゅう君から学んでいる

  「女の子がほしいね!」

 その一言は

 夢のようで

 現実のようで

 どちらでもあり

 夢は

 現実に触れると形を変える

 でも形を変えることは

 壊れることではない

 木の家が住み始めてから

  「我が家の香り」

 を覚えるように

 私達の夢も

 これからの

 未来の暮らしの

 温度として覚えていく

 未来の赤ちゃんの

 泣き声も

 にこ!顔も

 二人の寝不足の朝も

 二人のうまくいかない日も

 それらすべてが

 これからの

 二人の家族の呼吸になる


 次回

 ✨️第043季 婚姻届の実感✨️

 ペン先が紙に触れる音は

 誓いの言葉より小さいのに

 驚くほど重い

 名字のこと

 家族の輪郭

 両親の気持ち

 祝われる照れを

 感謝を返す責任へ

 変えた私が

 次に受け取る

  「実感」

 はどんな

 温度をしているのだろう

 りゅう君は

 きっと言うでしょう

 普段の声量で

 逃げない声で

   「あや様

    未だ見ぬ未来へ

    ともに歩もう!」

 私は息を整えて答えます

   「はい!――一緒に!」

 挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
隆也さんの言葉は綾音さんをすっぽり包み込んで、拝読しているこちらまでほっとします。 本当に素敵な関係ですね。 2人が家族になるところを見られて嬉しいです! 読ませていただき、ありがとうございました!
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