✨️第042季 結婚という名のFORMULA✨️
私の誕生日に
蒲郡クラシックホテルにて
潮騒の中で
“夫婦”
になる日
誕生日は
私にとって
「祝われる日」
というより
「生きてきた時間を静かに数え直す日」
だった
子どもの頃は
ケーキのろうそくの数だけ
無邪気に笑えたのに
大人になるほど私は
自分の年齢を祝うことが
少し照れくさくなっていった
ちゃんと
生きてきた
だろうか?
ちゃんと
誰かに優しく
できただろうか?
そんな反省会を
心の奥で
こっそりしてしまう
でも
今年の誕生日は違う
私の誕生日に
蒲郡クラシックホテルで
結婚の
チャペル式挙式と披露宴を開く
りゅう君が
この決定を口にした時
胸の中に灯ったのは
派手な興奮ではなく
深い静けさ
言葉の端を
丸くしてくれて
夕方の海風の温度が
私の背中をそっと押す
生まれた日と
家族になる日が重なる
ひとつの年の節目に
人生の向きが揃う
そんな日は
たぶん
祝われるために
あるのではなく
これからを
“選び直す”
ためにある
りゅう君は
特別なことを
特別な声で言う
人ではない
特別な事ほど
普段の声量で
逃げない声で言う
「この日にしよう」
その一言に
私は
自身の中の不安が
静かに
ほどけていくのを
感じた
誕生日は
私がこの世に
迎えられた日
結婚式は
私が
“私たち”
として迎えられる日
どちらも
受け取る
だけでは成立しない
受け取って
お返しする日
「はい」
たった二音で
でもその二音は
完成ではなく
これからの入口
木の家が完成して
終わりではなく
住み始めてから
毎日少しずつ
生まれ続けるように
結婚も
式で終わらない
そこから毎日
私とりゅう君の呼吸が
同じ温度に調律されていく
誕生日のろうそくを
吹き消す息と
誓いの
言葉を交わす息は
きっと同じ
短くて
温かくて
確かに
生きている
入口は
扉ではなく
息の継ぎ目
私は
その継ぎ目を
越える準備を
今日から少しずつ
整えていく
誕生日の風は
潮の香りをまとって
私の頬を撫でる
生まれた日と
家族になる日が
同じ暦に並ぶ
私は
祝われるために
立つのではなく
選び直す
ために立つ
白いチャペル
花の静けさ
拍手の波
りゅう君
あなたは
普段の声量で
逃げない声で言う
「結婚しよう」
私は
ろうそくを
消すときの息で
二音を差し出す
「はい」
その二音は
指輪の円のように
終わりをつくらず
毎日を回し始める
潮騒が
私達の署名を
ゆっくり
乾かしていく
誕生日と結婚式を
同じ日にする
と決めた時
私は一瞬だけ迷った
「欲張りかな?」
そう言いかけた私に
りゅう君は微笑丸み
首を横に振り
「欲張りじゃない!
意味が重なるって
きれいだと思う」
“きれい”
その言葉が
私の胸の奥にすとん
と落ちた
私はいつも
正しさで物事を
整えようとしてしまう
合理的で
手続きが破綻しないように
誰かが困らないように
時間の層と向き合う私の仕事は
誠実さと慎重さを必要とする
でも
結婚は
“正しい運用”
だけではできない
きれいに重なる意味を
きれいだと受け取る感性が要る
そして
りゅう君はその感性を
私の隣で
いつも思い出させてくれる
蒲郡クラシックホテルへ
準備のために訪問
私は門をくぐる瞬間に
息を吸う
未来へ向かうステップ
海風が
「がんばって!大丈夫!」
と応援してくれているようで
私は思わず
「うん!」
そして
私誕生日は
私の原点
その二つを重ね
結婚するということは
過去を断ち切って
新しい世界へ
行くのではなく
過去を抱いたまま
未来へ歩く
ということなのだと
蒲郡クラッシックホテルの
ロビーの木の香りは
長い時間が磨いた
深い香り
何人もの方々の
“おめでとう!”
と
“ありがとう”
を見守り
静かに
落ち着いた
佇まいの香り
私は思う
木は人より長く呼吸する
だからこそ
人の短い焦りを受け止め
建物は
私たちの短い人生を
少し長い視点で
見守ってくれる
チャペルへ
案内される途中
廊下の絨毯を踏む音が
小さく沈む
私はその沈み方に
なぜか安心した
足音が
大きく響かないことは
恥ずかしがりの
私にとって救い
「あや様
緊張してる?」
りゅう君が覗き込む
「してない!
って言いたいけど……してる!」
「私も実は
緊張している!」
りゅう君の言葉には
いつも
“優しさと思いやり”
がある
頑張りすぎなくていい
背伸びしなくていい
緊張してもいい
迷ってもいい
でも
一人にしない
そのスタンスが
これから結婚する
私達の基礎になるのだ
と私は感じている
チャペルの扉が
開いた時
まばゆい白い光が
目に入り
まぶしいのに
柔らかい
花の香りが
言葉より先に心を整える
私はふと
誕生日のろうそくを
思い出し
火を灯し
願い事をして
息を吸い吹き消す
その一連の儀式は
何歳になっても少しだけ神聖
息を吸う時
私は自身が生きていることを意識する
吐く時
私は世界に触れる
結婚の誓いも
きっと同じ……
息を
自身を整え
言葉で
世界に触れる
スタッフさんが説明する
挙式の流れに
入場
誓いの言葉
指輪の交換
署名
etc……
私は
その順番を聞きながら
どうしても
“失敗しないこと”
を考えてしまう
歩く速度
ドレスの裾
タイミング
写真写り……
すると
りゅう君が
小さく言う
「あや様
今
最適化してる……?」
「だって……
私
こういうの不器用だし……」
「大丈夫!
不器用でもいい
あや様と私
二人で共同で!」
二人で
その言葉は
私の中の
頑丈な緊張を
少し解体してくれる
私は
完璧でいよう
とする癖が
傷がつくことを
怖れ
けれど
新居の柱に触れた時
私は未来を
許す木の表面を感じ
いずれ傷がつく日が来る
家具をぶつけたり
急いで角を曲がって
肘をぶつけたり
それは失敗ではなく
暮らしの証拠
結婚の式も
そうなのかもしれない
少しの噛み合わなさも
緊張で声が震えることも
涙で言葉が詰まることも
失敗ではなく
生きている証拠
披露宴会場では
現実が整然と並び
席次
お花
お料理
グラス
思い出の写真
父母への手紙
etc……
私は思う
披露宴は
“祝われる場”
であると同時に
“感謝を返す場”
だと
来てくださる方々は
時間を私達に
差し出してくれる
その時間は
どんな贈り物より重い
私は
誕生日にいつも感じていた
「祝ってもらうことの照れ」
をここでは
「受け取ったものを返す責任」
として受け止め直す
「あや様
誕生日って……」
りゅう君が
スケジュールを閉じながら言う
「君が生まれてくれた日だよね」
「うん」
「それは
あや様の家族にとっても
特別な日だし
これからの私にとっても特別になる」
私は胸が熱くなった
誕生日は私だけのものじゃない
両親が私を迎えた日
家族が私を抱いた日
その日に
結婚式をするということは
私が受け取ってきた
愛情の上に
私達が新しい愛情を
重ねるということ
私はふいに
両親の顔が浮かび
実家の近くに建てた家
二重にある
“戻れる場所”
その安心と
甘えの境界線
結婚は
家族の輪郭を少し変える
でも変えることは
壊すことではなく
輪郭を広げること
帰り際
蒲郡クラッシックホテルを
後にし
外に出ると
夕方の海風が吹き
潮騒が遠くで鳴っている
私は立ち止まって
空を見上げ
子どもの頃から
見慣れた空の色なのに
今日は少し違って見え
りゅう君が隣で言う
「この日にしよう!」
もう一度
普段の声量で
本気の真顔で
私はおかしくて
「何回言うの?」
「何回でも言う!
言葉は
繰り返していいと思う」
それは
✨️第041季✨️で
りゅう君が言った
言葉に似ていて
毎朝の二人の日課みたいに
繰り返していい
結婚は
一度の
“はい!”
で完成しない
毎日の
“うん!”
で育つ
その夜二人
新居のリビングに座り
私は小さくつぶやく
「私の誕生日に結婚するんだよ」
家は返事をしない
でも香りが
少しだけ深くなる気がした
りゅう君が私の肩に手を置く
その手の温度が
指輪の日の温度に似ていた
誤差を整える手つき
穏やかにに直す手つき
未来を許す手つき
「あや様」
りゅうが私の名前を呼ぶ
呼び掛けあう
という行為が
距離を縮めるだけじゃない
ことを私は知っている
逃げ道を一本の道にし直すこと
怖いけれど
誠実さの端っこ
「うん
なーに?」
私が返すと
りゅう君は
普段の声量で言う
「結婚しよう」
私は息を吸う
ろうそくを
吹き消す前の
あの一瞬の静けさで
そして二音を差し出す
「はい」
その二音は
祝われるための
答えではなく
これからを
選び直すための答へ
誕生日&結婚
の暦に刻まれた
その日が
私、大隅綾音と魚住
の
“毎日”
の最初のページになる……
誕生日に
結婚式を挙げる
と決めたことで
私は
「祝われること」
の意味を少し変えて
受け止め
られるようになり
祝われる
というのは
誰かが
私を
見つけてくれること
私の
存在を肯定してくれること
そして結婚は
その肯定を
“二人で更新し続ける契約”
みたいなもの
だと感じて
条文や判例のように
固い契約ではなく
息づかいで結ばれる契約
毎朝の
「おはよう」
で更新され
夜の
「おやすみ」
で締結される
小さな署名の連続
蒲郡クラシックホテルの
白いチャペルは
きっと
私の誕生日の
記憶の上に
新しい記憶を
重ねてくれるでしょう
潮の香り
花の静けさ
拍手の波
でも
私は知っています
式が終わっても
結婚は終わらない
むしろそ
こから始まる
住み始めた
家が少しずつ
“我が家の香り”
へ変わっていくように
私達の関係も
毎日の暮らしで
香りを覚えていく
ただ
入口を越えると
現実は
もう一段深い問いを
差し出してきます
名字のこと
親族の距離
両親の気持ち
支える
支えられるの
バランス
そして何より
私たちは
「ふたり」
から
「家族」
へ向かう
家族は優しい
けれど優しいからこそ
近すぎて
言いにくさも生まれる
期待と心配が重なる
その重なりを
どう抱いていくのか
私とりゅう君の歩幅が
どんなふうに
家族の時間へ
接続していくのか
次回
✨️第043季 家族の話をしよう✨️
私は
誕生日の余韻が
まだ胸に残るまま
りゅう君と並んで
「家族」
という長い時間の層に
手を伸ばします
試されるためではなく
確かめるために
正しさだけではなく
優しさで
そして
りゅう君は
きっと言うでしょう
普段の声量で
逃げない声で
「綾音
話そう!」
私は息を整えて答えます
「はい!
一緒に!」




